表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/107

第四十九話:虚妄の銃弾

一発の鋭い銃声が、静寂を切り裂いた。

 狙いは正確だった。一揆勢の背後に潜んだ織田の工作兵が放った弾丸は、小田軍の中心、床几に座る氏治うじはるの胸元を正確に捉えていた。

「殿!」

 源鉄斎げんてっさいが叫ぶより早く、浪紫はしの手が動いていた。

 浪紫の指示で氏治の前に配置されていた、最新の防弾繊維を組み込んだ薄型防盾シールドが、鈍い音を立てて弾丸を弾き飛ばす。

 氏治は無傷。だが、問題はそこではなかった。

「……撃ったぞ! 小田が民に向けて撃ったぞ!」

 一揆勢の中に紛れた織田の工作兵たちが、一斉に叫び声を上げた。信長の狙いは、この「偽のきっかけ」によって民衆の怒りを爆発させ、小田軍を血の海に引きずり込むことにある。

「おのれ、卑劣な……!」

 源鉄斎が刀を抜こうとするのを、浪紫が片手で制した。

「待ってください、源鉄斎殿。今抜けば、信長殿の(ビジネスモデル)描いた図式通りになる。……殿、今です!」

 浪紫の声に応え、氏治が静かに立ち上がった。彼は弾丸が飛んできた方向、すなわち怒り狂う民衆の方へと、あえて一歩踏み出したのである。

「皆、落ち着いてくれ! 私は、誰も傷つけたくない。この弾丸も、私を殺すためのものであっても、私は誰も恨まない!」

 氏治の声は、不思議なほどに戦場に響き渡った。

 最新の音響増幅装置(拡声器)を、浪紫が密かに氏治の鎧に仕込んでいたのだ。

(……信長殿。あんたが情報を汚染テイントするなら、俺は『ライブ感』で上書きする。録音レコーディングされた過去の噂よりも、今目の前で起きている奇跡ライブの方が、人の心は動く!)

 氏治は、自分の防具を一つずつ外し、地面に置いた。

「ほら、見てくれ。私は丸腰だ。もし私が皆を殺すという噂が本当なら、今ここで私を討てば良い。だが、私はただ、皆と笑って暮らせる日が来ることを願っているだけなのだ!」

 民衆の動きが止まった。

 彼らが握る竹槍が、小刻みに震えている。自分たちが「魔王」と恐れていた相手が、実は自分たちよりも遥かに優しく、そして自分たちの命を誰よりも慈しんでいる。その「現実」が、信長の植え付けた「虚妄」を、内側から食い破り始めていた。

 その光景を、織田軍本陣から眺めていた信長の瞳に、冷たい炎が宿った。

「……ほう。余の弾丸を、聖者の説法に変えたか。サル、見たか。あれが浪紫の『再定義リブランディング』だ」

 秀吉は、額に脂汗を浮かべながら応えた。

「はっ……。民衆の心が、信長様から離れていくのが分かりまする。ありゃあ、もはや戦ではございませぬ。教えにございますな」

「キンカン。一揆勢を下がらせよ。このままでは奴らに背後を突かれかねん。……権六(勝家)! 奴らの『奇跡』を、鉄と血の『現実』で塗り潰せ! 突撃だ!」

 信長は、ついに隠し持っていた切り札――国友の職人たちに作らせた、三段構えを凌駕する「新型斉射砲」の投入を決断した。

 民衆という盾を失った戦場に、織田軍の真の武力が、荒れ狂う嵐となって襲いかかろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ