第119話 新学期の恋心#4
いつから好きになったとかはわかる。
ハッキリと自覚したんな体育祭ん時や。
だばってん、片思いばし始めてから少し経って、落ち着いてからは少し考え方が変わった。
きっと好きになったんな林間学校ん時やったて思う。
林間学校......一年生として過ごす一年間ん中で一番最初ん行事や。
そん目的は主にクラスん中でん親睦ば深めること。
ばってん、そりゃ実際は建前でしかなくのう、もとから仲んよか人としか組まん。
うちだって莉子ちゃんや少し話せる子と組んだ。
だから、誰も見向きもせんやった――早川君んことは。
早川拓海君......好きは人ば悪う言いとうなかばってん、彼はクラスん中で浮いた存在やった。
そりゃ彼が素行ん悪かった人達と一緒であり、そん人達ん一人である金城君と仲が良かったけん。
仲が良かったちゅうと良うなかね。
だって、今思やあ早川君はずっと苦しそうな顔ばバレんごと隠しよったんやけん。
うちも彼んことば見て見らんふりばした。
ううん、きっとうちだけやなか。
うちが気付くぐらいやけんきっと皆気付いとー。
だばってん、関わらないたらん火ん粉は飛び掛からん。
莉子ちゃんすらもうちに「関わらない方がいい」ちゅうぐらいやったけん。
そげん素行ん悪か人達がようわからんでいなくなったんだけど、そりゃ結果的に早川君ん浮いた存在感ばより際立たしぇるだけやった。
そん素行ん悪か人達によって貼り付けられた弱者んレッテル。
莉子ちゃんから「人は自分よりも弱い存在を見ると落ち着く生き物」て言われたことがあった。
そん意味がよう分かった気がした。
一方で、早川君がずっとクラスに馴染もうと、そん存在ば認めてもらおうと頑張っとったことは知っとー。
苦手やったんやろう勉強ば休み時間ずっと金城君に教えてもらいながらしとったり、他ん子ん話から聞いたことではどうやら毎朝早う来て教室ん掃除ばしとったりと色々。
うちが直接見よったんな勉強やクラス委員長としてん仕事ぐらい。
ばってん、努力しとったちゅうとは見よってわかった。
誰に自慢ば言うわけでものう、変な噂ばする誰かば悪う言うわけでものう。
そげん姿ばカッコよかねって思うとったと今やったら思う。
やがて、そん努力は少しずつ実ば結び、早川君ん周りには彼ば認める人が増えていった。
久川さんや元気さん、薊君や日立君とか。
特に影響力が強かとは久川さんと元気さんやて思う。
久川さんなそん圧倒的なルックスと落ち着いたクールな印象から、学校ん中でアイドル的な存在。
元気さんも久川さんに引けば取らず、常に明るか態度に接しやすか雰囲気は男女ともにすごく人気がある。
そん二人が早川君ば認めたごと友達になっとった。
うち自身も下に見よったような存在やった早川君が、気が付きゃあ遥かずっと上におる。
努力し、認められ、クラスん上に立つ。通った過程は当たり前ん順序や。
だばってん、それば実際にこなしぇるかて言われりゃあ、そりゃまた別ん話になる。
やけん、凄かて思うた。
そん時にはどっかで聞いとった早川君ん悪口も聞こえんくなっとったし。
だばってん、そん早川君ん状況は違うた展開ば迎えることになった――それが林間学校や。
簡単に言やあ、林間学校で早川君は元気さんに告白した......ちゅうと過言かもしれんばってん、実際そうやったて思う。
結果は断られてしもうた。
それによる早川君に対するバッシングは凄かもんやった。
実際、あげんこと出来る人なんておらんのに。
皆が皆、早川君ん行動ば愚行と罵る一方で、うちゃ違うた。
あん大勢ん中で言うてのくる勇気。
まるで王子様んごと膝まづいてアピールする姿勢。
そん姿がばり......ばりカッコよう感じた。
衝撃が眺めていただけのうちん胸に飛び込んだ。
言うなりゃあ、流れ弾ってやつなんかもしれん。
早川君が元気さんが向けた矢がうちに刺さった感じで。
それ以降、うちん世界では早川君ん悪口は聞こえず、気が付きゃあ目で彼ば追うごとなっとった。
だばってん、それもそん時はまだ無意識な時。
よう早川君が視界ん中に映っとーなって思うとったぐらい。
そげん時期が続いたある日、飛び込んできた突然の訃報。
早川君が二年生ととある先輩と付き合うとーちゅう話。
ようわからんばってんショックやった。
薄暗か気持ちが胸ん中にずっと溜まっとって、早川君ば見かくる度に妙なズキッとした痛みば感じた。
ばってん、うちゃ自覚することはなかった。
そん状態で迎えた体育祭。
どこん男子もどっかで手ば抜いて、真面目にやらんことがカッコよかとしとー中で、一つん男子グループだけが本気やった。
早川君ば中心ばしたグループや。
体育祭ちゅう言うてしまやあ、所詮学校遊戯んようなもの。
そんに全力で取り組む姿勢。
転んで泥だらけになっても、恥ずかしかお題に本気で挑む姿勢も、男子んプライドば賭けたような競技で必死に耐える姿勢も全てがうちん目に焼き付けて離しゃんやった。
そん時、確かに自覚した――うちゃ早川君が好きなんやって。
全然タイプとは思うとらんやった男ん子。
うちん好みは運動部で細マッチョやったけん。
ばってん、やけんこそ、うちゃ好きになったんやと今やて思う。
自分が好みにも置いとらんやった男ん子が必死に努力しとー。
うちも努力して追いかけとうなった。
早川君ん隣に立ってみとうなった。
女子友達が人気者やろうと、彼女がいようと関係なか。
たとえ、恋人関係になれずとも、ただそばに近づきたかった。
やけん、迎えた夏休みで変わる努力ばした。
髪ば整え、眼鏡ばコンタクトにして、姿勢ば正して。
全ては早川君とお近づきになるために。
そげんことば考えて過ごすせいか気が付きゃあ、ずっと早川君ん姿ば見とうしてたまらんくなっとった。
ただん「好いとー」やった感情から、「ばり好き」になり。
勝手に自分で考え続けて気持ちば昇華させてしまうほどには好きになっとった。
とはいえ、いつまでもこげん気持ちば抱えらるーもんやなかと理解しとー。
やけん、早川君んおかげで変われたうちが次にすることは――告白や。
もちろん、こりゃ負け戦うてことは理解しとー。
だって、早川君には付き合うとー人がおるっちゃけん。
告白だってすぐやなか。そう簡単に行動に移せたならこげん苦労しとらん。
ただ、うちゃこん気持ちにケリばつけに来た。それだけは本当や。
隣には一緒に勉強する早川君ん姿がある。
......あんぷっくりしとー頬ばツンツンしてみたか――ってそうやなか!
せっかく二人だけなんやし、何か話ば!
「そういえば、早川君は体育祭の時に借り物競争で一緒に歩いた先輩と付き合ってるんだよね?」
.......な、ななな何ば言いよーったいー!! うちゃー!!
明らかに軽か話で振る話題でなかろうがー!!!
ほら、見て見んさい。早川君、凄かキョトンとした顔しとーばい。
あぁ、段々て言いづらそうな顔に......ってあれ? 思うとった反応と違う?
「あの、そのー......」
早川君が頬ばかきながら、目ば背けていく。
そして、意ば決したごとしゃべり始めた。
「これ、オフレコで頼むんだけど......実は別れたんだ」
「え?」
「ははは、驚くのも無理はないよね。あれだけ散々騒がしたんだし。
まぁ、いずれはバレるにせよ今は二人だけの秘密で頼む」
......もしかしてワンチャンあり?
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