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お稲荷様ののんびりVRMMO日和  作者: 野良野兎
WAVE-III そして至る道
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お稲荷様と二人の鬼


 大江山の鬼退治といえば、やはり有名なのは源頼光と頼光四天王による酒呑童子討伐の伝説だろう。 

 京の都を荒らしまわり、人を攫い、食らう悪鬼、鬼の頭領酒呑童子。

 かつてボクたちが撃退したイバラキのモデルとなった茨木童子も、かの鬼の頭領の傘下に加わっていた鬼の一人であり、さらに神代の化物、八岐大蛇が富豪の娘との間に儲けたのがこの酒呑童子である、という伝承も残っている。数々の武勇を誇る源頼光と四天王たちが山伏のふりをし、共に人肉や血の酒を口にして完全に油断させたうえで毒酒を飲ませ寝首をかく、なんてえげつない手段をもってようやく討伐したと言えば、その規格外さが伺えるだろう。

 なお、茨木童子以外にも星熊童子、虎熊童子、熊童子、金童子という傘下の鬼がおり、これらは鬼の四天王と呼ばれている。


 羅城門の一件でイバラキが現れてからもしやとは思っていたが、まさか陰陽師の職業クエストで登場してくるとは思わなかった。

 いや、まだ実際に討伐を命ぜられた盗賊の頭と会ったわけではないので、必ずしも酒呑童子が現れるとは決まったわけではないのだが、まさか土蜘蛛や土熊を出してくる訳でもないだろうし、恐らくはそうなのだろう。


「どうしたのタマモ、ため息なんて吐いて」


 そう心配げにこちらの顔を覗き込むモミジに何でもないと手を振ると、ボクたちの目の前に立ち塞がる巨大な扉に目をやった。観音開きになっているらしい鉄製の扉で、中央部には般若の面がはめられており、空虚となった双眸が怪しくこちらを睨みつけている。

 豊富な鉱脈を有し、一時期はジパングの鍛冶産業を支える大鉱山として賑わっていたのだが、鉱脈が枯れてからは誰も寄り付かず、今となっては獣や山賊の恰好のたまり場となっている。

 ここはそういった経緯で廃棄された坑道の一つだった場所であり、どうやら今は鬼の一味の根城になっているらしかった。


「さて、それじゃあどうしようか。どうやら出入口はここしかないみたいだけど」


 レベル七十になり、装備もより重厚になったハヤトが扉に手を当てながら言う。

 どうやら鍵はかかっていなかったようで、ハヤトがそのまま軽く押してみれば、その一見堅牢に見える扉は意外にもあっさりと奥へと開いてしまった。

 露になったその奥から、僅かに湿気と臭気を含んだ風が吹き抜けていく。しかし鼻先をかすめていくこの臭いは、洞窟にありがちなアンモニアに似た悪臭ではない。これはお酒、アルコールの匂いだろうか。


「おやおや、客人を迎えに来てみれば、これはまた懐かしい顔ぶれではないか」


「やろう……!」


 からんころんと下駄の音。

 坑道の奥から現れたのは金髪をなびかせ、扇情的な恰好をした二本角を持つ鬼族の女性。

 忘れるはずもない、あの日羅城門で戦った女傑、イバラキである。

 なぜこんなところに、なんてことは思わない。彼女のモデルは茨木童子。であるならば、酒呑童子が待ち構えているであろうこの場所に、仲間である彼女がいないわけがない。

 強敵の登場に思わず身構えるボクたちをぐるりと見やると、彼女は呆れたように息を吐き、がりがりと頭を掻いた。


「やれやれ、これはまた随分と嫌われたものだ」


「出会いからしてかなり物騒だったからね」


 これまでの経緯を考えれば当然ともいえる反応ではあったのだが、どうやら彼女にとってはそうではなかったようだ。自然体に構えるその様子を見るかぎり敵意はないようだが、ボクたちを追い払う為に姿を見せたのではないのだろうか。

 

「それに関してはこのとおり、妾も片腕を失っておるのでな、それで手打ちとしようではないか。 此度は我が主様がどうしても狐の君と話してみたいと言ってきかぬ故、妾自らこうして迎えに参上したわけだ。悪いが、他の者はここで待っていてもらおうか」


 どうやらボクがやって来る事はお見通しだったようだ。イバラキはこれ見よがしにがらんどうになった左の袖を揺らし、うっすらと笑った。鬼の頭領直々のご指名となればそれに応じるのもやぶさかではないのだが、これに対し警戒を強めたのはハヤトたち三人である。

 彼らはボクを庇うように前に立ち、各々武器を構えて一瞬たりとも目を離さないとばかりにイバラキを睨みつけた。その場に剣呑とした雰囲気が流れたかと思いきや、突然かんらかんらと声を上げて笑い始めたイバラキに、張り詰めた空気は一瞬にして霧散し、モミジなどは何事かと目を丸くしている。


「いやはや、狐の君は良き友を持ったな。そう警戒せずとも、お主らの友には傷一つ付けぬよ、妾の名に誓ってもよい」


「その言葉、信用するとでも?」


 腰の剣に手を添えながらハヤトが言えば、イバラキは対峙する三人を見返しながら大きく胸を張った。 


「鬼に横道は無い」


 それはとても誇らしげで、清々するほど真っすぐな言葉であった。

 強者故に、鬼は、鬼族はどんな時でも正面から、正々堂々と打って出る。 生まれ持った強さだけでどんな困難、どんな敵にも打ち勝てると信じている。故に卑怯な手は使わない、使う必要がないのだという。

 そんな鬼族の特徴を体現したような彼女のその力強い姿にボクは目を奪われ、気付いた時にはハヤトたちを押しのけて、彼女の目の前まで歩み寄っていた。


「一つだけ条件がある」


 爛々と輝く金色の瞳を見つめ、人差し指をぴんと立てて言う。


「会うのは構わないが、同席するのは君一人だけだ。他の人間、まあ君たちの場合は鬼族と言った方がいいのだろうけれど、そういったのは無しで、君と、その主様と、ボクの三人だけで話をしたいんだ」


「勿論だ。客人を大人数で囲むような無粋な真似はしないし、させない」


 ぶれず、逸らさず、じっとこちらを見つめ返すその瞳は実に力強く、その言葉には一切の迷いがない。 

 羅城門の件ではこうも近くで言葉を交わすことはなかったが、こうして直に話してみると、これがどうして、惚れ惚れする程真っすぐな女性なのだとわかる。


「悪党にしておくには勿体ない女性だね、貴女は」


 ボクにはとてもとても、捻じれ曲がり、歪に歪んだボクでは到底なり得ない、届かない姿に笑みがこぼれる。するとイバラキはその瞳をきょとんと点にさせた後、堰を切ったように笑った。


「ふふ、ははは! いやはや、やはり妾の目に狂いはなかったな」


 イバラキが一歩退き、坑道の奥へ進むよう促す。

 それに従い、いざ鬼の住処へ踏み込まんと意気込んだところで、不意に袖を引かれる感覚が。 

 振り向けば、そこには僅かに顔を青くしたモミジが、震える指先で着物の袖を掴んでいた。


「タマモ、本当に大丈夫なの?」


 問題ない。 

 元々これは陰陽師の職業クエストであり、その中でボク一人を対象としたイベントが発生しても何ら不思議ではない。

 逆に考えればボク一人だけが対象となっている時点で、仮にイベント中にボスモンスターとの戦闘が発生したとしても、それはソロで突破可能な難易度である可能性が高く、そう苦戦することもないだろう。 勿論、荒事も起きず、本当に対話だけで済むのならそれに越したことはないのだが。

 モミジの頭を軽く撫で、その後ろでため息を吐くコタロウたちに手を振って、ボクはイバラキに視線を戻した。


「それじゃあ、案内をお願いするよ」


「任された。ちょいと散らかってるから、足元には気をつけなよ」


 そう言ってイバラキは迷いなくこちらに背中を向けると、からんころんと下駄を鳴らしながら歩き出す。さてさて、鬼が出るか蛇が出るか。

 と、鬼ならもう出ていたな。


 兎にも角にも、この先で待ち受ける人物に思いを馳せつつ、ボクは艶やかなその背中を追いかけるのであった。

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