表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スラムの転生孤児は謙虚堅実に成り上がる〜チートなしの努力だけで掴んだ、人生逆転劇〜  作者: 鳥助
第二章 伯爵家の養女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/80

75.少しずつ近くなる

「――こうして、家族は幸せに暮しました。おしまい」


 ルークが本の文字を指でなぞって、読み終わった。パタン、と本を閉じると私に視線を向けた。


「今ので少しは文字の事が分かった?」

「はい。単語が少しずつ分かってきたみたいです。ルークが分かりやすく読んでくれたお陰ですね。ありがとうございます」

「……別に、これくらい普通」


 素直にお礼を言うと、ルークは恥ずかしそうにそっぽを向いた。その姿が可愛らしくて、つい微笑んでしまう。


 ルークと交流を開始した日から数日が経った。あれから、ルークとは自由時間を一緒に過ごし、色んな事を教えてくれた。


 文字の事、貴族の事、歴史の事。ルークは学んだことを詳しく私に教えてくれた。始めは距離があったが、少しずつ言葉を交わしていくと距離が縮まったような気がした。


 一緒に時間を過ごす。沢山の言葉を重ねる。これだけで、ルークと仲良くなっている。だけど、まだ足りない。


 ルークは遠慮をしているし、一歩引いている。今までそうやって生きてきたから、それが当たり前になってしまったんだと思う。


 本当ならば、この時期は甘えたい盛りだ。でも、それが出来ない。そうやって、誰にも寄りかかれないのはルークにとって辛いはずだ。


 だから、まずは私に寄りかかってくれるように、ルークの心を溶かさないといけない。


「ルークはとても勉強を頑張っているんですね。学んでいると、良く分かります。毎日、頑張っていますね」


 そうやって、言葉で褒めて、頭を撫でる。すると、ルークは照れたように俯いた。


「……普通だよ」

「それが凄いんです。普通に出来ることは難しい事なんです。普通を維持するのも大変な事です。それが出来るルークはとても凄いですよ」


 照れながらも戸惑うルークの目を見て、しっかりと伝えた。すると、純粋な目がこちらを見てきた。信じていいの? と、言っているようだ。だから、私はそれを肯定するように見つめた。


「……そっか、僕は凄いんだ」

「はい、とても凄い事ですよ。だから、自信を持ってください」

「……うん」


 ルークが穏やかな顔をして笑った。それは心から嬉しいと思っているような笑顔で、見ているこっちまで笑顔になってしまいそうだ。


 この自信を持って、次に移りたい。私は席から立ち上がると、本棚から一冊の本を手に取る。それを持って、また席に戻った。


「じゃあ、ルーク。次はルークの事をしましょう。魔法のお勉強です」


 そう言って、本を開いた。すると、ルークの体が少しだけ硬直した。やはり、魔法はルークに取って倒せない相手のようなもの。その相手を前にすると、緊張してしまうようだ。


「そんなに緊張しなくてもいいですよ。まだ復習の段階ですから」

「う、うん……」

「私と一緒に学んでいきましょう。一緒に勉強すれば、一人で勉強するよりも学びが多くなりますから」

「……そうだね。ルアと一緒に学んでいると、色んな事が見えてくるんだ」

「それは良かったです。じゃあ、今日はこのページからですね」


 緊張していたルークだけど、私の言葉を聞いて、少しだけ力を抜いてくれた。これなら、学んだことをしっかりと吸収出来そうだ。


 ルークはページを見て、文字を読み上げてくれる。その一つ一つをゆっくりと解釈して、魔法への理解を深めていく。


 二人でそうして勉強していると、疑問に思った事や分からなかったことをすぐに共有できる。それはお互いのためとなり、より詳しく魔法の事を知ることが出来た。


「なるほど、魔力は自分の体の中にあるんですね。それを感じる事から始めないとダメみたいです。ルークは魔力を感じられますか?」

「……ううん」

「じゃあ、二人でやってみましょう。きっと、二人なら魔力を感じ取れるはずです」


 私は意識を集中させて、自分の中の魔力を探る。心を無にして、自分の中心から溢れだす力。それを探す。


 始めは何も感じなかった。魔法とは無縁の生活をしていたからか、魔力を感じる感覚が養われていない。


 だけど、自分には魔力がある。魔力はどんなものにでも宿る力と言われている。だから、私にも必ずあるはずだ。


 そう強く願うと、体の中心に違和感を覚えた。何か別の存在がいるような……、そんな気配だ。その気配を探りに意識を潜らせると、パァッと弾けたようにその力が膨らんだ。


 増えたのではなく、まるで封印されていた力が解き放たれたようだ。これが、魔力。温かくて力強い力だ。


「私は魔力を感じ取れました」

「えっ、そうなの!?」

「はい、不思議な力が溢れてきました。ルークはどうですか?」

「……僕はまだ」


 魔力を感じたことを伝えると、ルークは酷く落ち込んだ様子だった。どうやら、まだ魔力を感じられていないみたいだ。


 どうしたら、魔力を感じられるのか。考えていると、ルークの目からポロポロと涙が溢れだしてくる。


「僕には魔力がないんだ……。僕はお父様とお母様の本当の子供じゃないから。もう、この家の子ではいられない……」


 ギュッと手を握って、涙を流す。そんな姿を見て、黙ってなどいられない。震えるルークの体を抱きしめて、力強い口調で言う。


「そんなことありません。私が必ずルークの魔力を目覚めさせてあげます」


 ルークに悲しい思いはさせたくない。そのためには、魔力を目覚めさせるのに全力を尽くす。


 涙を流すルークを見て、そう心に固く誓った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ルークも早く魔力が感じられますように!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ