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第五十八話:最終検証(ラスト・シミュレート)

黒檀の如き名馬を操り、信長は小田軍の目前で手綱を引いた。周囲を両軍の猛将たちが囲む中、極限の緊張感が戦場を支配する。

「……浪紫。貴様の眼鏡には、今のこの戦況、いかように写っておる。余の『武』と貴様の『理』、いずれが勝ると踏む」

 信長の問いは、静かながらも重く響いた。浪紫はしは眼鏡を押し上げ、脳内で高速回転する(シミュレーション)戦況予測の数値を冷徹に見据える。

「……現状、五分。これ以上の消耗は、両軍の(システム)存続を危うくする限界点クリティカル・ポイントです」

「五分、か。ククッ……正直な男よ」

 信長は不敵に口角を上げた。その瞳には、枯れることのない闘争の炎が宿っている。「ならば浪紫、その五分を十にするか零にするか、余の全存在を賭けて最後の『検証』をしようではないか。余は、口先だけの理屈で天下を譲るほど安い男ではないぞ」

 信長の号令一過、戦場は再び沸騰した。

 「全軍、死中に活を求めよッ! 権六、道を作れ!」

 信長の咆哮に応じ、柴田勝家が血まみれの体で再び咆哮した。残存する織田の騎馬隊が、一塊の肉弾となって小田の「要塞陣形」に激突する。

「通さぬと言っておるだろうがッ!」

 菅谷政貞まささだが盾を砕かれながらも勝家の槍を素手で掴み、その突進を命懸けで食い止める。その隙間を縫い、羽柴秀吉の別働隊が、真田幸村ゆきむらの赤備えと泥沼の乱闘を繰り広げる。

「浪紫殿、敵の(ボルテージ)圧力が予測を超えています! 各所の防壁が(オーバーフロー)限界です!」

 源鉄斎げんてっさいの叫びが響く。浪紫は歯を食いしばり、自らも抜刀して本陣の指揮を執った。

「予備兵力をすべて投入! 陣形を円からくさびへ移行! 敵の熱量を構造で(ディスパージ)分散させるんだ!」

 信長自身も、抜刀して最前線にいた。迫り来る小田の連射砲火の中を、マントを翻して疾走する。彼の周りでは、彼を慕う名もなき旗本たちが、盾となって次々と倒れていく。その犠牲の上に、信長の刀が氏治うじはるの目前まで届かんとする。

 だが、その刃を止めたのは、浪紫が構築した最新の重装装甲を纏った源鉄斎の剛剣であった。

「信長公、ここまでだ……!」

 夜明け前の闇を、両軍の放つ松明と銃声が埋め尽くす。激闘数刻、ついに織田軍の攻勢が止まった。家臣たちは力尽き、信長もまた、肩で息をしながらも静かに笑っていた。

「……見事だ、浪紫。余の理は、今ここで潰えた」

 信長は満身創痍の体を引きずり、自ら火を放たせた本陣の天幕へと歩み寄る。紅蓮の炎が、魔王の最後を飾るカーテンのように燃え上がった。

「余の骸は誰にも渡さぬ。この炎と共に、織田信長という(データ)概念は消滅する。……後は、貴様が描く未来を見せてみよ」

 崩れ落ちる天幕。信長は最期まで魔王として、自らの終わりを自らの手で(デザイン)完結させたのである。浪紫はその炎を見つめ、静かに、だが深く一礼した。

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