第十九話:土(つち)と刃(やいば)の再定義
「街道に金が流れ始めた今こそ、この国の『根っこ』を入れ替える時です」
浪紫は、氏治と重臣たちの前で、これまでにない真剣な面持ちで語り出した。
「まずは『検地』を行います。この国の土が、一体どれほどの米を産むのか。隠し田を許さず、一反の狂いもなく測り直します」
広間にざわめきが広がった。土地を測り直すことは、国人の権益を削ることに他ならない。だが、浪紫は言葉を止めない。
「そして、一つの土地には一人の耕作者のみを認め、その者が責任を持って村単位で年貢を納める『村請』を始めます。荘園のような複雑な利権はすべて廃止し、収穫の行き先を一つに絞るのです」
(……中間搾取を徹底的にカットして、リソースを国庫に直結させる。これができないと、この先の軍事予算が組めないからな)
「だが浪紫殿、それでは農民が戦の時に槍を持たなくなるのではないか?」
源鉄斎が懸念を口にする。それこそが、浪紫の狙いだった。
「左様。これからは農民に戦をさせませぬ。農民は田を耕すことに専念させ、戦は、私が新たに作る『職業軍人』が担います。これを『兵農分離』と呼びます」
浪紫は、図面に「兵舎」と「練兵場」の配置を書き込んだ。
「これまでの兵は、農繁期になれば村へ帰りたがり、長引く戦には耐えられませんでした。しかし、戦うことそのものを生業とし、毎日訓練を積む精鋭の軍勢を常に抱えておけば、季節を問わず、いつでも敵を撃破できます。……小田の軍は、質も耐久力も、他国とは桁が違うものになります」
(……パッチを当てて、不安定な『ボランティア軍』を、高パフォーマンスな『常備軍』に換装する。給料は、楽市と検地で得た金と米で賄えばいい)
「……国の形を根底から変えるというのか。お主の描く小田は、もはや我らの知る『国』ではないな」
氏治が、恐れを通り越して眩しそうに浪紫を見つめた。
土地の利権を整理し、最強の常備軍を創出する。この「劇薬」が、小田家を関東の小大名から、天下を伺える「怪物」へと変貌させようとしていた。




