第132話 とりあえず一件落着?
前回までのあらすじ。
俺が感情ジェットコースターな大型犬である東大寺さんと一緒に話していると、野生の大型犬が現れた。
ネームはそれぞれ永久先輩と玲子さん。
瞬間、東大寺さんはそれぞれの大型犬の特性“威圧感”と“ロックオン”で行動力が下がり、さらに逃げられなくされた。
戦うことを余儀なくされた東大寺さんはその二匹相手にどう戦う!?
......と、某国民的ゲーム風を意識して振り返って見たが、実際はその状況説明よりも酷い。
なんたって東大寺さんのコマンドから“戦う”の選択肢が消えているのだから。
蛇に睨まれたカエルというべきか、存在感を小さくして固まってしまっている。
まぁ、始まりの街に魔王が、それも二体現れたようなものだもんな。
ちょいちょい二人に対して失礼な言い方をしてしまっているが、俺ですらそのような印象を受ける状況なんだから仕方ない。
「二人とも声を揃えてどうしたの?」
とりあえず、二人が東大寺さんと睨み合ってても仕方ないので話しかけてみた。
その質問に答えてくれたのは玲子さんだ。
「何でもないわ。強いて言えば、急なポッと出に全てを持ってかれるNTR展開にしたくなかっただけよ」
その言葉に続いて先輩が口を開いた。
「生半可な覚悟で同じ土俵に立たれちゃ困るのよ。
せっかく長い間列に並んでいたのに、急に横入りされたらムカつくでしょ? それと同じ」
俺はなんとなく関連させてしまいそうなそれらの言葉をあえてそのまま受け取った。
そっちの方が余計なことを考えず、これまで通りの日常が送れそうな気がしたから。
「......とりあえず、その威圧を消そうか。
二人とも美人なんだから怒ると余計に迫力でるのよ」
「美人?......そう、わかったわ」
「仕方ないからここはあなたの顔を立ててやるわ」
俺の言葉に二人の圧はフッと消える。
瞬間、近くにいた東大寺さんが衝撃を受けたような顔で俺と二人を見返してた。
なんかとんでもないプレイボーイな気分。柄じゃないのに。
しかし、先ほどの二人から圧が漏れ出てる状態だと東大寺さんの呼吸がままならないから。
さっきまでの彼女の顔酷かったから。真っ青で過呼吸になりかけてたし。
「それで今度は俺にもわかりやすいように話しかけてきた理由を教えてくれるんだよね?」
「ごめんなさい、視野が狭くなっていたわ。
私達が話しかけたのは単に『東大寺さんの勉強なら私達が見る』ってことを伝えようとしたことの呼びかけよ。他意はないわよ」
「ワタシは勉強なら自信を持って得意分野と言えるからね。
一年生の勉強程度なら教えることなんて造作もないわ」
との、二人から力強い言葉を受けた後に東大寺さんを見てみる。
「あるあるある.......絶対に他意ある。
むしろ、他意しかなか。いやぁ、怖い、いやぁ」
首を高速で左右に振りながら弱音を漏らしていた。
うん、前々から思ってたことだけど、東大寺さんって慣れた人だと気が大きくなるよね。
逆に、ほとんど関わりない人や初対面だとまず人見知りの子供のように縮こまってる。
さて、実際二人に任せた方が確実なんだけど......ここまでガチなビビり方をしていると、送り出してやる気分にもならないよなぁ。
とはいえ、美人が怒ると迫力があるだけの話であって、仲良くなれれば気さくな二人だ。
勇気を持って一歩を踏み出してみれば、それだけで見えてくる景色も変わってくる。
「東大寺さん、俺に教わるよりも二人に教わった方が確実に成績は上がると思うよ。
それに恐怖心が勝って誤解してるけど、実際はフレンドリーな二人だから」
「そ、そうと......?」
八の字眉をした東大寺さんが俺の言葉を受けて、ゆっくり視線を彼女にとっての強者に向ける。
東大寺さんは二人の真っ直ぐとした視線にビクッとしながら、目を左右に動かしてく。
しかし、意を決したように拳をギュッと握ると頭を下げた。
「よ、よろしくお願いします!」
「「っ!?」」
そんな東大寺さんの行動は二人にとっても意外だったようだ。
二人は顔を見合わせると、それぞれ彼女に声をかけた。
「そんなかしこまらなくたっていいわよ。頭を上げて」
「そうよ。まるでワタシ達があなたをイジメてるみたいに見えるじゃない」
実際、見えてましたけどね......口に出しては言わないけど。
とはいえ、この先輩と玲子さんの行動が俺に関係しての行動だとすれば、東大寺さんにとってとんだとばっちりだよな。
さすがに二人が誰かに迷惑かけてまで好意を主張してくるとは思えないけど。
俺の恋愛フィルターがここ最近二人に対してそのような目で見てしまってる影響だろうし。
「二人ともさっきみたいな威圧を出すのは無しな。やっぱり仲良くが一番だから」
「えぇ、肝に銘じるわ」
「わかったわよ」
一応、忠告だけはしておいたからこれでいいだろう。
後は東大寺さんにも無茶なことさせただろうしフォローも入れておこう。
「東大寺さんももし二人が妙なことをしたら俺に言ってくれていいから。
友達だとしても礼儀あり。ちゃんと注意するから」
「っ! わかったばい!」
東大寺さんの曇り顔が晴れていく。
俺という後ろ盾を得たからだろうか。
まぁ、俺の後ろにも隼人という後ろ盾がいるんだけどね。
「注意......ってことはおしおきされる? え、そんなことあっていいの!?」
「後学のため......そう、後学のためにこういう場合での怒った時の拓海君を知るのは大きいと思うわ」
玲子さんと先輩がそれぞれぶつくさ言っていた。
さすがに意識を東大寺さんに向けてたからハッキリと聞こえてない。
だが、なんだか不穏な気配だけは感じる。
「ま、二人に注意することなんてないだろうけどね。俺は二人を尊敬してるし」
「「っ!」」
それとなく釘を刺してみた。
すると、案の定あの二人はビクッとした反応する。
そして、済ました顔で「当然ね」「当たり前じゃない」とそれぞれ言葉にした。
ガッツリ目が泳いでましたけどね。一体何を考えてたのやら。
「あ、もうこんな時間か今日は少し用事あるから先に帰るよ」
俺はそれっぽく腕時計を見てこの場から立ち去る。
とりあえず、これで東大寺さんからの要求を跳ねのけられただろう。結果的にだけど。
さすがに大地の恋の手伝いをしようってのに俺が必要以上に関わりを持ったら本末転倒だ。
そういう意味では二人の登場はとても助かったと思う。
さて、問題はここからだ。
大地を実行委員に巻き込むのは容易だろうけど、ゲンキングの説得はどうか。
ただでさえ、玲子さんとクラスメイトを繋ぐ中間管理職のようなポジションにいるのに、俺の要望をさらに聞いてくれるだろうか。
さっきまではゲンキングなら友達のよしみで聞いてくれると思ったけど、さすがに恋愛絡みは面倒くさそうで断る可能性も微レ存。
とりあえず、帰り際にゲンキングの家の近く通ってみようか。
たぶんもう家でオフモードになってるだろうし、アポなしでも話ぐらい聞いてくれるはず。
******
―――ガールズサイド―――
拓海が小走りで廊下を移動していく姿を見送る永久、玲子、琴波の三人。
琴波はチラッと二人を見ると話しかけた。
「あ、あの......勉強教えてくれるってのは本当でしょうか?」
その質問に答えたのは玲子だ。
「え? えぇ、本当よ。もしかして、違ったの?」
「いいえ、滅相もございません! うちは早川君の頑張りを見習ってるだけなので。
うちも苦手な勉強を克服して、テストで点数を取って早川君に感謝の言葉を伝えたいんです。
うちが変われたのは早川君のおかげで......って、ご、ごめんなさい! しゃべりすぎました!」
「そんなことないわよ。偉いと思うわ」
「良い事じゃない。憧れの人に近づくための努力を続けるって姿勢には共感するわ」
玲子と永久は琴波の言葉に対し、素直に賛辞を贈った。
二人が浮かべる柔らかい笑みに琴波は目をパチクリ。
彼女は初めて肩の力が抜けた気がした。
「えへへ、ごめんなさい。お二人のことを誤解してました。本当に教えてくれるんですね」
琴波が見せる屈託ないの笑顔。
そんな純粋な輝きを見せるそれに邪な理由で割って入った玲子と永久は、二人してそっと目を逸らした。
「「.......当然よ」」
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