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第九十五話:釣り野伏(つりのぶせ)の誤算

豊後ぶんご戸次川へつぎがわの戦線。

 大友おおともの救援を名目に上陸した小田軍は、ついに島津義弘しまづ よしひろ率いる薩摩さつまの精鋭と対峙たいじした。


 島津の戦術はシンプルかつ凶悪だ。少数の部隊で敵を誘い出し、伏兵ふくへいが三方から包囲して殲滅せんめつする「釣り野伏」。これまで数多あまたの九州大名を葬ってきたこの戦術に、小田軍の先鋒を任された菅谷政貞すがや まささだが挑む。


浪紫はし殿、敵の先陣が崩れました! このまま追撃すべきか!」

 伝令の報告に、軍師・天羽源鉄斎あもう げんてっさいが身を乗り出す。だが、浪紫は手元の帳面ノートから目を離さず、冷徹に告げた。

「……いえ。そのデータ、異常イレギュラーです。島津の士気モチベーションからして、これほど早く敗走するのは不自然。これは誘い込みの『撒きまきえ』……いわゆる罠)トラップ)ですよ」

 浪紫は眼鏡のブリッジを押し上げ、菅谷へ伝令を飛ばした。


「菅谷殿、追撃は中止。予定通り、陣地ベースを固定し、『めん』による防御を開始してください」

 戦場の中央。菅谷政貞は、逃げる島津軍を深追いせず、ピタリと足を止めた。

 代わりに彼が命じたのは、小田軍が畿内きないから運び込んだ大量の「竹束たけたば」と「鉄盾てつじゅん」による防壁の構築だった。


「薩摩の隼人はやとども! 追いかけて欲しければ、もう少しマシな芝居をしろ!」

 菅谷の怒号どごうが響く。誘い出しに失敗したと悟るや、森の影から島津の伏兵たちが「チェストー!」という叫びと共に、怒涛どとうの勢いで姿を現した。

 死をもいとわぬ島津兵の突撃。それは、これまでの戦国の常識を超えた「暴力の奔流ほんりゅう」であった。


(……凄まじいな。個々の兵の出力パワーが想定を三割以上上回っている。だが、どれほど個人の武勇が優れていても、物理的な『火力の密度』には勝てない)


「菅谷殿、今です! 十字砲火クロスファイアを開始!」

 浪紫の指示を受け、菅谷が軍配ぐんばいを振り下ろす。

 防壁の隙間から突き出されたのは、最新式の長筒ながづつ――。さらに、浪紫が「効率化」のために開発させた、二人がかりで装填そうてんと射撃を分担する連続射撃システム(ライン)が火を噴いた。


 轟音ごうおんと共に、島津の突撃が目に見える形で削り取られていく。

 どんなに死を恐れぬ兵も、届かない距離から放たれる圧倒的な弾幕だんまくの前には、近づくことすら叶わない。


「馬鹿な……。我らが誇る『釣り野伏』が、ただの壁に阻まれるとは!」

 遠方の本陣で、島津義弘がその光景に驚愕きょうがくする。

 浪紫は、冷徹に戦況を記録ログし続けた。


(島津の戦術を『戦い』ではなく、ただの『処理作業』に変換する。まずはこの実力の差を見せつけ、彼らの『不敗の神話』を上書き(アップデート)させてもらうぞ)


 夕闇が迫る頃、島津軍は初めて「決定的な足止め」を食らい、薩摩へと引き揚げていった。

 戦場に残されたのは、壊れぬ小田の壁と、冷徹な勝利の計算式アルゴリズムであった。

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