第十四話 規格外の常識は規格外である
愛華達が三人で行動すると最初に聞いた時は桐谷が勝手なことをするなと怒り出したが、足手まといが少ない方が早く課題が片付いて良い事を説明すると納得してくれた。
もっともその足手まといがどちらかまでは明言しなかったが。
それからすぐにこちらと行動を別にした愛華が実にあっさりとコボルトを倒すのを、俺は遠くからしっかりと目撃していた。錬金真眼の透視と視力強化があればこのくらいのことは容易いのである。
そしてそれは魔物を見つけることに関しても同じことが言える。
木々が生い茂って視界が遮られていようがこの目の前では意味をなさないのだ。
(愛華の方もあの調子だとあっさり終わりそうだし俺の方も終わらせておくか)
愛華は自分でも上手く行き過ぎていることに不思議そうだが、俺が鍛えているのだからあれくらいは出来て当然だと言える。
それと探索者になって最初の方は、急にステータスが上昇すると馴染むまで多少の時間が掛かることがある。恐らく身体が急な能力の向上に対応しきれないのが原因だろう。
だがゴブリンキング周回と竜殺しの指輪で上昇したステータスが、時間が経って身体に馴染めばあの程度は今の愛華なら造作もないということだ。
桐谷は未だに複数を相手にするのを嫌がって単独でいる奴を探し回っているせいでペースが遅い。
この分だと愛華達の方が圧倒的に早くノルマをクリアしてしまうだろう。
それでも俺達三人だけなら制限時間に間に合うだろうが、それを待っているのは怠いので自分の分だけでも片付けることにした。
背後からこっそり付いてきている試験官の使い魔に手を振って合図を送る。
そして複数体だからと桐谷達が戦うのを見送ったコボルトの首を刎ねて瞬殺してみせた。
しっかりと使い魔がそれを見ていることを確認した上で死体はアルケミーボックスに収納して解体する。
五体では全然足りないので桐谷達が戦わなかった集団などは残さずこっそり俺がいただいていく。
「……あまり狩り過ぎないでください。討伐対象がいなくなってしまっては試験にならないので」
近くの枝に止まっていた梟の姿をした使い魔がそう話しかけてくる。
見た感じ生物を使役しているのではなく、スキルか何かで作り出された生命体のようだ。
それなりの戦闘能力を有しているみたいだし桐谷達が命の危機に陥ったのならこいつが助けに入るのだろう。
「了解、一旦狩りは止めておくよ。ところで俺はノルマクリアでいいんだよな?」
「見ていたのが分かっていて聞かないでください。しかしですね、ノルマはクリアでもメンバーと出来る限り協力するという条件を満たしていないようにも見えますが?」
確かに俺は一人で勝手にコボルト五体を討伐しただけで誰とも協力していない。
冗談めかした口調なので相手が本気ではないのは分かっているが、悪戯心からちょっとやってみることにした。
「なるほど、ならこうしよう」
桐谷達が進んでいる先にいる三体のコボルトのうち二体を仕留めてアルケミーボックスに即座にしまう。
その上でその場を離れることを一瞬の内でやってみせた。
殺された個体も何が起こったのか分かっていないだろうし、仲間を殺されて急に一人になった奴も困惑しているようだ。
「これで協力したってことで」
「……あなたは本当にランク1に戻ったのですか?」
「ああ、嘘偽りなく本当だよ。なんならその真偽看破のスキルで確認してみたらどうだ?」
だが残念。実際にそれは本当なのだ。幾ら試してもその答えは変わることはない。
「それも気付かれていたのですか」
「バレバレだよ。隠すならもっと自然にやらないとな」
真偽看破のような使用する際にMPを消費するタイプのものは、慣れていないとその魔力(MP)を消費した際に何とも言えない波長みたいなものが周囲に漏れ出るのだ。
それを高位の探索者達は決して見逃さない。
しかも今の俺にはよく見えるこの眼まであるのだ。
誤魔化すならそれこそ歩くのと同じくらいに自然にやれないと話にならないのである。
なお本来はこういう特殊なスキル攻撃を受けたのか分かるようになるためには、異常感知などのそれに対応したスキルを取る必要があるので、普通はそれ以外でバレる方がおかしいのだが。
まあ高位の探索者はどいつもこいつもおかしいので仕方がない。
(それに仮にわからなくても偽装隠蔽の能力が錬金真眼に発現した今では、レベルの低い真偽看破スキルではそもそも見破れなくなってしまっているだろうけどな)
「……本部長達があなたを重視する理由が嫌というほど分かりました。あなたも普通でなければその教え子も普通ではないみたいですしね」
「そうか? 愛華はまだ常識の範疇だろ?」
コボルトを瞬殺するくらいでは腕は良いとしても規格外なんてとてもじゃないが言えないはず。
だが試験官が重視したのはそこではなかった。
「本人から聞きましたよ。ゴブリンキングとの戦闘経験を積んだことがあるG級が常識の範囲内な訳ないでしょう」
「あー……それはそうだな」
「全く、あなたは自分が優秀だからなのかその基準がかなり高くなっていますね。本来のG級ならコボルトを無傷で倒せるだけでも優秀なくらいなのですよ」
言われてみれば確かにそうだった。
俺基準で考えて鍛えているせいと、愛華がそれに負けずに想像以上の速度で成長していくからちょっとばかりやり過ぎてしまったかもしれない。
(まあでも、今後のことを思えばそれが役に立つってことで)
いち早く昇級するためにはそのくらい必要だということにしておこう。
「よし! これで俺は課題クリアだ!」
ようやくノルマをクリアしたことで喜んでいる桐谷と、既に三人全員がノルマクリアしている愛華達を見比べながら俺は少しだけスパルタ過ぎたかもしれないと反省するのだった。
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