第五十九話:落日の残火、軍師の再編(リストラクチャリング)
夜明けの光が、焦土と化した尾張の原野を照らし出した。
燃え尽きた本陣の跡には、信長の遺体はおろか、愛刀の一振りすら残されてはいなかった。ただ、天に昇る一筋の灰色の煙だけが、魔王がこの地に存在した証であった。
「……終わったのだな」
氏治が、煤に汚れた顔で呟く。その目には、敵であった信長への、隠しきれない敬意と悲しみが浮かんでいた。
だが、軍師である浪紫に、感傷に浸る時間は与えられていなかった。
周囲には、武器を失い、主を失い、呆然と立ち尽くす数万の織田兵。そして、手負いの獅子の如く、今なお殺気を放ち続ける柴田勝家と、冷静に周囲を伺う羽柴秀吉がいた。
「権六殿、猿殿。……信長殿の(オーダー)遺志は、私が受け取りました」
浪紫はゴーグルを外し、一歩前へ出た。その背後には、菅谷政貞や真田昌幸が、依然として警戒を緩めずに控えている。
「信長殿は、自らを犠牲にして(デバッグ)この国の戦乱という歪みを正そうとされた。これ以上の流血は、あの方が望んだ検証結果ではありません。……私は、あなた方の知略と武勇を、新しい(システム)天下の基盤として活用したいと考えています」
「……抜かせッ! 信長様なき世に、この勝家が仕える主などおらぬわッ!」
勝家が吠えるが、その声に以前の覇気はない。彼は誰よりも信長の潔さを理解していた。
「柴田殿、お気持ちは分かります。ですが、信長様は『未来を見せてみよ』と私に託された。あなたがここで死ねば、その未来を支える大きな(パーツ)力が失われることになります。……殿、今こそお言葉を」
浪紫に促され、氏治が勝家の前に歩み寄り、その大きな手を差し伸べた。
「柴田殿。私は貴公ほど強くはない。だが、誰もが笑って暮らせる国を創りたいという願いだけは、信長殿にも負けぬつもりだ。……力を貸してはくれぬか。貴公が守りたかったこの国の人々のために」
「…………」
勝家は、氏治の真っ直ぐな瞳を直視できず、地を這うように頭を垂れた。
その光景を見ていた秀吉は、ふっと肩の力を抜いた。
「……やれやれ。信長様も罪なことをなさる。浪紫殿、あなた様の(プラン)計画、面白そうだ。この猿の悪知恵、高く買っていただけますかな?」
秀吉の降伏。それは、織田家臣団が小田という巨大な(プラットフォーム)器へと組み込まれる、再編の始まりであった。
(信長殿……あんたの家臣たちは、俺が責任を持って(リブランディング)再生させてみせる。これが、あんたへの唯一の供養だ)
浪紫は、昇る朝日を眩しそうに見つめた。
戦国という時代が、音を立てて変わり始めていた。




