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お稲荷様ののんびりVRMMO日和  作者: 野良野兎
WAVE-III そして至る道
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お稲荷様とお殿様


 街に戻った後で調べてみれば、シュテンが言っていたヨリミツなる人物とは、ジパングの君主に仕えている武将の一人であることがわかった。おそらくは、羅城門の一件でちらりと顔を合わせたあの男のことだろう。

 セイメイ曰く、特に剣技に秀でた武人であるらしく、強大な魔物などが現れた際には共に戦ったこともあるのだとか。そのヨリミツという人物が相当な強者であることよりも、目の前のひょろりとした陰陽師が真面目に仕事をしていたことの方が驚きだったのだが、それは黙っておいた方がいいのだろう。


 ともあれ、知り合いだというのならば話は早いと、早速セイメイに頼み、彼に文を飛ばしてもらった。

 通常であればそれなりに時間がかかるのだろうが、そこは陰陽師、式神に命じればあっという間である。魔物退治よりも、配送業なんかを始めた方が儲かるのではないのだろうか。

 そんな事を考えながら、セイメイと陰陽師の術についての話だったり、他愛のない世間話だったりをしていると、やがて先程セイメイが飛ばした式が戻ってきた。 燕の姿に似せて切り取られた紙が、あたかも本物の燕のように庭先を旋回し、ふわりと縁側へと滑り落ちる。

 そうして解けるようにして燕の姿が崩れていくと、そこには一通の手紙だけが残った。


「ふむ、なるほどなるほど」


 それに目を通し、セイメイがさらりと顎を撫でる。

 そしておもむろに立ちあがり、身の回りの世話をさせている式神を一体呼びつけると、どこかに出かけるのか何やら身支度を始めた。 


「今は城内でお勤めの最中であるので、用があるならばそちらから出向かれよ、という事らしい」


「それはまた、ご苦労さま」


 ボクがそう言うと、セイメイは烏帽子を頭に乗せながら、口をへの字に曲げて目を細めた。

 何を言いたいかはだいたい察せるが、かなり面倒な事になる予感がするので、ここはあえて目をそらしゆらりゆらりと尻尾でも振ってみる。その尻尾の向こうから、じとりとした視線が容赦なく浴びせかけられた。 そしてため息。


「わかったよ、ボクも一緒に行くよ。あそこ、なんだか堅苦しい感じがして苦手なのだけれど」


 実際に城内に入ったことはないが、付近には帯刀したお侍さんが見回りをしていたりするし、少し前にお城を見ようと近くに寄った時には、何故だかきつく睨みつけられてしまい何とも居心地が悪かった記憶がある。

 まあ、この男はこう見えて名の知れた陰陽師であるし、共に訪れれば警ら中のお侍さんの対応もいくらかは柔らかくなるだろう。そんな事を考えながら、ボクは僅かに軽くなった腰をあげる。


「ゆこう」


「ゆこう」


 そういうことになった。


 と、その時のボクはてっきり徒歩で城へ向かうことになるのだろうと思っていたのだが、屋敷から出た時点でそれは間違いであったと気づかされる事となった。

 セイメイの式神によって屋敷の表に用意されていたのは、四角い屋形に大きな車輪を付けた、いわゆる牛車と呼ばれるものだ。屋形の前方には黒毛の牛が一頭繋がれ、頭上で髪を纏めた美しい少年が一人、牛にかけた縄を握り、静かに目を伏せている。

 思えばこのぐうたらを絵にかいたような男が、わざわざ自分の足で歩いていく、なんていう面倒な手段を選ぶわけがない。おおかたこの牛車も、牛も、童子も何もかもが式神なのだろう。まったくもって、技術の使い方を大きく間違えている。

 まあ、出不精という部分ではシンパシーを感じない訳ではない、というよりもぐうたらだなんだとお前が言うなと世間の方々から総ツッコミを受けるであろうボクであるので、用意してくれているというのなら、甘んじてそれに乗じようではないか。牛車に乗る機会なんてそうそうないであろうし。

 そんなこんなで、今はゆったりと進む牛車に揺られながら道中を楽しんでいたのだが、そこで不意に、ボクの向かいで共に揺られていたセイメイがむっと眉間にしわを寄せた。


「そうだ、そうであったよ。お前は七尾であったなあ」


「悪かったね、暑苦しくて」


 彼の誤算は、同乗するボクがレベル七十、つまりは尾を七本持った妖狐族であったこと。

 ただでさえ、二人座れば膝がぶつかりそうな車中である。 背後に立派な尻尾を、それも七本も引っ付けたボクが入れば、それはもう窮屈なことこの上ない状態であった。なるべく纏めたり丸めたりなどして納まりが良いようにはしているのだが、縮んだり折り畳んだり出来るわけでもなく、どうしても場所はとってしまう。 


「母上もそうだが、妖狐族とは何とも融通の利かぬものなのだな。力が増せば増すほど、尾の数が増えるとは」


 そんな狭い車内であって、そんな風に悪態を吐きながらもボクに降りろと言わないあたり、そしてさりげなく身の置き場所を調整し、こちらが窮屈にならないよう配慮しているあたり、やはり九尾である母、クズノハさんの息子だけあって慣れているのだと感心する。

 

「そも、強大となった妖力を制御するためのものだと言うが、同じ妖力を扱うものであっても、鬼族や、いずこかの山奥に住むという天狗族なる種族は角も伸びぬし翼も増えぬ。なんとも面妖なことだ」


 たしかに、妖狐族――というよりも、妖怪というカテゴリーにおいて、長く生きて力が増すのと共に尾の数が増えるというのは、狐のほかには猫ぐらいしか聞いたことがない。その猫自体、猫又という名の通り尻尾が二又に分かれているだけで、増えたというには少し疑問が残る。見てくれだけは確かに増えているのだろうが、根っこは一本なのだ。増えたというより、裂けた、分かれたといった方が正しい。

 さらに狐の場合は、九尾まで至った後、それ以上長生きしたり力を付けると今度は逆に尻尾の数が減っていくというのだから、本当に不思議である。


「まあ、別の物に化ける事が出来れば尻尾も邪魔にならないのだろうけれど」


 それこそ物語に登場する化け狐のように美女の姿になってしまえば、この尻尾も一時的にではあるが隠すこともできるだろう。尤も、このゲームにおける妖狐族にはそういった変身系のスキルは実装されておらず、そんなお遊び系のスキルを実装する暇があるのなら、もっと便利なスキルを実装してほしいものであるが。


「ほう、妖狐族とはそういった術も使えるのか」


 ボクがぽつりと零した一言に、セイメイが食いついた。


「いや、そんな術は聞いたことがないし、少なくともボクには無理だ」


 そう言うと、セイメイはまるで肩透かしを食らったかのように息を吐いた。いやいや、そんな術があるのならば、貴女の母君であるクズノハさんが使っていない訳がないだろうに。

 ただでさえ目立つ人であるし、あの悪戯好きな性格である。姿を変えるようなスキルがあれば、それはもうそれを使って人を好きなだけからかったりするだろう。

 と、そんな風な事を言ってみれば、セイメイは顎に手を添えううむ、と唸った。


「確かに、母上が何者かに化けたというのは聞いたことがない。しかしあれほど力を持った妖狐族というのは母上以外には知らぬし、そうだな、また会った時にでも一度尋ねてみるか」


 覚えたところで、そう使い勝手の良いものだとは思えないが。

 いや、彼も母親に似て随分と悪戯好きなところがあるし、もしかするとまた禄でもないことに使う気なのかもしれない。念の為、ボクもまたクズノハさんに確認しておこう。ボクのみならず、陰陽師を主に育てているプレイヤー全体の迷惑になりかねない。


 そんな心配をよそに、ボクたち二人を乗せた牛車は無事に白塗りの城、ジパング城へと到着する。

 セイメイに続いて牛車を降りると、門番であるらしい六尺棒を持った男がこちらへと頭を下げ、朗らかな笑みを浮かべた。以前、ボクがふらりと立ち寄った際にも見かけた男である。

 以前とは随分違うその雰囲気を不思議に思っていると、ふと男と目が合った。途端、男はぎょっとすると、きゅっと口をつぐみ、厳めしく眉間にしわを寄せてしまう。はて、どうしたことか。

 その様子に、セイメイがくつくつと笑う。


「すまぬすまぬ、こやつは少し、いや人一倍女子が苦手でな。緊張のあまり、いつもこうなってしまうのだ」


「せ、セイメイ殿!」


 額に汗を浮かべながら、男がセイメイに食って掛かった。

 そういえば前に来たときは鬼姫装備であったし、今装備している着物もそれと大差ないデザインのものである。性差の区別がつきにくいそれ以前の装備とは異なり、これははっきりとプレイヤーが女性であるとわかるものだ。 

 そういう事であれば致し方ないのだが、なんとも難儀な性格をしているものである。

 心底楽しそうに男をからかうセイメイと共に門を潜り、天守閣を目指す。城内は幾つかの曲輪(くるわ)と呼ばれる区画で区切られており、すぐに天守閣へと入れるわけではないのだ。

 防衛上の問題もあるのだろうけれど、これがなかなか大変な道のりで、坂道と階段がとにかく多く、道もやたら曲がりくねっている。セイメイがあまり乗り気でなかったのも納得である。ゲーム内ではともかく、リアルであれば絶対に途中で倒れ込んでしまうだろう。

 ううむ、しかし、なんであろうか。建築様式自体は江戸時代のものをモデルにしているであろうお城の中を、平安時代の人物をモデルにしたキャラクターが歩くというのは随分と不思議な感じがするものである。


 そうして十分程は歩いただろうか。ようやく天守閣の傍までたどり着いたボクたちを待っていたのは、セイメイと似たような烏帽子をかぶった袴姿の男だった。

 腰には黒漆の太刀を差しており、全体的にがっちりとした身体つきをしている。

 随分と前にちらりと見ただけではあったが、間違いない。羅城門でイバラキの左腕を切り落としたあの男、ヨリミツであった。


「いきなり式を飛ばしてくるので何事かと思ったぞ、セイメイよ」


 仏頂面でそう言うヨリミツに、セイメイは薄く笑みを浮かべてみせた。

 

「久しいな、ヨリミツ。まあ、用があるのは私ではなく、この者の方であるのだが」


 目配せされ、軽く頭を下げるボクをヨリミツはじっと見つめ、ああ、と声を漏らす。どうやら顔を覚えられていたようである。

 

「ほう、どこか見覚えがあるかと思ったが、羅城門にいた来訪者ではないか。なるほど込み入った話になりそうであるし、ひとまずは部屋へ案内しよう」


「それは助かる。もう足が棒のようなのだ」


「お前には言っておらん」


「相変わらず愛想のない男だ。そんな風だから女も寄り付かんのだぞ」


「お前には言われたくない、少し黙っていろ」


 案外。気心が知れる間柄なのだろうか。

 慣れたようにセイメイをあしらう様子を見てそんな事を考えながら、ボクたちは長く伸びる廊下を進んでいく。


 ふわりと、桜の花の香りがした。

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