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高校時代に戻った俺が同じ道を歩まないためにすべきこと  作者: 夜月紅輝


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第111話 正しい選択は誰にも見えない

―――白樺親子サイド


 拓海が言いたいことだけ言って去った後、白樺親子はしばらく小さく映る彼の背中を見つめていた。


 強い雨が降り続ける。

 拓海によって動きを止められていた永久であったが、ずぶ濡れにはなっていない。

 永久の母親が日傘を永久が入るように移動していたからだ。


 二人はしばらく無言のまま、公園を歩く。

 公園から出ると、駐車場に置いてあった車に乗った。

 母親が運転し始めてから少しして、助手席に座る永久に話しかける。


「最低な彼氏ね」


 母親が呟く。

 永久は目線を下げながら、両腕を抱く。

 彼女の言い返したい震えた唇は動くことは無かった。


「でも、そんな最低な彼氏に説教されるのが、最低な母親の私なのよね......」


「っ! そんなお母さんは――」


 慌てて否定しようとする永久の言葉を、母親は首を横に振って否定する。

 そして、そのまま言葉を続けた。


「本当はずっとわかっていたの。もう優也はこの世界に戻って来てくれないことぐらい。

 でも、あの子はとても優秀で、何より大切な子供だったからとても受け入れ難かった」


 母親が握るハンドルに力が入る。

 言葉に出した感情が肉体にも影響を及ぼしたようだ。


「私は何かと後を引きずるタイプだったからね。たたでさえ、夫も亡くしてるのに。

 あの人との宝である優也の死を受け入れることにも当然長い時間が必要だったの。

 そんな時よ、私が永久の優しさに触れてしまったのが」


「ワタシが......?」


「永久、優也の真似をしてたでしょ?」


「っ!」


 永久はハッと息を呑む。

 なぜなら、彼女が演じていた兄の真似は母親には知らせてないことだったからだ。


 彼女は母親が好きだった。

 もっと言えば、どんなに酷いことをされても嫌いになれなかった。

 それはちゃんと家族を愛してくれている人だとわかっていたから。


 どれだけ優也が優秀であっても、彼女の頑張りを褒めてくれる母親がいた。

 父親が亡くなり、シングルマザーとなっても向ける愛情は変わらなかった。


 そんな時、優也まで亡くなってしまった。

 母親の錯乱は当然の結果であり、それを助けるのが家族というもの。

 与えられた愛を返すように、彼女は母親を受け入れた。


 そして、何が母親の心に一番響くか。

 当然、亡くなった兄が戻ってくることだ。

 だから、彼女は密かに自分が兄になることを決めた。

 母親が一刻も早く笑顔を取り戻してくれることを願って。


「ずっと気づいてたわよ。だって、天真爛漫としたあなたが急に落ち着いた行動を取るようになったんだもの。

 それに気づいておきながら、甘えて、あまつさえ永久に酷いことを続けてきたのが私。

 最低な母親。母親失格ね」


「そんなことないわ! ワタシが兄さんになろうと思った時点で、お母さんの全てを受け入れるつもりだった!

 それに今こうして優秀な成績を出せているのも、お母さんのおかげでもあるの!

 だから、ワタシはお母さんが最低な人なんて思ったことは無い!」


「永久......」


 鼻水をすすり、涙が溢れだす目を指で拭う母親。

 心を閉ざした氷が氷解していくように、ゆっくりと口角が上がった。


「永久、良い彼氏を持ったわね」


 フロントガラス越し見える赤信号が青く光る。

 母親はペダルを踏んだ。

 車体がゆっくりと前進する。


 母親が浮かべる優しい笑み。

 その横顔を見ながら、永久はゆっくり口を開いた。


「実は――」


******


―――翌日


「あぁ~、罰が当たった......」


 体がダルい。頭が重い。

 鼻水が止まらないし、せき込んで喉が痛い。

 絶賛、風邪引いてます。


 まぁ、あれだけの雨に打たれ続ければ、そりゃ風邪引くだろうな。

 それに加えて、先輩のお母さんに対するあの子供じみた態度。


 今思い返しても後悔しか浮かばない。

 一体なんであんなことをしてしまったのか。

 やはり子供部屋おじさんの精神は子供だったのかもしれない。


「あ~~~~~~~~~」


 これでもう先輩と会わないとなると、なんだか寂しい気持ちだ。

 もうあの時のようなからかい上手の先輩はいないということだから。


 先輩にはわがままみたいなこと言ったと思うけど、実際はなんだかんだで気に入ってたんだなと思う。

 あれはあれで楽しい空間だったし。


 しかし、そんな関係をぶち壊してまで言った暴言の数々。

 俺を敵として、敵の敵は味方みたいな感じであの親子が話すキッカケになればとか思った。

 だけど、あれって逆に拗らせる可能性もあったわけだよな。


「.......」


 俺は寝返りを打ち、ベッドの近くにある机に手を伸ばす。

 自分の体に3Gでもかかってんじゃないかって重さを感じながら、手にしたスマホ。

 俺はとある人物に電話をかけた。


『あぁ? 拓海か、何の用だ?』


「今、時間あるか?」


『声、ガッサガサだな。時間の方は問題ない。

 今、クソ姉貴に買い物に付き合わされてて時間潰したかったからな』


「そうか。唐突だけど、お前のことだ永久先輩の連絡先ぐらい知ってるだろ?

 なんか上手い事フォローしてくれないか?」


『は? 事情を言え、事情を』


 俺は隼人に昨日の出来事を話した。

 本当は他人の家の事情を勝手に言うのは良くないだろう。

 だけど、隼人なら悪用するようなことはないと信じて。


『無理だな、俺には』


 それが隼人から帰ってきた一言目だった。

 え? 無理ってどういうことだよ!?


『確かに、話の事情を聞けば、俺と白樺の奴は境遇が似てるかもしれねぇ。

 だけど、似てるだけであって同じじゃない。

 少なくとも、俺は家族とは実質決別してるようなもんだしな。

 それに対して、白樺の方は家族との仲直り。

 根本が違うんだよ、根本が』


「でも、同じ気持ちを抱えた者同士なんだし、どうにかならないのか?」


『少なからずそれに対して気持ちを抱えていた中学の時なら未だしも、今じゃ親に期待する気持ちも失せている。悪いが、俺の言葉じゃ力になれそうもない』


 そうなのか。隼人がここまで言うってのはそれほどなんだろう。


「わかった。話を聞いてくれてありがとう」


『......言っとくが、久川や元気に言うのもあまりオススメしないぞ』


 俺の次の行動を予測したように隼人が話題に挙げてくる。

 コイツ、どんだけ俺がどう行動するのか読めてんだよ。

 しかし、あの二人に任せられないってどういうことだ?


「同性ならわかりあえるかもしれないこともあるだろ?」


『あるだろうが、今回は別だ。

 そもそもその話題に触れるとなると、お前と白樺のやり取りを伝えることになる。

 お前だって他所の事情をそこまで言いふらしたくないはずだ。

 ましてや、ケンカの内容とかな』


「それはそうだけど.......」


『それに何よりも今の白樺にはお前の言葉しか届かない。

 真に相手の行動を変えられるのはお前だけだ』


「だからって、ケンカしたばっかの俺の話なんて先輩が聞くと思うか?」


 ゴホッゴホッ......やべ、ちょっと興奮しすぎた。


『大丈夫だろ。中身がブラコンのアイツなら、お前の言葉は恐らく届く。

 それにアイツの好みは多少強引なりとも引っ張ってくれる奴だ。

 それを考えたら、どう考えてもお前しか適任はいないだろ』


「お前、俺のことどう思ってんだよ......」


『クソお節介』


―――プツッ、ツーツーツー


 あいつ、言いたいことだけ言って切りやがった。

 にしても、先輩を怒らせた俺にしか先輩は聞く耳を持たないだと?

 全く持って意味わからん。顔も合わせたくないだろう相手に何を聞くというのか。


「あ、なんか頭ボーッとしてきた。少し寝るか」


 それから数日間、特に先輩から何も無かった。

 俺も風邪を引いた翌日には体調が回復し、大地達に誘われるままに遊んでいた。

 そんな折、俺のレイソに一件のメールが届く。


『久しぶり、早川君。突然だけど、今度の夏祭り一緒にどうかしら?』

読んでくださりありがとうございます(*'▽')


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