表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/107

第十八話:常陸(ひたち)の楽市(らくいち)

「街道を整えるだけでは、血が流れる器を作ったに過ぎません。そこに、勢いよく血を……すなわち『人』と『金』を流し込む仕組みが必要です」

 浪紫はしは、整備され始めた街道の起点となる城下の一角を指差した。

「ここを、いかなる特権も持たぬ者が自由に商いを行える『楽市』といたします」

「楽市……? の者たちを通さぬというのか」

 源鉄斎げんてつさいが驚きの声を上げた。当時、商売は「座」と呼ばれる特権団体が独占しており、そこから上がる税は貴重な財源だった。それを捨てるという提案に、重臣たちが騒ぎ出す。

「座に守られた商いでは、新たな知恵も、外からの風も入りませぬ。私はここでの商いに対し、一切の座賦ざふを免除し、税も最小限に抑えます」

(……まずは参入障壁コストを極限まで下げて、ユーザー数を一気に増やす。プラットフォーム構築の基本戦術だ)

 眼鏡の奥で、浪紫は冷徹に市場の拡大を計算していた。

「だが浪紫殿、それでは小田のふところうるわぬではないか」

「いいえ。商人が増えれば、そこで取引される『物』の量が変わります。宿場での宿泊、馬の貸し出し、そして我が小田が独占する『薬水』の売り上げ……。一つ一つの商いから小銭をかすめるより、巨大な市場が回ることで生まれる『周辺利益』の方が、はるかに莫大ばくだいにございます」

 浪紫はさらに、街道に設けた関所についても言及した。

「街道の関所は、あくまで『防衛のかなめ』。商いの足を止める通行税は、思い切ってはいします。その代わり、小田の楽市に入る商人は、我らの街道以外を通ってはならぬというおきてを作るのです」

 これには、経済にうとい武士たちもひざを打った。

 税を免除して人を集め、その代わりに「小田の道」というシステムの中に全員を閉じ込める。他国の商人が競って小田に集まるようになれば、近隣の佐竹や北条の領内からは逆に商人が消え、経済的に上がることになるのだ。

「……まるで、見えぬくさりで関東の商人をしばり上げるような策よな」

 鉄斎があきれたように、だが感心したように笑った。

(……よし、これで小田家というサーバーへのアクセスが爆増する。後は、この経済圏をどう『守る』か……軍事的なセキュリティの強化も並行して進めるか)

 小田の城下は、かつてない活気に包まれようとしていた。浪紫が描く「戦わずして勝つ盤面」が、着実に形を成していく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ