第二十三話:天空からの劫火
佐竹領内、広大な平野を埋め尽くす佐竹・宇都宮連合軍八千の兵は、目に見えぬ「毒」に侵されていた。
宇都宮勢の陣内では、浪紫が放った間者による流言が、恐慌の種を蒔いている。
「越後の上杉が小田と組み、我らの背を狙っている……」
「上杉が一戦も交えず引き揚げたのは何かの密約があったらしい……」
「上杉がもう我が領のすぐ北に陣をはったらしい……」
この噂が宇都宮勢を混乱に陥れ金縛りにし、先陣を切るはずの彼らを「北の守り」へと張り付かせていた。
その混乱を、小田本陣の浪紫は冷徹に観察していた。
(……足並みはバラバラ。OSは既にバグで埋め尽くされた。次は、彼らの理解を超えた物理攻撃を当てる番だ)
「大凧隊、発進。風を読み、敵の本陣中央へ落とせ」
浪紫の合図で、後方から数機の大凧が舞い上がった。
浪紫がこの時代にはない「空爆」という手段を現代の知識を動員させて、密かに開発、訓練を行なっていたのだった。
工兵が操る大凧は、連合軍の頭上高くに達すると、導火線に火をつけた焙烙玉が次々と敵陣のあちらこちらに吸い込まれてゆく。
ドォォォォン!!
空から降り注ぐ炎と轟音。当時の戦術概念にない「上空からの攻撃」に、兵たちは腰を抜かし、祈る者、逃げ惑う者で陣形は瞬時に瓦解した。
「今です。……単発大筒、射程よし。敵の総大将を狙う必要はありません。本陣の『旗印』と『幕』を吹き飛ばせ!」
地響きと共に放たれた大筒の砲弾が、正確に佐竹・宇都宮の両本陣の旗をなぎ倒した。総大将の象徴が消えたことで、連合軍の士気は完全に氷結した。
その時にそれぞれの陣営から
「宇都宮が寝返ったぞ!」
「佐竹が逃げ出したらしいぞ!」
という声が上がり両陣営は大恐慌を起こした。
当然これは浪紫が両陣営に忍び込ませた間者の仕業である。
「勝貞殿、仕上げをお願いします。深追いは無用。本陣のみを奪い、我らの威光を知らしめるのです」
「心得た! 浪紫殿、見事なお膳立てよ!」
小田家の勇将・菅谷勝貞が、精鋭五百の騎馬・歩兵を率いて風のように駆け出した。
パニックに陥り、宇都宮と佐竹が互いに疑心暗鬼になっている連合軍。五百の精鋭が「逆撃」ではなく「整理」でもするかのように突き進むと、八千の軍勢はなすすべもなく左右に割れ、道を開けた。
勝貞の槍が佐竹の本陣を蹂躙したその頃、氏治は本陣で目を輝かせながら、浪紫の隣でその光景を前のめりになって見守っていた。
わずか五百の突撃で、八千の連合軍が敗走を始める。常陸の空には、小田家の「勝利のシステム」が残酷なまでに美しく鳴り響いていた。




