第五十四話:真田の暗躍、菅谷の意地
柴田勝家が手負いの虎の如く突撃を開始したその時、小田軍の右翼、羽柴軍と対峙していた一角が激しく動いた。
「……父上、あちらの『猿』は少々賢明に過ぎるようですな。ここは一つ、我らが揺さぶって差し上げましょう」
若き真田幸村(信繁)が、紅蓮の甲冑を揺らしながら不敵に笑う。その背後には、かつて浪紫によって小田家へ引き入れられた「武田の遺産」、真田の精鋭たちが控えていた。
「落ち着け、弁丸。戦とは(リソース)資源の奪い合いよ。浪紫殿が敵の本陣を逆算している間、我らは敵の『目』を潰す」
父・真田昌幸は、手にした地図を眺めながら、浪紫が構築した通信網の隙間を縫うように、独自の伏兵を配置していく。
一方、氏治の身辺を固めるのは、代々小田家に仕える重臣・菅谷政貞であった。
「浪紫殿、真田の者共は勝手に動いておりますが、宜しいのですか! 拙者は、何があろうと殿の盾となり、この地を動かぬ覚悟にござる!」
政貞は、最新の兵器や真田の奇策に戸惑いを感じつつも、古参としての意地を剥き出しにして氏治を庇護する。
「政貞殿、それで良いのです。あなたが(コア)中心で動かないからこそ、真田殿が自在に動ける。……幸村殿! 敵の秀吉軍の足を、三刻そのまま釘付けにできますか!」
「承知! 織田の羽柴殿、真田の戦り方、存分に味わっていただきましょう!」
幸村の騎馬隊が、秀吉軍の側面を突く。それはただの突撃ではなく、浪紫が授けた「敵の予測を(エラー)狂わせる偽装退却」を組み合わせた、真田独自の変幻自在な攻勢であった。
秀吉の眼が驚愕に剥かれる。
「……何だ、あの赤いのは! 浪紫の理屈とは違う、もっと泥臭く、それでいて鋭い……! まさか、表裏比興の真田か!」
前線が真田と秀吉の化かし合いに沸く中、浪紫は源鉄斎と共に、信長の本陣へ向けた「精密狙撃」の準備を完了させた。
(信長殿、あんたの周りには忠義に厚い家臣たちがいる。だが、俺の周りにも、あんたが切り捨てた『情』と、俺が拾い上げた『異才』たちが集まっているんだ)
浪紫が狙撃大筒の引き金に指をかける。
その刹那、信長の本陣からも、冷却を終えた斉射砲が再び首をもたげた。
新旧の知略と、新参・古参の武勇が混ざり合い、戦場は一つの巨大なうねりとなってクライマックスへと加速していく。




