第六十話:天下の雛形、軍師の青写真
尾張・清洲城。かつて信長が天下への足掛かりとしたこの城は今、浪紫の手によって巨大な「戦後処理事務所」へと変貌していた。
「……柴田殿、越前の統治は引き続き貴公に任せたい。ただし、兵農分離を加速させ、物流の(ハブ)拠点として港湾を整備してもらうのが条件だ」
「……浪紫殿、某に領地を安堵するのみならず、さらなる役目を貸すと?」
驚きを隠せない柴田勝家に対し、浪紫は膨大な図面を広げた。そこには、旧織田領と小田領を繋ぐ街道の整備計画や、共通通貨の導入案が緻密に記されている。
「貴公の剛毅さは、民に安心感を与える(インフラ)基盤となります。戦うためではなく、守るための武。信長殿が見たかった景色の、その先を共に創るのです」
勝家は黙って頭を下げ、図面を抱えて退出した。入れ替わりに、羽柴秀吉が軽やかな足取りで入ってくる。
「おやおや、権六殿もすっかり毒気を抜かれましたな。して、この猿にはどのような(ミッション)難題をくださる?」
「秀吉殿。あなたには(マーケティング)人心掌握と、海外交易の窓口を任せたい。堺の商人たちを束ね、この国の富を(アップデート)底上げする……。あなたにしかできない仕事です」
秀吉は目を細めた。浪紫の提案は、単なる論功行賞ではない。それぞれの適性を完全に見抜き、国家という巨大な(システム)機構の歯車として最適に配置するものだった。
「……くっ、敵いませんな。信長様があなたを認めた理由、ようやく心底理解できましたわ」
一方、城の庭では、小田氏治が真田幸村や菅谷政貞らと共に、戦没者の供養を行っていた。
「政貞。これからは、刀を振るうことよりも、鍬を持つ者たちを支えることの方が難しくなる。私を助けてくれ」
「ははっ。この政貞、どこまでも殿に供奉いたしまする」
その光景を天守から見下ろしながら、浪紫は独り言ちた。
(……信長殿。あんたが壊した古い世界の跡地に、俺は今、新しい(プラットフォーム)土台を築いている。真田の奇策も、秀吉の機転も、勝家の忠義も……すべてがこの国の血肉になる)
浪紫の脳内では、すでに数十年後の「日本」の設計図が鮮明に描かれていた。
戦なき世。それを夢物語ではなく、数式と論理で証明してみせる。軍師・浪紫零也の真の戦いは、ここから始まったのだ。




