61.メイナード視点(夜会前)
俺はセイクレッド辺境伯の息子、メイナード=セイクレッド。国境で魔物から国を守っている。
今日は父に言われて夜会に出てきている。とある令嬢がデビュタントで参加するから踊って来い!とのことだ。
俺はほぼ夜会に参加してない。
社交場へ出るとことごとく、この濃紺の髪がおぞましいのだと避けられ揶揄される。
小さい時は悲しかったこともあったが、年頃になって諦めた。ご令嬢が寄ってくるはずも無くもう28になる。
母は結婚してほしいと縁談を探していたみたいだったが、この髪で更にこの辺境の地にきてくれる令嬢などいるはずがない。父は特に何も言わない。
「メイナード、今度王宮である夜会に参加しろ」
「何でだ?」
「私の知り合いがデビュタントなんだ!踊って来い!」
その父が王都へ行けと言い出した。俺がそのデビュタントの令嬢と踊れると思うか?避けられるに決まっているだろう。
「昔、子供の絵姿を見せただろう?コールド侯爵とその子供の」
「ああ。見たような気がする」
「他にもお揃いのドレスのご令嬢2人の絵姿とか何枚か見せただろう?そのご令嬢のデビュタントなんだ」
「避けられるに決まってるだろ?俺もう歳も随分とってるし」
「ティアはそんなの気にせん!」
何を親しげに呼んでるんだ!
「ティアはな、レイス殿下と仲がいいんだ。元学友だ」
「レイス殿下の?元とは?」
レイス殿下といったら、俺と同じで暗い髪で色々あったお方だろう?それに令嬢が学友?それも元?
「3歳のとき、陛下と妃殿下に気に入られてレイス殿下に会うことになったんだが差別するどころか綺麗だから大丈夫だと言った。それで、学友になった」
綺麗だと?そんなこと一度も言われたこともないな…
「学友になってから、出る茶会で殿下を庇い続けた。庇いすぎて、レイス殿下をだしにして王太子殿下を狙っている強かな令嬢であると噂を立てられた」
庇っただけで、噂になるのか?
「刺客に襲われ、学友を降り、社交場から姿を消した」
「待て。待ってくれ。色々わからないんだけど、庇っただけで噂になるのか?」
「始めはレイス殿下と仲が良すぎて婚約者候補だと言われていたんだ。ティアはそれはもう可愛いんだ」
いや、そんなデレデレした顔で言われても。そんな顔見たこと無いぞ。
「そして殿下を庇う優しさを持ってる。そんな令嬢が学友だからと王宮に上がる。嫉妬しかないだろう?」
「それで、噂が悪化したのか。それで、襲われたとは?」
「王太子殿下の婚約者を狙う者が指示を出し、ならず者にティアを襲わせた。同じ令嬢かはわからんが何度もな」
「なっ!それで無事だったのか?」
「無事どころか、返り討ちだ。ティアは強いんだ」
「返り討ち?令嬢が武芸ができるのか?コールド家だからか」
「コールド家は関係ない。ティアが望んでこっそり鍛えたらしいぞ」
「ご令嬢が望んで鍛えるとは?」
「ティアは、将来こうなる事を見越していた。だから武術を習った」
「襲われると思っていたということか?それなのに護衛は?」
「護衛は子供の時からついてる。だが、もしもがあったら?怖い思いをしながら待つだけなんて嫌だと言ったんだ3歳で。その時はまだ護身術だったがな。私は賛成した。3歳のときから天使のように愛らしかったからな。将来襲われてもおかしくない。そこに王子のご学友だ。両親は反対していたが、ティアの訴えに護身術ならと折れた」
「3歳で護身術だって?3歳がそこまで考えられるのか?」
「考えていたぞ。話をしたからな。そこからこっそり体術や自分ができる限りの身の守り方戦い方を教わり鍛えたらしい」
「社交場から姿を消したのは?」
「ご令嬢が襲われ、学友を降り王室主催の公式行事も療養中で欠席。これで十分だろ?」
傷物になった。か。
「それで?」
「それから2年領地に籠ってる」
「テビュタントが終わったらもう社交界へは出ないらしい」
「なぜ?」
「もう疲れたらしい。貴族として仮面をかぶるのも下手な勘ぐりで噂をされるのも、差別を見るのも全てだ。領地で自由に誰にも気兼ねなく過ごしたいらしい」
そんな令嬢がいるのか?王家はなにをやってたんだよ!王家の都合で令嬢の将来潰してるじゃないか!
「ちなみにティアは王家を恨んでもないし、怒ってもないぞ」
「何で!!王家のせいだろう?」
「レイス殿下に出会えたこと、学友になったことは後悔してないからって。王子と関わった時点で遅かれ早かれこうなっただろうって」
「それでも割に合わないだろう!結婚できないかもしれないだろ?」
「それを王家も危惧したが、本人は気にしていない。結婚出来たらするし、無理ならレイス殿下がティアを連れて旅にでも出るらしいぞ」
「レイス殿下は結婚はティアがするならしてもいいし、しないならせずにずっとティアのそばにいるらしい」
「レイス殿下と結婚すればいいんじゃないか?」
「それは違うらしい。とにかく仲がいいが結婚や恋愛とは違うらしいんだ」
レオおじ様はティアが可愛くてしょうがないのです。




