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第六十六話:備前(びぜん)の咆哮、猛将激突

備前、児島周辺。浪紫はしが物流の拠点として整備を進めていた港湾に、毛利の「一文字三つ星」の旗印が迫っていた。先陣を切るのは、戦に明け暮れ生涯無敗を誇る猛将、吉川元春きっかわ もとはるである。


「小田の軍師が作ったこの港、ただの商いの場にあらず。これこそが毛利を干殺しにする罠よ。者共、一塊も残さず打ち壊せッ!」

 元春の咆哮と共に、毛利の精鋭が雪崩れ込む。だが、その前に立ち塞がったのは、小田家随一の勇将・菅谷政貞すがや まささだであった。


「毛利の猛将、吉川元春と見受けたり! 小田家が家老、菅谷政貞がここを通しはせぬ!」

 政貞の声が戦場に響き渡り、両軍の精鋭が正面から激突した。

(……吉川元春。戦術の基本セオリーを、純粋な**『暴力パワー』で踏み潰してくる男。だが、この港の構造レイアウトは、あいつのような突撃型の武将を『袋小路デッドエンド』**へ誘い込むように設計してある)


 浪紫は後方の陣から、戦況を冷徹に見つめていた。港の施設は単なる倉庫ではなく、敵の騎馬の機動力を削ぐため、入り組んだ路地と強固な石垣で構築されていた。


剛勇、火花を散らす

 乱戦の中、ついに元春と政貞の距離が詰まった。元春の振るう大太刀が、風を引き裂き政貞の兜を掠める。

「小田の将よ、なかなかの骨節こつぶしよな! だが、算盤そろばんで築いた城壁など、我ら毛利の武の前では紙も同然よ!」

「算盤を侮るな! この港の一つ一つの石が、民の暮らしを守る盾となるのだ!」

 政貞の剛槍が火花を散らし、元春の太刀を押し返す。力と力のぶつかり合い。戦国武将としての矜持が、火花となって散る。元春はその圧倒的な武圧で政貞を押し込もうとするが、政貞は一歩も退かない。

「ほう……。この元春を相手に、これほど粘るか!」

「殿……氏治様は言われた。民の口に入る米を奪う者は、例え仏でも通さぬとな!」


 その時、浪紫が合図を送る。港の各所に配置された、雑賀から回収した弾丸を再利用した狙撃隊が一斉に火を噴いた。だが、それは元春を殺すためではなく、彼の「進路」を限定するための牽制であった。

(……元春、あんたの勇気は認める。だが、あんたのその突進力が、逆に自分の首を絞める『バグ』になるんだ)


 浪紫の指示により、菅谷隊はあえて後退し、元春を港の最深部――あらかじめ「火薬の空箱」を積んだ袋小路へと引き込んでいく。

「追え! 菅谷を逃すな!」

 血気に逸る毛利勢。しかし、元春だけは本能的に察知した。自分たちが、目に見えない「計算の網」に絡め取られつつあることを。

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