60.既視感
「歓談中申し訳ない、ティアナ嬢私とダンスを踊っていただけないだろうか?」
濃紺の髪に、金の瞳。背が高くて、鍛え上げられた体に紺のタキシードが似合ってる。
どこかで見たことのある素敵な顔立ち。
正直に言おう。めちゃくちゃタイプだ。
「メイナード殿!来てたのか」
「ええ。父に今日は参加しろとうるさく言われまして。それで美しいご令嬢をお誘いしても?」
「ああ!メイナード殿なら安心だ」
どうやらお知り合いのようだ。
「ティアナ嬢、私はセイクレッド辺境伯が嫡男メイナードと申します。私と踊っていただけませんか?」
ああ!!!レオおじ様!!レオおじ様に似ているんだわ!どうりで素敵だと思った!!
「まあ!レオおじ様の!喜んで!!」
差し出された手を取る。
踊りながら会話する。
「ティアナ嬢は父のことをレオおじ様と呼んでいるのか?」
「ええ。小さい時に知り合ってからずっと」
「父がそんな呼び方を許すのは珍しい」
「レオおじ様はずっとお優しくて大好きですわ。二人目のお父様みたい」
にっこり
「ティアナ嬢は本当にこの髪色が気にならないんだな」
?何?似合ってるよ?
「ええ。全く。とっても素敵ですわ」
「父に言われて仕方なくだったが、来て正解だったな」
「あまり社交界には出ないのですか?」
「ああ。父と同じで辺境地にいるから、社交は免除されている」
なるほど。
ああダンスが終わってしまう。
続けて2曲以上踊るのは婚約者か夫婦だけだ。
「良ければこの後少し話さないか?」
「ええ。喜んで」
「コールド侯爵、この後も話をしたいのですがいいでしょうか?」
「構いませんよ」
「レイス殿下もどうです?」
ということで、食事スペースへ移動する。
軽食を摘みながら話をする。
「父とはいつから知り合いなのです?」
「3歳の時ですわ」
「3歳!父は見た目が怖いでしょう?子供に好かれないのですよ」
?
カッコイイけどな?
「昔からカッコイイですわ」
「ティアは昔からセイクレッド辺境伯に懐いていたよな?」
「はい。レオおじ様大好きですわ」
にっこり
「陛下も一緒にいたのに、セイクレッド辺境伯の方に懐いていたな?」
「単純にお顔が好みなのですわ」
「ティアはセイクレッド辺境伯とコールド侯爵以外皆同じ対応だよね」
「レイもね」
「僕はまた別でしょ?」
もぐもぐ。これ美味しい。レイも好きな味。
「あーん。これ美味しいね」
「でしょ?レイが好きな味だと思って」
「でも今は前を見て?」
ん?あら?
「その、レイス殿下とティアナ嬢は恋人なのですか?」
「「いいえ?」」
「メイナード殿、この2人は少し変な関係でして」
「すみません。メイナードさん。ティアはこれ無意識なんですよ。ティアまた僕に食べさせてたよ」
「あら?つい」
「メイナード殿すまない。ティアのこれは癖だ。小さいときから、私や兄達、レイス殿下に王太子殿下、陛下にそれこそセイクレッド辺境伯も皆にこれだ」
「父にもですか?」
「ああ。誰も止めなかったからな」
「皆可愛いししてほしいから止めなかったんだよね?」
「社交場へ出てもレイス殿下がいるとこれだ」
「それは噂になりませんでしたか?」
「噂になって、噂はもっとひどくなったよ。辺境伯言ってたでしょ?その噂の元凶の1つがこれ。ティアに言ってもやめる気ないしね」
うん。やめる気ない。どうせ悪く言われるんだから好きにする。
「今更ですわ。どうとでも言ってくださいなと言う気持ちですわ」
「ほらね?」
「しかし、恋人同士にしか見えないのではお2人とも困るのでは?お相手が…」
「「ああ」」
またお相手か…
「ティアはそんなに結婚願望がない。僕はこの髪だし僕も結婚願望ないからね」
「ああ。私もこの髪だから同じですね。でもティアナ嬢はどうして結婚願望が無いのです?」
「特に思う相手もおりませんし、貴族として社交場へ出るのももう疲れたのです。煩わしいのですわ。領地に引き籠もっているほうが楽なのです」
「ですが、侯爵令嬢という立場が許してくれないでしょう?」
「まあ。そこは第二王子の学友という立場と、陛下とエリー様とカイル兄さまにお願いするのです」
「僕と兄上のせいでこうなったから、ティアのお願いには弱いんだよ」
「だから、好きにするのですわ」
「メイナード殿、娘は少し変わっておりまして」
お父様が苦笑いだ。何で?
「ふむ。ティアナ嬢、私の見た目はどう思う?」
「レオおじ様に似ていてとっても素敵ですわ」
「素敵なんて初めて言われたぞ」
「まあ!皆様見る目が無いのですね」
「ティアナ嬢」
「はい」
「俺と結婚しないか?」
メイナードの外見がティアの好みのど真ん中!




