第五十五話:精密なる反撃、魔王の愉悦
「放てッ!」
浪紫の鋭い号令と共に、源鉄斎が調整を重ねた「特型・連射大筒」が火を噴いた。それは信長の斉射砲のような破壊の面制圧ではなく、一点を穿つ「針」の如き(ピンポイント)精密狙撃であった。
放たれた数発の弾丸は、信長の本陣を囲む竹束を正確に射抜き、その奥に鎮座する「新型斉射砲」の装填機構を直撃した。
――金属がひしゃげる不快な音が響く。
「……ほう、余の『口』を封じに来たか」
信長は、目の前で火花を散らす斉射砲の残骸を平然と見つめていた。本陣が狙撃されるという危機的状況にありながら、その表情には奇妙な「愉悦」さえ浮かんでいる。
一方、前線では真田幸村の「赤」と、柴田勝家の「猛」が激突していた。
「若造が、真田の小細工など、この権六が叩き潰してくれるわッ!」
「小細工とおっしゃるな。これは浪紫殿の言う(アナウンス)次代への予告にござる!」
勝家の槍が幸村の肩口をかすめるが、幸村は怯まずに返す刀で勝家の馬の足を狙う。そこへ、古参の菅谷政貞が率いる小田の重装歩兵隊が、崩れかけた防壁を補強するように割り込んだ。
「柴田殿、お相手いたす! 殿の慈悲を仇で返す織田の無道、菅谷政貞が許さぬ!」
新参の真田が「動」で揺さぶり、古参の菅谷が「静」で耐える。浪紫が構築したこの(ハイブリッド)新旧混成の陣形は、織田軍の「個の武勇」を組織的な連携で封じ込め始めていた。
右翼で真田昌幸に翻弄されていた秀吉は、本陣の斉射砲が沈黙したのを見て、即座に判断を下した。
「……潮目が変わったか。信長様、これ以上の砲撃戦は(ロス)無駄にございますな。ここは一気呵成に、泥沼の白兵戦へ持ち込むしかありますまい!」
秀吉は、自軍に「総がかり」の合図を送った。知略による制御を捨て、数と執念で押し潰す、戦国本来の凄惨な(マッシブ・バトル)大乱戦への移行である。
浪紫のゴーグルに、敵全軍の突撃を示す赤い光影が溢れる。
(信長殿。あんたは兵器が壊れても、一歩も引かない。むしろ、この混迷を楽しんでいるのか……。ここからは計算だけじゃ済まない、魂の削り合いになる!)
夕闇は深まり、戦場は両軍の放つ松明の炎で赤く染まっていく。
信長と浪紫、二人の視線が爆炎を越えて重なった。




