第四十三話:泥中の再建(さいけん)
戦場は混沌の極致にあった。
連射大筒やロケット噴進筒といった、小田軍が誇る「圧倒的火力」は、密集した行軍隊列と近接乱戦という状況下では、味方を巻き込むリスクのために封じられていた。
「退くな! 隊列を組み直せ!」
浪紫は馬上で叫ぶが、その声は三河武士たちの咆哮にかき消される。
本多忠勝の振るう「蜻蛉切」が、小田軍の先陣を文字通り一閃のもとに薙ぎ倒していく。その武威は、もはや戦術という枠組みを超えた天災の如き破壊力であった。
「浪紫殿、ここは一旦下がるべきだ! 私が殿(氏治)をお連れして後退する!」
源鉄斎が血飛沫を浴びながら、浪紫の傍らへ駆け寄った。
「いいえ、源鉄斎殿。今ここで背を見せれば、小田家がこれまで築いた『無敵の神話』が瓦解する! それは、我が社(組織)にとって回復不能なブランド毀損にございます!」
(……予定外の損失だ。だが、ここでの対応が、今後の織田戦の命運を分ける。三河武士の感情を否定するのではなく、その熱量を逆利用して冷却させるしかない!)
浪紫は、懐から信号弾用の筒を取り出し、空へと放った。
それは退却の合図ではなく、後方に控えていた「工兵隊」への指示であった。
「街道の橋を落とせ! 土塁を築け! 敵を倒す必要はない、彼らの『進路』を物理的に遮断しろ!」
浪紫の指示により、瞬く間に街道の要所に土煙が上がる。小田軍が秘かに開発していた急速硬化する泥土(一種のコンクリートの原型)が、徳川軍の突撃路を寸断していく。
勢いを削がれた徳川軍の前に、浪紫はあえて丸腰で馬を進めた。
「家康殿! 貴殿の『義』、確かにこの浪紫の五臓六腑に刻みました! だが、このまま共倒れになれば、それこそ信長殿の思う壺にございます!」
激闘の最中、家康もまた、最前線で刀を抜いていた。
浪紫の叫びに、家康の動きが止まる。その目は血走っているが、同時にどこか冷めた自嘲の光が宿っていた。
「……浪紫殿。三河武士は、狂うことでしか信義を貫けぬのだ」
「であれば、その『狂気』、私が高値で買い取りましょう!」
浪紫は眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせ、言い放った。




