77.魔力の目覚め
「ルークにお話したいことがあります」
席に着いて紅茶を一口飲むと、話を切り出した。すると、ルークは不思議そうな顔をする。
「どんな話?」
「ルークの魔力についてです」
そういうと、ルークがビクリと驚いた様子だった。
「ルークの魔力は先天性の障害のせいで、目覚めさせるのが難しいそうです。だから、魔力を目覚めさせるには他人の魔力が必要だということが分かりました」
「それ、本当!?」
「はい。原因がそれならば、その手段でルークの魔力を目覚めさせることが出来ます」
はっきりと伝えると、ルークは嬉しそうな顔をした。だけど、すぐに落ち込むように表情を暗くする。
「で、でも……そう簡単じゃないんでしょ?」
「簡単ではないですね。ですが、その手段を手に入れてきました」
「えっ? それは、ルアが僕の魔力を目覚めさせてくれるっていうこと?」
「はい。出来ると確信が出来ましたので、お話させていただきました」
私が魔力操作を誤らなければ、ルークの魔力を目覚めさせることが出来る。そう強く言うと、ルークは信じられないといったように唖然といていた。
「ほ、本当に……本当?」
「本当に本当です。だから、少し私に時間をくれませんか?」
「……うん。魔力が目覚めるのなら、いくらだって時間を上げる」
私の話を聞いて、ルークは強い眼差しを向けて頷いた。私は席から立ち上がり、椅子をルークの隣に持ってきて、また座った。
「では、ルーク。両手を重ねましょう」
「……うん」
両手を差し出すと、それにルークが手を重ねる。その手を優しく握りしめると、説明を始める。
「これから私が魔力をルークの体に伸ばします。伸ばした先に眠っている魔力があります。その魔力を引っ張り上げられると、魔力が目覚めるようです」
「僕は何をしたらいい?」
「ルークは自分の魔力を感じてください。魔力を感じたら、力を込めて動かすのです」
他者の魔力で引っ張り上げる必要があるが、ルーク自身の努力も必要だ。ルークが自分自身の力で魔力を動かして、目覚めさせる必要がある。
「……そんなこと、出来るかな。今まで魔力を感じたことがなかったのに……」
すると、ルークは不安そうな顔をした。それもそうだ。急にやれと言われれば、誰だって躊躇をしてしまうだろう。
「じゃあ、先に私の魔力を感じてみましょう」
そう言って、私は手に魔力を集めた。
「……あっ、なんか違う!」
「そう、これが魔力なんです。分かりましたか? こんな感じのものが、ルークの体にあるはずなんです」
「……うん。これを僕の体の中で感じればいいっていうことだよね。僕、やるよ」
「その意気です。では、始めましょう」
ルークがやる気になってくれた。これなら、作業に入れる。
深呼吸をして心を落ち着かせると、まずは自分の魔力を高めた。そして、十分に高めた後にそれをルークの体に流し入れる。
「あっ、なんか入ってきた」
「抵抗しないで受け入れてください。そうでなければ、魔力を目覚めさせられません」
「うん、分かった」
すると、私の魔力がスッとルークの体の中に入っていった。ルークが無心になってくれたお陰だ。これならば、魔力を自由に動かせることが出来る。
体の中心まで魔力を伸ばし、魔力の根本を探す。始めは何も反応がなかったが、ふとした違和感に辿り着いた。
きっと、これがルークの魔力の源。その源を私の魔力で撫で上げて、蓋を開けようとする。
「あっ、なんかある」
「そう、これがルークの魔力の源。だけど、蓋がしっかりと閉じられていて、開けられません。私がなんとか蓋を開けるので、ルークは魔力に意識を向けてください」
魔力の源を触り、蓋をこじ開けようとする。どこかに隙間はないか。力を込めて魔力を操作していくと、何かが動いた気配がした。
そこに魔力を注ぎ込み、さらに力を入れる。すると、何かが徐々に動き出し、その中から微かな魔力を感じた。
「ルーク、感じますか? これがあなたの魔力です」
「……うん。感じるよ。僕の中にある魔力が」
「これを目覚めさせます。ルークはその魔力に意識を向けて、動かしてください。私が引っ張り上げます」
「分かった!」
閉じこもった魔力を目覚めさせる。私はルークの魔力を引っ張り上げ、ルークは魔力を押し上げる。始めはびくともしなかった魔力だが、それが徐々に動き出していくのが分かる。
「ルーク、もう少し力を入れてください」
「うん!」
私が魔力を引っ張り上げ、ルークが魔力を押し出す。二つの力が合わさった時、閉じこもった魔力が解放された。
途端に魔力が溢れだし、それはルークの体を駆け回る。
「こ、これ……!」
「ルーク、おめでとうございます! 魔力が目覚めました!」
ルークは自分の体を物珍しそうに見つめ、驚いた様子だった。初めて魔力が体を駆け回る感覚に驚いているようだ。
手は離れ、ルークは自分の手を見つめた。驚いた顔をしていたが、すぐにくしゃりと顔が歪んだ。
「僕にも、魔力があったんだ。僕は……ちゃんとお父様とお母様の子供だったんだ!」
そう言って、目尻からポロポロと涙を流した。今まで思い悩んでいたことが一気に解決して、悩んでいた重圧から解放された。
「良かったですね、ルーク」
ルークの心が軽くなって本当に良かった。優しく頭を撫でると――ルークが抱き着いてきた。
「……ありがとう、お姉様」
その一言が届いた瞬間、心が温かくなった。今まで名前で呼ばれていたせいか、お姉様と呼ばれるだけで、家族として認められた感じがした。
それが嬉しくて堪らない。自然と顔が綻んで、小さな体を抱きしめた。そこには、初めて感じる家族の温もりがあった。




