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お稲荷様ののんびりVRMMO日和  作者: 野良野兎
WAVE-IV たまにはこんな時間を
65/103

お稲荷様と拡張ディスク

大変お待たせ致しました。


 花火大会が終わり、長いようで短い夏休みの終わりが見えてきた頃、とうとう『TheAnotherWorld』プレイヤー待望の、拡張ディスクに関する新情報が公開された。

 気になるお値段は基本パッケージの半値程で、新職業、新エリア、新装備など、通常のアップデートとは比較にもならない量の新要素を追加する事が出来る。

 その中でも注目を集めたのは新職業で、以前から存在が仄めかされていた巫女や忍者の他、踊り子、人形遣い、聖騎士や暗黒騎士。さらに生産職では演奏家に画家と、なんと合計八種類もの職業が追加されるそうだ。

 巫女、そして踊り子はヒーラー、騎士系の二つはタンク、忍者と人形遣いがアタッカー向きの職業らしく、同時に公開されたプロモーショントレーラーでは紅白の巫女装束に身を包み、手にした鈴を鳴らしたおやかに舞う巫女の姿や、漆黒の鎧を纏い、身の丈程の巨大な剣を振り回す暗黒騎士、印を結び、口から火を吹く忍者など、新職業たちが活躍する姿を見る事が出来る。

 忍者はタンクではない。大事な事なので二回言うが、忍者はタンクではない。

 分身っぽい術を使って攻撃を避け続ける、本職をあっという間に不遇職に追いやった忍者なんていなかったのだ。汚い、流石忍者汚い。

 それはともかく、個人的に気になるのは巫女、人形遣い、生産職では演奏家あたりだが、まあそちらに手を出すのは陰陽師のレベル上げが終わってからになるだろう。今回の拡張ディスクでは追加要素の他に種族、職業レベルの上限の引き上げも実施され、最大九十までレベルを上げる事が出来るようになるのだ。

 レベル九十。それはつまり、ついに、とうとうあの憧れていた存在に手が届くという事。

 そう、待ちに待った、念願であった九尾へと至る事が出来るのだ。

 この新情報を耳にしたボクは思わず声をあげ、手を叩いて喜んだものだが、なにやらレベルキャップを解放するためのクエストをこなす必要があるらしく、いったいどんなマゾい難易度になるのか、今から戦々恐々といった心持ちである。


「タマモは、なにか新しい職業をやってみたりするの?」


 ジパング内にある我が家。窓辺で風鈴が涼やかな音を響かせる中、畳の上で横になったモミジが、台所で甘味の作成に勤しむボクに視線を向けながら言った。

 ちなみに本日のおやつは、暑い夏にぴったりの冷やしぜんざい。あっさりとした甘さの薄茶(お薄)にもちもちとした丸餅と白玉を浮かべた、実に涼やかな一品だ。


「巫女とか人形遣いあたりには手を付けるだろうけど、陰陽師(メイン)のカンストが先だから、始めるのは少しあとになると思うよ」


 器に盛り付けたそれを、もうすっかりとうちの常連になったモミジの元へと届けながら、ボクはそんな風に返す。

 職業を変更し、着慣れた陰陽師の恰好に戻ると、もうじき九本になるであろう黒い尻尾を揺らしながら彼女と向かい合う場所に腰を下ろした。


「モミジはどうなのさ。踊り子の装備とか、可愛らしいデザインの物が多そうだけれど」


 ぷりっとした白玉を木製の匙で掬い上げ、まずは一口。さっぱりあっさりとした抹茶の甘味が口内に広がり、ほど良い弾力の丸餅、ぷちぷちとした小豆がアクセントになって食べる者を飽きさせない。

 我ながらいい仕事をしたな。なんて自画自賛しつつモミジの方へ目を向けると、彼女はちゃぶ台の反対側で匙を口に咥えながら、蕩けるような笑みを浮かべていた。どうやら彼女の口にも問題なく合ったようで一安心である。


「相変わらずうまーっ……! あ、ごめんごめん、踊り子の話だっけ。私も動画は見たけど、ちょっと露出が多そうだからパスかなあ」


 モミジはぜんざいをもう一口放り込みながら、少しばかり赤くなった顔で横を向いた。

 彼女の言葉通り、動画内で登場する踊り子の装備は上下が別になったビキニタイプ、いわゆるベリーダンス風の衣装となっており、全体的なデザインは水着とそう大差ない。

 そして踊り子というだけあって、スキルモーションもしなやかなベリーダンスや激しい動きのフラメンコ、サンバなどが元になっているようで、露出度の高い衣装と相まって、どこか煽情的な雰囲気があったのを覚えている。

 たしかに、現実と全く異なる、あくまでもゲーム内のキャラとして割り切れるアバターを使っているプレイヤーならともかく、モミジのアバターは顔立ちは勿論、恐らくは身体つきに至るまで全て現実の肉体そのまま。似合う似合わないは別として、やはり気恥ずかしさは拭えないだろう。


「いい加減、モミジもアバターを作り替えた方がいいんじゃないのかい? 現実そのままの肉体だと、なにかと面倒だろうに」


 ボクがそう言って小さくため息を吐くと、モミジは眉間に皺を寄せて、なんとも言えぬ苦い顔をした。

 【変身薬】。たしかそんな名前だったか。

 先の大型アップデートで追加された課金アイテムで、使用するとアバターのデザインを一から作り直すことが出来る。変身薬自体はさほど値の張るものでも無かった筈だし、モミジの小遣いでも買えない事はないだろう。

 それに彼女のメインは治癒術師だ。魔法職の適正が高いエルフや魔族に変更すれば、人間族に比べて少しは動きやすくなるし、ボクからすれば、その職に必要なステータスがほんの僅かでも違うのならば、迷わず高い方を選ぶべきだと思うのだけれど。


「んー、私もそれは考えたんだけど、課金アイテムかー。ハヤトと相談してみようかなあ」


「それもいいかもね。タンク職でやるならオーク族がお勧めだよ」


 ボクも野良パーティで何度かお世話になった事があるが、あの鎧に身を固めた、いかにもタフそうな巨体。大きな盾と背中に、妙な安心感を覚えたプレイヤーは少なくないのではないだろうか。

 装備を厳選してしまえば、ある程度は誤差の範囲に収まる差ではある筈なのだが、不思議なものだ。

 一部では何を思ったのか全身を白く染め上げ、上半身裸のパンツ姿で街中を走り回るプレイヤーもいると聞くし、本当にネタには困らない種族である。


「ハヤトがオークは、ちょっと……。それならせめて、リザードマンの方がいいかなあ」


 苦笑いを浮かべながら、モミジはまたぜんざいを口に含む。

 リザードマンの身体は爬虫類そのままの見た目からしてひんやりしていそうだし、たしかにこの季節には丁度いいのかもしれない。その外見に嫌悪感を抱かないのならば、ではあるが。

 ちなみにボクは大丈夫なタイプの人間で、蛇でもトカゲでもどんとこいである。ああ見えて、人懐っこくて可愛い子が多いのだ。まあ、餌が基本的に生餌なので、どちらかといえばそっちの方がダメ、という人も少なくないだろうけれど。

 あ、種類によっては結構噛むし、大きくなったりもするので、あまり気軽に飼い始めたりはしないように。まあ、これは爬虫類に限らず、ペット全体に言える事なのだが。捨てるなんて以ての外だ。

 外来種は日本の在来種を容易く駆逐し、繁殖する。誰かが気安く放った一匹が、生態系を破壊するなんて事はざらなのである。

 命を育てる以上、そこには必ず責任が発生する。それを覚悟したうえで、最後まで面倒を見るように。


 閑話休題(うちは飼ってないけど)


「まあ、値段が手ごろとはいえ課金アイテムだし、そうステータスの差を意識するほどガチ勢でもないから無理に勧めはしないけれど、もし外見的な要因で新職業に手を付けるのを迷っているのなら、一度お試し感覚でやってみるのも手かもしれないね」


「うん、考えてみるー。あ、種族の話で思い出したんだけど、タマモってあのお店知ってる?王都にある、ちょっとした人気のお店なんだけど」


 空になった器を片づけていると、満足げにお腹をさすりながらモミジがそんな事を尋ねてきた。

 種族絡みで、王都で、人気店といえば、アップデート後に建てられたあの喫茶店だろうか。

 大通りから少し外れた、裏路地にある隠れ家的なお店なのだが、その日に店主が指定した種族のプレイヤーだけしか入れないという、一風変わったルールがあるお店なのだ。

 指定される種族に規則性は無く、さらには性別の指定が入る日まであったりとなかなか気まぐれな店主なのだが、彼が振る舞う料理は絶品で、そこでしか受けられないクエストまであるのだとか。

 残念ながらボクはまだお店に入れたことがないのだけれど、縁があれば是非とも一度味わってみたいものだ。


「タマモもかー。私もまだ入れた事ないんだよねー。噂によると、種族に合わせて扱う食材とかも変えてるんだって。気になるよねー」


 ああ、たしかに、オークのお客さんに豚肉なんて出したら、下手をしたらクレーム案件に発展しかねない。いや、共食いだとかそんな設定上の話ではなく、種族に合わない食材を口にすると、短時間ではあるがステータス低下のデバフが付くのだ。

 いつぞやかフレンドになったハーピー族の少女などは、ボクの作った親子丼をもりもり食べたあと、数秒間ステータス低下効果が付与されて目を丸くしていた。まあ、その時は戦闘前でもなんでもなかったので、彼女は気にせず完食して満面の笑みを浮かべていたが。

 ちなみに妖狐族のボクは油揚げや稲荷寿司を食べるとステータス上昇のバフがかかり、玉ねぎ系はデバフが入る。いわゆるネタ要素というやつだ。


「まあ、そういうのは縁だからね。毎日通い詰めるのも無粋な気がするし、気が向いた時に確認する程度にしてるよ」


 妖狐族でいっぱいになるお店というのも、一度見てみたい気がするけれど。

 白、黒、茶、赤と、色とりどりの尻尾がひしめき合う光景を想像し、ボクは思わず零れる笑みを袖で覆い隠した。

 拡張ディスクの発売は半年後。

 それまでにはかのお店の料理を味わう栄光に与かりたいものだと、ボクは風鈴が揺れる窓の外へと目を向ける。

 青い空には白い入道雲。

 蝉の声が響く、夏の日の一コマであった。

一部の人にわかるネタを仕込んでみました。

あったなーそんなの、と思って頂ければ作者冥利に尽きます。

聖騎士も来るので、そのうちグラッ○ン担いだプレイヤーとか登場させたい願望と格闘中です。

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― 新着の感想 ―
[一言] >その日に店主が指定した種族のプレイヤーだけしか入れないという、一風変わったルールがあるお店なのだ。 あ、ありましたね。入店済みでも日付変わる瞬間追い出せれたの記憶…
[一言] 唯一ぬにの盾…黄金の鉄の塊…うっ頭が…
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