表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫を追っかけたら「おだ」違いの小田さんに出会ったので戦国最強にしちゃいました   作者: 五稜 司


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

102/107

第百一話:虚報の檻(フェイク・ニュース)

島津との激闘から一夜明け、小田軍の陣営には重い沈黙が流れていた。兵たちは武器を抱えたまま泥のように眠り、将たちもまた、その疲弊を隠しきれない。

 そんな中、浪紫はし零也は一人、鹵獲ろかくした島津の印章や書状を前に、筆を走らせていた。


「浪紫殿、まだ休まれぬのか。龍造寺の影に怯えていては、身が持ちませぬぞ」

 見回りに来た天羽源鉄斎あもうげんてつさいが、机上の惨状を見て眉をひそめた。そこには、島津家臣の筆跡を完璧に模倣もほうした、数多あまたの書状が散らばっていた。


「源鉄斎殿、これが我らの防御の要になります。今、我が軍に必要なのは英気を養う時間。そのためには、龍造寺という歯車を一時、止めねばなりません」

 浪紫は眼鏡を拭い、冷徹な笑みを浮かべた。


「これは……島津義弘が、兄の義久よしひさへ宛てた密書か? だが、義弘は既に捕らえたはず」

「ええ。ですが、龍造寺はそれを知りません。正確には『まだこの戦場は生きている』と思い込む状況に追い込みます。この書状にはこう記しました――『手はず通り、小田の主力を引き付け、泥濘ぬかるみに釘付けにした。兄者は直ちに背後より襲いかかり、これを壊滅せしめよ』と」

 浪紫の狙いは、龍造寺隆信りゅうぞうじたかのぶの慎重な野心を逆手に取ることだった。


(龍造寺のような利にさとい男ほど、不確定な要素を嫌う。島津が健在であり、小田を包囲・殲滅せんめつする策が進行中だと思わせれば、彼は『漁夫の利』を得るどころか、返り討ちに遭うリスクを恐れて足が止まる)


「この書状を、龍造寺の斥候せっこうが容易に拾えるよう、死体の懐に忍ばせておきます。敵にとって、これは盗み出した『真実』に見えるはずだ」

 源鉄斎は、浪紫が作り上げようとしている巨大な虚構の仕掛けに息を呑んだ。


「戦わずして、敵の判断を誤らせるというのか。……恐ろしい男よ。貴殿の頭の中には、一体いくつの勝ち筋があるのだ」

「筋書きは一つですよ、源鉄斎殿。人々の認識という名の戦場を制圧すれば、一兵も動かさずに勝機を掴めます」


 浪紫は最後の一通に、島津の偽の血判を押し、それを静かに乾かした。

 肥前の熊・龍造寺隆信。その牙が小田の喉元に届く前に、浪紫の放った偽りの情報の網が、静かに九州の北を覆い始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ