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第十七話:虎口(こぐち)の街道

本文

「……浪紫殿、正気か。道を整えれば、敵の馬もまた速くなる。小田の喉元のどもとに刃を突きつけるようなものではないか」


 源鉄斎げんてつさいの厳しい指摘に、家臣たちが一斉に頷うなずいた。


 浪紫はしは待っていましたと言わんばかりに、図面の一箇所を指差した。


「左様さよう。ですから、ただ真っ直ぐな道を通すほど私は愚かではありません。整備するのは『小田へ向かう道』ではなく、『小田を通過しなければ損をする道』です」


 浪紫が提案したのは、街道の要所ようしょに設ける「宿場しゅくばの要塞化」であった。


「街道の各所に、薬水の補給所を兼ねた『関せき』を設けます。そこには小田の精鋭せいえいを配し、通行する者すべてに改め(チェック)を行います。道が良くなれば商人は集まりますが、その商人の列に紛れた間諜かんちょうや兵を、この関で見逃すことはありません」


 さらに浪紫は、図面に奇妙な折れ線を書き加えた。


「そして有事の際、街道の各所に設けた橋や、切り通しの崖がけを即座に爆破……いえ、崩落ほうらくさせて道を塞ふさぐ仕掛けを施します。普段は天下の名道、いざとなれば敵を閉じ込める『死の袋小路ふくろこうじ』。これを我らは『龍の喉のど』と呼びましょう」


 浪紫の口から出る言葉は、平時と有事の切り替えを前提とした、極めて合理的な防衛構想であった。


(……要は、ファイアウォール付きの専用回線デディケイテッド・ラインだ。関所をサーバーの認証ポイントに見立てれば、物流を掌握しつつウイルス――敵軍を弾はじき出すことができる)


 独り言を飲み込み、浪紫は言葉を継ついだ。


「商人が安全に、かつ楽に荷を運べる道。他国がこれを真似まねようとしても、我らの『薬水』と『管理体制』がなければ、ただの危ない道でしかありません。他国に続く道も、先方さきがたの領主には『通商の利』を説いて共同で整備させますが、その中枢ちゅうすうは常に小田が握るのです」


 鉄斎たちは、浪紫の描く広大な構想に、もはや反論する術すべを失っていた。道を繋ぐことは、領土を広げることよりも確実に、他国を小田の支配下に引きずり込むことを意味していた。


「……なるほど。道で敵を招くのではなく、道で敵を搦からめ捕るというわけか」


 氏治が満足げに頷く。


 常陸の山々を縫うように、小田の「神経」が伸び始めようとしていた。

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