第三十三話:房総の火、鉄の雷(いかずち)
上洛への露払いとして、浪紫が最初に狙いを定めたのは、房総の里見であった。
かつて併合を受け入れながら、織田の誘いに乗って背後を突こうとしたその不忠。浪紫に慈悲の心はなかった。
「里見の規模は、佐竹に比べれば小さい。ですが、安房の峻険な地形を恃みにしております。……正面から攻めるのは、時間の無駄というもの」
浪紫は、源鉄斎に命じて完成させた「新兵器」の数々を船に積み込ませた。里見が誇る「水軍」を逆手に取り、海からその本拠を叩く算段である。
(……地形の利など、座標を固定された標的に過ぎない。まずは里見に、火力のアップデートを体験してもらう)
里見の拠点、久留里城を包囲した小田軍。城門を固める里見軍に対し、浪紫はこれまでのような大筒ではなく、複数の筒を並べた「多連装噴進筒(ロケット砲の原型)」を披露した。
「放て」
浪紫の冷徹な号令と共に、火を噴く鉄筒が次々と放たれた。それは、一本一本が炸裂弾を積んだ「空飛ぶ槍」であった。
ドォォォォン!! と凄まじい爆発が城壁を粉砕し、里見の兵たちは見たこともない「空から降る連撃」に、戦う術を失い逃げ惑う。
「……何なのだ、この火は! 仏罰か、あるいは……!」
里見の将兵が絶望に沈む中、浪紫はさらに追い打ちをかけるように、大凧から新種の煙幕弾を投下。城内は瞬く間に視界を奪われ、混乱は極致に達した。
わずか一日。
かつて名門と謳われた里見氏は、その新兵器の圧倒的な破壊力の前に、戦わずして膝を屈することとなった。
「氏治様、里見は片付きました。……次は、北の佐竹と結城です」
浪紫は、降伏の誓詞を淡々と処理しながら、すでに視線を常陸北端へと向けていた。そこには、里見の敗北を震えて見守る、さらなる「標的」たちが待っていた。
(……さて、次は情報の書き換えだ。佐竹と結城、互いに信じられなくなるまで、徹底的に疑心暗鬼を植え付けてやる)




