50.セイクレッド辺境伯視点
長めです。
久しぶりに王都へとやってきた。今回はティアに会えるだろうか。
来る度に会っているが、会うたびにティアは綺麗になっていく。あれは大人になると引く手あまただろうな。
いつも飛びついて来てくれるティアが可愛くてしかたがない。いつも大きくなったと実感しているのだ。
今日はどこにいるのだろうか?
とりあえず、騎士団には遠目に見たがいなそうであったし
レイス殿下のところへ行こう。
向かう途中で、レイス殿下とちょうど出くわした。
「ご無沙汰しております。レイス殿下」
「セイクレッド辺境伯、久しぶりだね」
「レイス殿下、今日はティアは一緒ではないのですか?」
「ティアはもう王宮へは上がっていないんだ。学友ではなくなった」
「どういうことですか?なにがあったんです?」
「僕の私室へ行こう」
殿下の私室へ移動する。
「ティアはデビュタントまで、療養中ということになってるんだ」
「どこか病気なのですか?」
「いや、至って健康。ちょっと色々あってね、どこから話せばいいかな」
「ティアの子供の社交界での噂知ってる?」
「いえ。知りません」
「まず、前提としてティアは貴族令嬢達から嫌われている」
「なぜです!?あんなにいい子なのに」
「僕達身内の意見はね。だけど貴族令嬢達は違う。髪色がおぞましい王子を庇うふりをして、王太子殿下の婚約者の座を狙う強かな令嬢」
「何ですか。それは。全く違うではありませんか」
「違うよ。だけど、そう噂されてそれが広まってしまった。ティアはあの容姿でしょう?家柄もいいし、賢いし、やさしい。もちろん子息達の視線も総ざらいだ。そこにきて、王子とも仲がいい。そして兄上は婚約者も作らないでしょう?嫌われない要素が無いんだよ」
「ですが…」
「そんなところに、ティアが令嬢に雇われたならず者に襲われることになった。もちろん怪我一つしていないし、むしろ叩きのめしていたぐらいだよ」
「襲われた?叩きのめした?」
「そう。3歳から2人で武術を鍛えてきた。騎士になれるレベルには強くなってる」
あの時は護身術だけだったが、そうか!戦えるようになっているのか!さすがだ。
「それに襲われたのは一度や二度じゃない」
「え」
「どんどん人数が増えていったから、事が大きくなってしまったしティアが危ないと思ったから報告したんだ」
「それまでは報告しなかったのですか?」
「ティアが内緒にしてくれと頼むからね」
「しかし。襲われたのでしょう?」
「ティアは戦えることを家族に黙っていた。だから言えなかった」
「ああ。昔ティアとキース殿のやりとりを見たことがあります。心配して武術をやめさせられるからか」
「そう。やめさせられたら自分の身が危ないでしょ?ティアは昔からこうなると思ってたって言ったんだ。だから武術を習いたかった」
「なるほど、だから傷一つつかなかったのか。無事で何よりだ」
「それが何よりではないんだよ。ティアは、自分が学友をやめる時期を見計らってた。お茶会に行くといつでも、悪口が付きまとうんだ。僕や兄上にも迷惑がかかると思ってたんだろうね。このタイミングだと思ったんだろう。ティアは学友をやめた。
そして、デビュタントまで表に出てこないと決めた。噂も刺客もエスカレートする一方だったから。自分が遠ざかることを望んだ。
そんな噂のある令嬢が襲われて、学友をやめた。理由は療養中であるから。これを聞いて貴族達が思うことは?」
「…」
「そう。傷物になった。だから学友をやめて療養中である。そう考えるよね。
だからね、ティアの貴族令嬢としての人生はほぼ終わってるんだよ」
「そんな…ティアが…」
「そう。本人は貴族社会から離れられて喜んでいるけどね。生き生きしてるよ。結婚は諦めてるけど、コールド家は政略結婚と無縁だから変なところに嫁がされないから良かったってホッとしてる」
何てことだ。まだ14歳だ。
あんなに可愛くていい子なのに、勝手に娘のように感じていたティアが王都でそんなことになってるなんて。
「何かしてあげられることはないでしょうか?」
「セイクレッド辺境伯が心配していたっていうだけで、ティアは喜びそうだけどね。手紙でも出してあげてよ」
そんなことしかできないのか。
「ティアはこれからどうして生きていく予定なのでしょう」
「僕にもそこまでは話してくれてないけど、兄が王都にいる間は領地でのんびり領地経営でもしようかなって言ってるよ。ずっと王都では息が詰まるって苦しそうだったし、また生き生きしたティアが見られるなら領地で自由にすればいいと思う」
「若い令嬢が領地でなんて…」
「ああ。ティアは領地の方が好きだから大丈夫。それと結婚はもしできなかったら、僕も結婚せずにティア連れて旅に出ようと思ってるから安心して。ティアを一人にはしないよ」
ティアのことをよくわかっているレイス殿下は、本当はティアが好きなのではないだろうか?
「レイス殿下はティアのこと愛しているのですか?どうしてティアと結婚はしないのです?」
「ティアのことは愛してる。でも恋愛のそれじゃない。
小さい時からずっと一緒にいる。それこそ兄上より長く一緒にいたしね。ティアは手のかかる姉のような妹のような不思議な存在だよ。それはティアも同じ。一緒にいることが当たり前になってるんだ。ティアが結婚しないなら夫婦じゃなくても一緒にいたいと思うし、ティアが結婚するなら、僕も誰かと結婚しようかなぐらいに考えてる。第二王子でよかったよね」
「見てる方は、恋人同士にしか見えませんよね。言ってることも」
一緒にいるときは、2人ともお互いにべったりだ。だから、2人が恋人だと噂になることはあっても王太子殿下を狙ってるなんて思いもしないのが普通だが令嬢の嫉妬は怖いな。
「そうだね。でもティアは気付いてないから。すべて無意識」
「え?あんなにべったりが無意識ですか?」
「そうだよ。ティアは末っ子で溺愛されてきただろう?だから基本が甘えっこなんだ。それで可愛いから皆甘えられたいでしょ?誰も注意せずに大きくなったのがあれだよ」
「殿下はお茶会などで教えてあげないのですか?」
「あげないね。可愛いから。虫よけになっていいでしょ?変な虫が付いたら困るからね。これはうちの家族、ティアの家族満場一致でこの考えだから。でも距離が近すぎたんだね。ティアがこんなことになるなんて思わなかったんだ。ちょっと後悔してるよ」
と言ってレイス殿下は悲しそうに笑った。




