第128話 失言をした気がする
引き続き、東大寺さんの買い物中。
喫茶店から出た俺達はようやく目的地のショッピングモールに辿り着いた。
待ち合わせからそこまで行くには10分ほど。
対して、現在の経過時間は一時間だ。
別に後に予定が詰まっているわけじゃないからいいんだけど。
なんつーか、今日使うはずだったエネルギーをすでに半分は消費してる感じだ。
「そういえば、東大寺さんは何を買うつもりなの?」
エスカレーターに乗りながら東大寺さんに尋ねてみる。
すると、彼女はビクッと反応し、赤らめた顔で言った。
「じ、実は服が買いたくて......」
「服? そうなんだ。俺が買い物に付き合う分には構わないけど、それって俺で良かったの?」
女子の買い物に男子が付き合うなんて.......カップルじゃあるまいに。
それに俺の場合だと今はまだ永久先輩と付き合ってると思っている人の方が大半だろうし。
そう考えると俺の今の行動って実によくないものなんじゃないのか?
俺が一人で勝手に悩み始めると、東大寺さんは俺の質問に答えてくれた......どこか強い口調でもって。
「全然大丈夫だよ! そ、そりゃ、まだ早川君は恋人持ちって思っている人は多いだろうけど。
でも、うちと早川君の間にはそんな障害は無いっていうか!」
確かに、別にここにいるのは東大寺さんだけだし、嘘をついてるわけじゃないしな。
ま、俺が撒いた種だから俺がとやかく言われる分には仕方ないか。
それよりも今は雰囲気を盛り下げない様にする方が良いよな。
「わかった。東大寺さんが気にしないならそれでいこう。
だけど、俺が服の買い物について行ったところで荷物持ちにしかならないよ?」
「大丈夫! 早川君のセンスなら絶対うちに似合うから! というか、着るから!」
「先に予防線張ったのにそれを引きちぎって前に来ないで」
そんなこんなで俺は東大寺さんに連れられてアパレルショップにやってきた。
俺はてっきりここで東大寺さんはよく買い物しているのかと思いきや違った。
というのも、東大寺さんも俺にコソコソしながらスマホ見て場所確認してるのを知ってるから。
「ここだよ、ここなら可愛い服がいっぱいあるんだ!」
「へぇ~ってことは、今日は可愛い系の服を買うってこと?」
「かな?」
「俺に聞かれても」
ふむ、この感じ.......東大寺さんは友達に勧められて初めて来た人物と見た。
服を買いに行くという目的は設定したものの、どこで買うとかは決めてない。
そこで友達に聞いてみたら、適当な場所を振られた......みたいな反応。
そう推測が立つのもある程度理由はある。
というのも、今でこそちょっと陽が入ったような姿の東大寺さんの元の姿は、猫背でクラスの隅っこで仲の良い女子と話しているモブ属性の女子生徒だ。
実際、夏休み前と夏休み後のビフォーアフターはかなりのギャップが生まれている。
それはそれだけ元が陰の者であったという裏付けになる。
そして、東大寺さんは夏休みデビューをしたとはいえ、行動したのが夏休みだけなのであれば、まだまだ付け焼刃の範疇だろう。
でなければ、目的地についてあんな反応をすることはない。
ふむ、自分で理由を挙げてみれば、やはりこの回答が腑に落ちるな。
だけど、勘違いしないで欲しいのは、俺はその回答を東大寺さんに求めてイタズラに辱めようとしているわけではない。
東大寺さんは今でもオシャレな服を買いに来ることで、ファッションに対して勉強しているのだ。
そして、俺を呼んだのはおおよそ雑誌では聞けない生の声に耳を傾けたかったからだろう。
東大寺さんが教室で他の男子と話している姿をあまり見ることないし、ここ最近で仲良くなったのが俺だから誘いやすかったのだろう。
そうと決まれば俺のやることは一つ!
俺も伊達に永久先輩との疑似恋人でデートを重ねたわけじゃない!
創作物の資料と称してオシャレな店に連れまわされた経験が活きる時!
「これ何かどう?」
俺は積極的に前に出ると東大寺さんに似合いそうな清楚系の服を手に取った。
正直、女性のテリトリーであるこの領域で目立つ行動は取りたくない。
しかし、東大寺さんがしり込みして前に進めないというのなら、先に進んでここが安全な場所であるという証明をしてやれば進みやすいだろう。
要するに「どっちがいく理論」だ。
そこに男も女も関係ない。行かなきゃわからないことなら行って確かめよう。
それが俺がやり直してるコンセプトに近いものだから。
俺が服を持って立てば、その姿を東大寺さんがボーッとした様子で眺める。
どこか顔が赤いが、それは知ったかでここに来たのが恥ずかしかったからだろう。
「う、うん、好いとー......って、って、何ば漏らしとーとうち!
違う、違うけん! そげな意味やなか!」
「ん? どっち? この服は似合わないだろうって解釈でOK?」
「え、あ、違う違う! そん服は似合う! 絶対似合うばい! 似合う体に変えてみせるけん!」
「もはや最後の言葉に限っては気合の入れるベクトル違くない?」
とりあえず、選んだ服をキープしておくと、今度は東大寺さんに好きな色とか聞いてみた。
すると、東大寺さんもようやく店に入る勇気が出たのか俺の横に並ぶ。
それから東大寺さんの意見をもとに俺が男視点から助言した。
もちろん、俺の好みに近くなると思うがそこら辺は我慢して欲しい。
そんな時間を過ごしていくと気が付けば一時間近く店の中にいた。
体感としてはニ十分ぐらいと思ってたけど、意外に時間が経つのが早いな。
そう思ってる俺の横で東大寺さんは実に目をキラキラさせ、顔はホクホクだ。
正直、俺の手にはこれ全部買うつもりなのかという量があるが大丈夫なのだろうか。
「あの、東大寺さん? この服、全部買うつもり?
なんつーか、言い方悪いけど俺の癖みたいなのが混じってる感じがして、お試しなら多くても二着ぐらいがベストだと思うけど」
「大丈夫! この時のために無駄に溜め続けてきた貯金があるから!」
「そ、そうなんだ......一応確認しときな?
たぶん、思ってよりも予算オーバーしてると思うし」
「そんなことないよ! だって、この中には.......」
東大寺さんは財布の中身を確認した。
直後、あんなに楽しそうな東大寺さんの顔がみるみるうちに張り付いた笑みに変わった。
目の前で見てて、俺の豊かな想像力によって東大寺さんの体から色素が抜けていくのがわかる。
あらら、明日のジ〇ーみたいに真っ白く燃え尽きちまった。
「くぅ......この中から選ばないといけないなんて......」
「ガチ泣き!? ちょ、東大寺さん、感情のふり幅がやっぱおかしいって!」
ついに出てしまった心の声。
しかし、傷心モードの東大寺さんには届いてない模様。
とりあえず、東大寺さんを慰めるか。
「買えないのは仕方ないよ。でも、また一緒に選んであげるから。服をえら――」
「ほんなこつね?」
瞬間、東大寺さんが目の前で残像を残すような速度で俺の両肩を掴んできた。
もはや目の奥に狂気が見えそうな熱量のある目でもって聞いてくる。近い近い近い!
「うんうん、ホントホント。だから、落ち着いて離れようか」
「やったー! また一緒に来るー!」
そして、俺は東大寺さんの意見をもとに服を戻していく。
東大寺さんがウキウキした様子で会計しているのを待っていると、スマホに一通のメールが届いた。
『突然だが、来週お前に話したいことがある』
そんな文章を送ってきたのは大地からだった。
読んでくださりありがとうございます(*'▽')
良かったらブックマーク、評価お願いします




