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高校時代に戻った俺が同じ道を歩まないためにすべきこと  作者: 夜月紅輝


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第138話 束の間の茶番

 俺が貰った台本を読んだ翌日の金曜日。

 劇の台本を書いた張本人に内容を問い質そうとしたがあいにくの不在。

 仕方なく一足先に家に戻ってくると、玄関で見知らぬローファーを見つけた。

 奇麗に並べられたそれはサイズにして如何にも小さい。

 21ンチか22センチぐらいだろうか。


 玲子さんとゲンキングの靴のサイズなんて知らない。

 だが、足のサイズと身長は関係性があるだかなんだかを聞いたことがある。

 とすると、このぐらいのサイズではかなり身長が低いと思われる。


「にしても、この時間帯なら母さんが買い物に行ってるはずだけど」


 この靴から推測すると該当者は一人だ。

 しかし、過去を振り返ってあの人が母さんと面識があっただろうか。

 少なくとも、俺が覚えている記憶の中には存在しない。


 ちょっとだけ靴の存在を不気味に感じながら、リビングの方を覗いてみる。

 少しだけ開けたドアの隙間から中を見たが、特に誰かいるわけではなさそうだ。

 となると、もういる場所は一つになるじゃん。


 俺は足を音を殺しながら階段を上っていく。

 辿り着いた自分の部屋の前でゆっくりと深呼吸をした。

 なぜ俺が自分の部屋に入るだけで緊張せにゃならんのか。

 ゆっくりと手にかけたドアノブを慎重にひねる。

 そして、犯人がいる部屋に突入する刑事ばりの勢いで突入した。


「......」


 人のベッドの上で掛布団を抱きしめてる永久先輩がいた。

 予想通りというか、もはやわかりきっていたというか。

 無言で見つめ合う時間が数秒だけ流れる。

 先輩の表情がアハムービーやってるようにゆっくり赤面していく。


 俺はゆっくりドアを閉めた。一拍置いた後、再びドアを開けて入る。

 まるで俺が帰ってくるのずっと待ってたかのように済ましたかの先輩が座っている。


「遅かったわね、待ちくたびれたわ」


「それで乗り切れると思ってるのが凄い」


 もちろん、先輩が装っているのは見てくれだけだ。

 彼女のすぐ背後にある掛布団は誰かが使っていたかのように生気を宿している。

 耳も若干赤いので精一杯取り繕ってる感じだろう。


 俺は肩にかけていたスクールバッグを降ろすと先輩の前に座る。

 先輩がベッドに座っているせいで構図的に見上げる形に。

 なんだか上下関係が構築されたような感じが嫌なんですが。

 いや、先輩の方が年上ではあるんだけどね?


「ハァ、このワタシを待たせるなんていい度胸ね」


「人の家に勝手に居座っていてよく言う」


「それに関しては問題ないわ。ちゃんとあなたのお義母様の方に許可を取ってるから」


 ちょ、お母様セキュリティー! 流石に誰もいない家に他人を残すのはないって!


「あれ? 先輩は母さんと面識ありましたっけ」


「直接的な面識は先ほどが初めてよ。一応、母親同士で知り合いだったようだから。

 もちろん、ワタシだって常識があるから人様の家に居座るつもりはなかったわ。

 だけど、どうせすぐに息子が帰ってくるからとかで家にいるよう促されたの」


 お母様セキュリティー!!(2回目)。

 いくらママ友繋がりとはいえ、知らないお嬢さんを勝手に野郎の家にあげてはいけない!


 我が母ながら警戒心が無さ過ぎる。人が良いのはいいけど、それはそれ!

 母さん、きっと俺の名前が出されただけで友達判定して家に招き入れるのではなかろうか。

 これに関しては一家言を持っているので言わせてもらおう。もちろん、相手は母さんだ。


「で、なんで俺の家に来たんですか?」


 母さんのセキュリティの甘さに関してはこの辺にして本題に入ろう。

 空き部屋にいると思われた先輩が俺の家にいる。

 明らかに用が無ければ取らない行動だ。

 その質問に対し、先輩はキョトンとした顔をする。

 まるで「何その無意味な質問は」とでも言いたげだ。


「台本の内容を確認するためでしょ?」


「それももちろんありますけど、玲子さんみたいに突然いるから」


「私の前で別の女の話をしないで貰える? それもストーカー女の話なんて」


 ストーカーて。確かに、時折玲子さんの挙動は意味不明だし、若干不気味なほどに近くにいることはあるけど。


「玲子さんはストーカーなんかじゃ――」


「心当たりは無くは無いでしょ」


「.......」


 見透かしている。完全にこっちの思考回路を読み切っている。

 あるよ。正直、あるよ。だけど、それを認めちゃいけない感じもあってね。

 だって、それだと玲子さんなんかの人物が俺をストーカーする理由がわからないじゃないか。


「それにしゃべり方もなんかキャラ被ってるのよ。大人びた感じとか特に。

 私の方が先輩なんだから譲りなさいっての」


 先輩のそういうところは子供っぽいですよ。

 というか、先輩の素はそっちじゃないでしょうに。


「先輩もいい加減前の感じに戻したらどうですか?

 前の先輩がどんな感じだったかはわからないですけど、もう無理にそのキャラを演じなければいいと思うんですが」


「そうは言われてももう随分と長い事この感じでやってきてるから今更というか......それに元の感じがどんなだったか思い出せないから、今となってはこっちの方が楽なのよ」


 という先輩の意見に対し、俺は腕を組む。

 少しだけ考えて試しに一つ提案してみた。


「先輩って妹でブラコンだったんでしょ?」


「兄さんを尊敬していたって言って。それじゃ、なんだか意味合い変わりそうじゃない」


「まぁまぁ。でも、前に先輩の過去を聞いてた感じ、ずっとお兄ちゃんこだったじゃないですか。

 だったら、その時の気持ちを思い出して振る舞ってみたらどうですか?」


「拓海君を兄さんに見立てて演じろと?」


「そこまでは言ってないっす」


 うわっ、ものすごい蔑まれた目で見られた。

 一部の人には絶大な威力がある表情だ。

 俺も一部M因子を持っていたのか、「ほぉ」と思ってしまった。


「用はそれぐらいフレンドリーになればいいんじゃないかって。

 そうすれば、先輩もボッチから回避できると思いますよ」


「言うようになったじゃない。言っておくけどワタシは――」


「二年生に限りますよ」


「......」


 やっぱボッチじゃないか。よく見栄を張ろうとしたな。

 まぁ、急にキャラ変したら「どうしたコイツ?」的な目で見られる可能性も十分にあり得るし、先輩がそんなリスクを背負うとは思えないが。


「お......」


「ん?」


「お、お兄ちゃん......」


「おぉ......」


 恥ずかしそうに真っ赤にした顔。恥辱で潤んだ瞳。

 そんでもって見た目もあいまったお兄ちゃん呼び。

 今にも一部の野郎どもの性癖を拗らせそうだ。

 俺も思わず声が出てしまった。

 一人っ子だから実は憧れてたんだよね、妹。


 俺が先輩を見続けていると先輩がプルプル震えだした。

 なんだろうかこの今にもフラストレーションが爆発する直前みたいな空気は。

 そう思った俺の認識は正しく、先輩はギリッと歯を噛み締めて腕を組んでふんぞり返った。


「で、これをやれば満足なのかしらお兄ちゃん?」


「ふ、ふぁ~~~~......」


 目、目が笑ってない。マジでガチで笑ってない。

 代わりに口角上がってるから異様な笑顔の圧を感じるし、表情も悪魔的な笑みになってる。

 や、やっべぇ......久々に先輩のガチの地雷を踏んだかも。


 ......いや、待て。俺は別に踏んでは無くないか?

 俺がしたのはあくまでやったらどうかの提案であって強制ではない。

 つまり、これをやったのは先輩の意思であって俺に責任は一切ない――


「さっさと本題に入るわよ、クソブタ君」


 俺の頭に足を置いた先輩がそのまま踏みつける。

 顔が一気に床に近づき、体勢は土下座そのもの。

 これはまぁ、拒否権ないわな。


「はい......」

読んでくださりありがとうございます(*'▽')


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