表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/107

第八十一話:瓦解のロジック

石山本願寺の内側では、浪紫が昌幸を通じて打ち込んだ「矢文やぶみ」と「流言」が、恐ろしい速度で門徒たちの心を侵食していた。

『主君を毒で狙うは、仏の道か。それとも影に潜む異形の者の仕業か』

 浪紫が仕掛けたのは、単なる誹謗中傷ではない。顕如けんにょという絶対的な象徴と、その背後にいる「得体の知れない影」を切り離し、不信感のくさびを打ち込む分断工作セグメンテーションであった。

「……顕如様は、本当に我らをお救いくださるのか?」

「あの影の男が現れてから、毒や暗殺、卑怯な手立てばかりではないか。あれは本当に、御仏の教えに従う者のすることなのか!」

 飢えという極限状態の中、門徒たちの間に「正義の不在」という疑念が広がる。


 その夜、ついに内紛が勃発した。

 九条が管理していた「薬物と武器の貯蔵庫」に、過激化した門徒の一群が押し入ったのだ。

「影の男を出せ! そいつが我らの信心を汚しているのだ!」

 これに対し、九条の息がかかった雑賀衆が容赦なく発砲する。

「退け! これは顕如様の御意志であるぞ!」

 石山の聖域で、味方同士の血が流れる。

 その様子を本丸の屋根から眺めていた九条は、表情一つ変えずに呟いた。

「……ふむ。浪紫。君は、集団の帰属意識ロイヤリティを『倫理』という名のナイフで切り裂いたか。期待以上の処理能力パフォーマンスだ」


 本陣で石山の炎を遠望していた浪紫は、手元の帳簿に大きな×印を書き込んだ。

「源鉄斎殿、秀吉殿からの報告通り、敵の供給サプライは止まりました。そして今、内部の統制ガバナンスも崩壊しました」

 浪紫の眼鏡の奥で、冷徹な勝利の計算が完了する。

「……謎の男よ、お前の負けだ。お前は人の『心』を数式として扱いすぎた。俺だって似たようなもんだが……俺には、何度倒れても起き上がる、最高に計算外な『お人好し』がついてるんでね」


 浪紫は、ゆっくりと回復しつつある氏治の寝所を振り返った。

 次の一手で、この長きにわたる石山合戦に、完膚なきまでの終止符を打つ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ