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第五十一話:鬼柴田の咆哮、軍師の計測

轟音と共に放たれた織田軍の「新型斉射砲」は、小田軍の最前線に配置された防盾を無慈悲に粉砕した。

「……っ、想定を遥かに超える威力と射程だ! 源鉄斎げんてっさい殿、第一防衛ラインを(パージ)切り捨て! 第二、第三の重層陣地まで後退を!」

 浪紫はしは激しい振動に揺れる本陣で、ゴーグルの奥の瞳を鋭く光らせた。思考の海では、敵の火力が15%は見積もりを上回っているという警告が鳴り響いている。

「無念だが、この威力には抗えぬな! 全軍、第二陣地へ引けッ! 殿をお守りしろ!」

 源鉄斎の号令により、小田軍は整然と、だが迅速に後退を開始する。その背後を、織田の猛将・柴田勝家かついえが、千載一遇の好機と見て突き進む。


「逃がすかァ! 逃げて守れるほど、織田の武威は甘くないわッ!」

 勝家が振るう大身槍おおみやりの一閃が、逃げ遅れた小田の歩兵を薙ぎ払う。彼ら織田の家臣団にとって、この戦いは単なる合戦ではない。浪紫という「理屈」で自分たちの生き様を否定しようとする者への、命を賭した反論であった。

 同時に、右翼からは羽柴秀吉の軍勢が、まるで意思を持つ生き物のように小田軍の隙間へ食い込んでくる。


「浪紫殿、右翼の圧力が限界です! 大筒の旋回が追いつきませぬ!」

「……秀吉殿か。あの方は(アルゴリズム)戦いの手順が極めて柔軟だ。こちらの迎撃の型を、実戦の中で(リアルタイム)即座に学習している……!」

 浪紫の脳内では、戦場全体の情勢が刻一刻と赤く染まっていく。

(信長殿……あんたは、俺が持ち込んだ技術をただ模したんじゃない。その強力すぎる力を制御するために、家臣たちの『命』を歯車として組み込み、この巨大な破壊機構を完成させたのか)


 それは、浪紫が理想とする「犠牲を出さない合理」とは真逆の、犠牲を前提とした魔王の合理であった。

 後退する氏治うじはるは、爆煙の向こうで奮戦する源鉄斎や、倒れていく兵たちの姿を見て、唇を噛み締めた。

「浪紫……。これ以上、誰も死なせたくない。私のわがままだとは分かっている。だが、あの柴田殿も、羽柴殿も、きっと民を想う心はあるはずなのだ!」

「……分かっております、殿。だからこそ、ここで彼らの『武』を真正面から受け止め、その上で無力化しなければならない」

 浪紫は、懐から信号弾しんごうだんを取り出し、空へと放った。

 それは、後退を装った誘い込みの合図。

「源鉄斎殿、計測キャリブレーション完了。要塞陣形の真価を、ここでお見せします。織田の皆様には、少々手痛い(コスト)代償を支払っていただきましょう」

 爆煙の中、小田軍の陣容が再び変貌を開始する。

 それは、ただ守るためではなく、信長の家臣たちが誇る「武」を、その根底から揺さぶるための知略のおりであった。

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