第116話 新学期の恋心#1
―――東大寺琴波 視点
初めまして、東大寺琴波て言う。高校一年生ばい。
現在、うちには......好きな人がおる。
夏休みが開けて数日後、今日も今日とて鏡ん前んチェックが怠れん。
鏡ん前にはうちん顔がある。
少し童顔で明るい茶髪ボブん片耳ば耳にかけて、前髪をヘアピンで留めたうちん顔が。
いつもはここまで鏡ん前で自分の容姿ば気にすることなかったっちゃけど、好きな人が出来た影響でまさかズボラやったうちがここまでするなんて......。
やはり、恋は魔物なんやろうか。
ここまで人ん意識ば変えてしまうちゅうとは。
「よし、だ、大丈夫......ばいね? 大丈夫かな......」
鏡ん前で力強う意気込んで見たばってん、どうにも自信が持てん。
好きな人ん周りには自信に溢れた女ん子がおるちゅうとに。
「つまらんつまらん、弱気になっちゃ。うちゃ変わるって決めたと!」
朝に軽くしかしなかった髪ば整え、眼鏡ばコンタクトに変え、猫背やった姿勢ば日々矯正した。
それもこれも全ては好きな人に見てもらいたか。
そう、チラッとでもチラッとでもよかけん!
「うち、変わる!」
―――学校
「で、変われたの?」
「うぅ、変われなかったですぅ~~~。うぇ~~~ん」
目ん前におるとは安達莉子ちゃん。
どんくさいうちん小学生からん親友で、「誰かが見とらないけんタイプ」て言うて、高校まで一緒ん子ばい。
勉強はあん金城君に次いで常に2位ばキープしとー人の秀才で、運動もそこそこ出来る。
うちからすりゃ勿体なかほどん大切な親友ばい。
黒髪ロングばそんままに眼鏡ばかけた莉子ちゃんな、うちん情けなか反応に対して「やろうな」みたいな反応した。
「わかってたわよ。あんたのような臆病者が一朝一夕で変われないぐらい。
そんなの出来たらこっちも苦労してないわ」
莉子ちゃんなワタシに対して遠慮のう言ってきた。いつもんことばい。
うぅ、正論ん拳がばり痛か......ばってん。
「うちは変わるって決めたの。いや、変わらなきゃいけないと思ったの。
今のままじゃきっと後悔するだろうから」
「......」
「だから、この夏休みの間オシャレな女の子が買う雑誌を読み漁って勉強した。
せっかく努力したんだから見せたいと思うじゃん」
「......そこまでの行動力があってなぜ告白という行動には移れない?」
「それとこれとは話が別ばい~~~!
知らん人が突然『好いとー。付き合うてくれん』って言うてきたら、嬉しかろうけど困るばい!
全然知らん人やし、もしこん人が良か人ん仮面ば被った狼さんやったらどうするばい!?」
うちゃ莉子ちゃんのごとメンタル強うなかばい!
よかね、莉子ちゃんな中学ん時も告白てきたた人に対して、「誰?」「親しくなか」「気持ちだけ受け取っとく。それじゃ」ん三拍子で終わらせられるーメンタルん持ち主やけん!
もし、うちがそげんこと言われたら真っ白ん灰どころか、ぐずぐずに溶けたスライムんごたー感じになってしまうばい!
「あんた、感情吐き出し過ぎて博多弁漏れてるわよ」
「ハッ! だ、誰も聞いてないよね?」
うちゃキョロキョロと周りば見た。
時は昼休み、皆昼食&会話に夢中って感じでうちん言葉遣いが変化したことに気付いて無さそう。
小さか頃、福岡から転校して別ん小学校先で、男ん子から「話し方が変」て言われて以来、徹底して標準語ば話すごとしとー。
「別に隠す必要ないんじゃない?
ほら、博多弁って人気ある方言って聞くじゃん。
むしろ、前面に押し出していけばいいと思うんだけど」
昼食ばうちよりも先に食べ終え、勉強しながら答える莉子ちゃん。
凄かね~、勉強しながら会話でくるなんて。
うちにはそげんマルチタスクこなせんよ.....って急に何ば言うて!?
「な、なんでそんなこと言うの!? どうするの声が変って言われたら!
もしそんなこと言われたなら、顎がガクガクするだけの西洋人形になっちゃうよ!」
「あなたの好きな人はそんなことを気にする人?」
「気に......しないとは思うけど......」
「なら、いいじゃない。あなたはバカじゃない。
ただ、頭動かしながら動けるタイプじゃないんだから、サッサと行動しなさいバカ」
「バカって言うたー! バカやなかって言うたとにバカって言うたー!」
相変わらず莉子ちゃんなうちに対して毒舌が留まることば知らん。
ばってん、うちゃ莉子ちゃんが優しか人だって知っとー。
なんたって、小学校ん時にバカにしとった男ん子は莉子ちゃんに粛清されとったけん。
本人はうちにバレとらんって思うてそうだけど......ってそうじゃなくて!
「博多弁じゃ気持ちがしっかり伝わらないと思うし。
だって、“好いとー”なんて”水筒”にしか聞こえないかもしれないし!」
「それ、相手はどんな難聴してるのよ。
仮にも告白の雰囲気でそう聞こえたなら、早急に耳鼻科に受診して治療してもらうことをオススメするわ」
「可能性の問題だよ! この世界に絶対はないんだから!」
「あんた相当バカね。あ、バカだったわね」
「バカじゃないもん! 夏休み前のテストだって学年順位117位だよ!」
「学年の三分の二ほどの順位ね。安心しなさい、バカ寄りよ」
ぐぅ、わかっとーばい。今も勉強についていくとに必死なぐらい。
ばってん、うちんせいで莉子ちゃんが志望校んランクば落とそうとしとったけん、そげんことはさせとうなかて思うて。
「だけど、あなたは出来るバカよ。
なんせ私に合わせて二つぐらい高いランクを受けて、合格するぐらいなんだから。
だから、安心して告白してきなさい。骨はちゃんと拾ってあげるから」
「莉子ちゃん......うん、私告白する――ってそげん話にはなっとらんばい! それになんで失敗する前提と!」
「チッ、行けよ。サッサと」
「舌打ちした! 舌打ちした!」
莉子ちゃんちょっと会話するの面倒くさくなっとらん? なっとーよね?
ちゅうか、なんでそげん告白させたがるとか。
そもそもうちゃまだ好きな人とまともに会話したことなかってんに!
「そういえば、初めて好きな人が出来たって聞いたの体育祭後だったわね。
突然、聞かされてびっくりしたけど、今更ながらその人のどんな人か聞いてなかったわ」
「本当に今更だね。あの時のうち、結構思い切って打ち明けたのに、莉子ちゃんってば『へぇ~、そう。おめでとう』で会話で終わったんだよ? 全然興味無さそうに」
「まぁ、実際今も興味あるかって言われたらないんけど」
「無いじゃん」
「だけど、あたしはこれでもあんたの保護者を自負してるの。
だから、どこぞの馬の骨ともわからない男に、あなたの保護者を引き継ぐなんて出来ない」
「うちのことなんて思ってるの」
「手のかかるクソガキ」
「ただ酷か一言」
相変わらずグサグサ言葉んナイフば刺してくる。
まぁ、莉子ちゃんの普段ん様子ば見るにうちにしか言うとらんごたーけど。
ふふっ、うちに対してはこげな態度なんなちょっとした優越感で嬉しか。
「で、好きな人がどんな人かって話だったね。
キッカケはたぶんあの林間学校の時かな」
莉子ちゃんのノートにペンば走らせる手が初めて止まった。
うちん方ば見て首ば傾げる。
「あなた、ついに日本語能力が終わったの?」
心配されただけやった。
「違う違う! 好きな人かもって自覚したのが体育祭ってだけで、振り返ったらそんキッカケとなったのが林間学校かなってこと!」
「あ、そういうことね。ごめん、さすがに適当に聞き過ぎた。
もう少し脳のリソースばあなたに割くわ」
「ちなみに、今はどのくらい?」
「1割いってたらいい方ね」
「もうちょい割いて。半分ぐらい割いて」
「もうちょいってレベルじゃないわね」
って、話が脱線してしもうた。
しぇっかく莉子ちゃんが興味ば持ってくれたんやけんゆわんと!
「でね、その人は――」
「待って、その前にお客さん」
「え?」
莉子ちゃんがうちん背後ん方ば見る。
振り返りゃあそこしゃぃは.......わわわわわ、は、は――
「早川君!?」
「はい、授業ノート回収し忘れて生徒巡りしてる早川です。驚かせてごめん」
あ、あわわわわわわわ!?!?!?
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