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お稲荷様ののんびりVRMMO日和  作者: 野良野兎
WAVE-II 出会い
26/103

お稲荷様と公式イベント①


 シズノさんのところで着物を受け取ったあの日から早一週間。


 あれからレベル上げに勤しみ、無事現在のレベル上限である六十に到達したボクは、もう随分と久しぶりとなる始まりの町≪アイン≫へと戻ってきていた。

 その理由は一つ、本日から開始される新規ユーザー歓迎イベントに参加するためである。

 そう、本日は二回目の抽選でソフトの購入権を獲得した第二陣のプレイヤー達がログインを開始する記念すべき日であり、アインの町中はサービス開始日にも引けを取らないほどの活気に満ち満ちていた。


「あ、狐さんだー!」


 こちらの姿を見るなり、太陽のような笑顔を浮かべて飛び込んできた少女を抱きとめる。

 久々にアインへと戻ってきたボクが顔を出したのは、サービス開始当時にお世話になったあの道具屋だった。

 しかし第二陣のプレイヤー達が続々とログインを始めている影響で、店内は平時とは比べ物にならないほど賑わっている。

 そんな中でシアが抱き着いてきたものだから、それに驚いたプレイヤー達の視線が集中するのはまあ当然といえた。

 下手に絡まれるのも厄介だし、あまり長居はしない方がよさそうだ。

 

「久しぶりだね、シア。元気にしてたかな?」


「うん! 狐さんの服、すっごくキレイだね!」


「あらあら、ちょっと見ない間に凄く美人さんになっちゃって、私驚いちゃった」


 頬に手を当て、カウンターの向こうでルビアさんが微笑む。

 レベルが六十を迎えた後、ボクの装備も随分と様変わりした。

 【鬼姫の着物・紅葉】はそのままに、自称ファッションリーダーであるモミジ監修の元、全体のコーディネイトもその和風ながらも独特なデザインに合うような物になっている。

 

 金のかんざし、膝上まである白足袋と赤い高下駄はモミジに紹介してもらった生産職のプレイヤーが作成した物で、それぞれMP上昇、状態異常防止などの効果が付与されており、なかなか使い勝手が良い。

 この装備のおかげで随分と戦闘も楽にはなったのだが、以前と比べて他のプレイヤーから声がかけられる事が増えたのは少し面倒ではある。

 まあ自由度が高いキャラメイクのおかげでプレイヤーには美男美女が多いので、思っていたほど目立っていないのは嬉しい誤算であったが。


「しばらく顔も出さずに申し訳ありません」


「仕方ないわ、来訪者さんなんだもの。でもその様子だと、無事に探し物は見つかったみたいねえ」


「ええ、お陰様で無事、陰陽師となる事が出来ました。今回はまたアインの町が賑やかになると耳にしまして、先にご挨拶をと」


「そうなのよお、先日またご神託があったみたいで、前回と同じぐらい来訪者さん達がやってきているそうなの」


「ええ、お店も相当お忙しいみたいで、大変ですね」


 そう話しているうちに売り場からルビアさんを呼ぶ声が届き、彼女はごめんなさいね、と小さく手を振ってその対応へと向かっていった。

 

 さて、挨拶も済ませた事だし、ボクも邪魔にならないうちに失礼するとしよう。


「えー、狐さんもう行っちゃうの?」


「ふふ、しばらくはこの町にいるから、またすぐ会えるよ。次は三人でお茶でもしよう」


 名残惜しそうに着物の裾を摘まむシアの髪を一撫でし、手振って店を後にする。


 その際に何人かのプレイヤーに声をかけられ、先程のシア達とのやり取りについて詳しく尋ねられたので、このゲームにおけるNPC達の好感度などについて説明すると何故だか大げさに礼を言われてしまった。

 少し高圧的な物言いにでもなってしまっていたのだろうかと反省しつつ、道具屋を後にしたボクは噴水広場へと向かう。

 メインメニューで時刻を確認すると、ちょうどモミジ達と約束した集合時間の十五分前であった。

 広場の中では断続的に光の柱が現れ、その中から次々と初期装備に身を包んだ様々な種族のプレイヤー達が現れている。

 サービス開始初日を思い出させるその光景を眺めつつ、混雑に巻き込まれないよう広場の端へと向かい、適当なベンチに腰を下ろす。 

 そういえば、当時もこうやって隅によって人波を避けていたっけ。


「あ、いたいた!」


 そうしてぼんやりと行き交う人々の様子を眺めていると、やがてその中から見知った三人組がやってきた。 

 三人ともレベル上限に達して装備を更新したのだろう、モミジは小麦色の肌がよく映える純白のローブ、ハヤトは白銀のフルプレートメイル、コタロウは紺色の胴着に身を包んでいる。

 初めて会ったあの頃と比べると、三人も随分とまあ、なんとも冒険者らしくなったものである。


「いよいよ初イベントだね!」


「ほとんど新規鯖に流れると思ってたんだけど、うちの鯖にもかなり新規の人が来てるみたいだね」


「こうして見ると俺らの時と同じぐらいいるんじゃないか? まあ、面倒がなけりゃあどんだけ増えようがいいんだけどよ」


「はは、ボクも何人かに声をかけられたけど、あんまり変なプレイヤーはいなかったから大丈夫じゃないかな」


「間違ってもほいほいついて行ったりするなよ」


「失礼な。さすがにそこまでお人よしではないさ」


 まあ実際、数人にはパーティのお誘いも受けたのだが、きっぱりとお断りさせてもらった。

 レベル差が大きすぎてレベリングをしようにもこちらへのメリットが全くないし、ガイド役を買って出るほど親しいわけでもないしね。

 それに正直、態度や話し方が現実世界で見かけるナンパする人のそれにそっくりだったプレイヤーもいたし。


「それよりも、そろそろイベントが開始される時間だね」


「今回って、町へのモンスター襲撃イベントだったっけ? なんか思ってたより殺伐とした内容だよねー」


「盛大に歓迎しますって事なんじゃねえの?」


「それはそれで運営の性根が相当悪いように思えるのだけれど。まあサービス開始時に始まりの草原にいるモンスターが割と枯れ気味だったし、イベント中にしっかり経験値を稼いで下さい、という事だと考えるようにしているよ」


 それに、レベルがカンストした先行組のプレイヤーも相当数集まっているのでモンスター達が町に侵入してくる事はまあないだろうし、実際はそう危険なイベントでないだろう。


「生産職の人はどうするんだろうねー」


 それは知らない。

 まあ、戦闘が増えれば自然とポーションなどの消耗品の需要も増えるし、稼ぎ時とはいえるだろうけれども。


 あと、さりげなくボクの尻尾を抱き込むその癖、まだ治ってなかったんだね。

 いや、レベル六十になってさらに増えたので、一本ぐらいどうってことはないのだが。


 その時、町中に金属音に似た甲高い音が鳴り響いた。

 広場にいたプレイヤー達が咄嗟に耳を塞ぎ、何事か、と一様に困惑の表情を浮かべる。

 ボク達四人も似たようなもので、モミジに至っては目尻に涙まで浮かべていた。 


 それにしても驚いた。ハウリングの音に似ていたが、今のは何だったのだろうか。


『レッディイイイイス、エエエエンドジェエエエエントルメエエエエエエン!!!』


 続いて響いてきたのは、先程のハウリングにも劣らないほどの大音量の叫び声。

 町中に轟いた男の声に、いよいよもってプレイヤー達は混乱しはじめた。

 おそらくはイベント開始の告知なのだろうが、まさかこんな形で行ってくるとは誰が予想できようか。


「外だ! 始まりの草原に何か居るぞ!」


 その時、門の方からプレイヤーの一人が叫んだ。

 その声を皮切りに、広場にいたプレイヤー達が異変の原因を確認しようと始まりの草原へと飛び出していく。

 

「行くしかない、かな?」


「あまり良い予感がしないけれど、まあイベントの内容は把握しないといけないしね」


 早くもげんなりとするハヤトの肩をぽんと叩くと、それに連動するように彼は大きなため息を吐き出した。

 気持ちは凄くわかる。ボクも運営の神経を疑い始めたところである。

 そんなハヤトとは打って変わって、目をキラキラと輝かせているのはモミジだった。


「なんだろ、なんだろうねー! うわー、私ワクワクしてきた!」


「お前、どんだけポジティブだよ」


 身振り手振りで興奮を表現する彼女の後を、やれやれと頭を抱えながらコタロウが続く。

 やがてボク達が始まりの草原へと出ると、そこにあったのはボクの予想を大きく上回るものであった。


 そこにいたのは、見上げる程巨大な一匹の蛇。

 いや、背に一対の翼があるので、もしかすると竜の類だろうか。足はなく、全身を赤黒い鱗が覆い、側頭部から捻じれ曲がった角が後ろへと伸びている。

 異様なのは、明らかに人の手が加えられた鉄の装甲や、所々から延びるコード類。

 まるでサイボーグのようなその姿に、プレイヤー達は圧倒されていた。

 

「嘘だろ……」


 漏れ()でたのは誰の声か。

 まさかあれと戦えと言うのだろうか。もしそうだとすると、運営はこれから数日クレーム対応に追われること請け合いなのだが。

 

 その時、その巨竜の背から何者かが躍り出て、竜の頭に着地した。

 白衣を纏い、モノクルをかけた背の高い男である 顔の右半分を入れ墨が覆っており、顔立ちからして年齢的には三十前後。その手には何故かスタンドマイクが握られている。

 

 ああ、なんだか嫌な予感がするなあ。

 

 男はすっと息を吸い込み、マイクを構えた。


『よくぞやって来た来訪者の諸ックーン! ミーこそは偉大なる魔王様に仕える七将軍が一人ッ、嫉妬のインウィディアであーるッ!』


 芝居がかった大げさな仕草と共に、男は恭しく頭を下げた。

 正直に言って、ログアウトしたい。


「帰っていいかな?」


「待って、気持ちは凄くわかるけどお願いだから待って」


 思わずメインメニューを開いたボクの手を、ハヤトがはしっと掴んだ。

 凄く帰りたい。

 だってあれ、どう見たって面倒な類の人種じゃないか。


 そんなボクの気持ちを知るはずもなく、早くもボクの中で変態としてカテゴライズされつつある男は、スタンドマイクを振り回しつつ続けた。


『この度ミーはッ、ン魔王様直々の命を受けこの地へと参上した! 来訪者諸ックーン、今こそ試練の時であーる! しかぁし! ミーはこのメカムート君三号を嗾けるような、そんな空気の読めない男ではないのであるからして、諸君のお相手はこやつらがするのであーる!』


 どうやら、あの巨大なサイボーグ竜はメカムート君三号というらしい。

 何だろう、すごくバッタもの臭い。


 インウィディアがぱちんと指を鳴らすと、メカムート君三号――恥ずかしいからメカムートでいいか――の背からわらわらと何かが這い出てくる。

 それはせいぜい大型犬程度の大きさしかない、デフォルメ化されたメカムート達だった。

 くりくりとした目がなんとも可愛らしい。


『そのプチメカムートは、本体のメカムート君三号のエネルギーが尽きぬ限り無尽蔵に生み出すことができる、おッそろしい殺戮マッスィーンであーる! 嗚呼ッ、斯様な傑作を生んでしまうミーの類稀なる才能に、全世界が嫉っ妬……ッ! さあ来訪者諸君、存分にその力を振るうといいのであーる!』


 きいきいと鳴き声を上げながら、プチメカムート達が侵攻を開始した。

 それを受け、あまりにもあまりな事態にぽかんと呆けていたプレイヤー達も流石に我に返り、各々で応戦を開始する。

 くけー、と可愛らしい容姿とは裏腹に残念な声を上げて飛びかかってきたプチメカムートの一体を扇でぺしりと叩き落すと、あまりにも呆気なくその個体は光となって消え去っていった。

 

「やはり強さは新規プレイヤーでも勝てる程度か。どこかに強い個体も配置されている可能性もあるけど……」


「まあ、俺達の相手はアレ(・・)だろうな」


「なんか、私が思ってたイベントと違う……。もっとこう、なんだろう」


「モミジ、たぶん皆同じ気持ちだと思うよ。よりにもよって嫉妬が来るかあ……」


 強欲や怠惰ならまた士気の上がり方も違っただろうに、とハヤトが肩を落とした。

 帰りたい。


 一部の攻略組らしきプレイヤー達は待ちに待ったレイド戦だといきり立っているが、ボクはそれ以上にあの男に近寄りたくない。

 面識を持たれる前にさっさと退散したいのだが、七将軍という重要な立場にあるキャラクターなのだし、顔を覚えられるのも時間の問題なのだろうなあ。


「仕方がない、とりあえずやってみようか。念の為、一通りバフをかけるから範囲内から出ないようにね」


 恐らくあの巨竜を倒さなくとも、イベント期間が過ぎれば七将軍の軍勢も撤退していくのだろうけど、撃破することで何か報酬が出るかもしれない。

 それに、あの巨竜が町に直接攻め込んでこないという保証がない以上、あれの足止めはボク達先行組が行うべきだろう。

 気乗りはしないけどね……。


 扇を開き、発動するスキルを選択しながら、ボクは大きくため息を吐くのだった。

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