第五十三話:轟天の閃光、軍師の逆算(バックキャスト)
――咆哮。
信長の本陣から放たれた「新型斉射砲」の弾丸は、空を切り裂く特有の鋭い音を立て、小田軍の要塞陣形へと着弾した。
大地が爆ぜ、連結されていた鋼鉄の防盾が紙細工のようにひしゃげる。その衝撃波は、敵味方の区別なく、前線で揉み合う柴田勝家の精鋭たちをも吹き飛ばした。
「……っ、うあああッ!」
「権六殿!?」
爆煙の中、秀吉の叫びが響く。味方をも巻き込む信長の非情な一撃。だが、その閃光が収まったとき、信長の瞳に映ったのは、想定外の光景であった。
「……何だと?」
小田軍の陣地。中心部が抉られたかのように見えたが、氏治の座す本陣は無傷であった。着弾の直前、浪紫は要塞陣形の一部をあえて「自壊」させ、爆風の逃げ道を作ることで、致命的な損壊を回避していたのである。
「浪紫……柴田殿の兵たちが、あんなに……」
氏治が、爆煙に包まれる織田兵を見て声を震わせる。
「殿、目を逸らさないでください。これが、信長殿が選んだ(最適解)答えです。味方の命という(コスト)代償を払ってでも、標的を仕留める。……ですが、その冷徹さこそが、今この瞬間の『隙』となります」
浪紫はゴーグルを叩き、手元の端末(算盤と図面を組み合わせた計算具)を激しく弾いた。
「源鉄斎殿! 今の射撃で信長殿の(ポジション)正確な位置を特定しました。斉射砲の再装填には、その長すぎる銃身を冷やすための(クールダウン)冷却時間が必要なはず!」
「おう、待っていたぞ! 奴の首を狙えるのは、今この時しかないというわけだな!」
源鉄斎が、後方に控えていた「特型・連射大筒」の覆いを取り払った。それは、浪紫が対信長戦のために秘匿していた、機動力重視の「狙撃仕様」であった。
(信長殿。あんたが『破壊』に特化したなら、俺は『精度』で対抗する。あんたが未来を奪うというなら、俺は今この瞬間の未来を(バックキャスト)逆算して掴み取る!)
一方、爆風に晒されながらも立ち上がった柴田勝家は、自身を囮とした主君の冷徹さに絶望するどころか、血塗れの顔で不敵に笑った。
「カカッ……流石は信長様よ。この権六の命、確かに使い切ってみせようぞ!」
傷ついた鬼柴田が、最後の力を振り絞り、氏治の首を目指して再び駆け出す。
知略の逆算と、狂気の忠義。両軍の魂が、尾張の夕闇の中で激しく火花を散らす。




