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[書籍第2巻、4月18日発売!]隻眼錬金剣士のやり直し奇譚-片目を奪われて廃業間際だと思われた奇人が全てを凌駕するまで-【第4回HJ小説大賞 年間最優秀賞受賞!!!】  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中
第三章 終わら(せられ)ない借金生活とダンジョン氾濫編

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幕間 後輩の成長具合 後編

「それじゃあ俺はあっちに行くか。それで三対三になるし丁度いいだろう」


 頑張れよ、そう言い残して先輩は桐谷たちの方へと歩いていった。

 というか指導する姿とかあの余裕といい、ついついあの人も私と同じ受験者なのを忘れそうになる。


「あの本当に分かれて大丈夫なんですか? 試験官は一人なのに」

「それは問題ありませんよ。私のスキルであちらは常に監視しておきますから。もっとも彼が居るのならその必要もないと思いますが」


 心配した実美の質問に答えた試験官の最後の呟くような言葉で確信した。


 その彼という言葉が指し示すのは桐谷ではなく先輩だと。


 やっぱりこの人は先輩の強さを分かっている。

 たぶん協会の上の人から報告を受けているのだろう。


 それで全ての実力を把握しているのではないだろうが、少なくともこんなダンジョンでどうにかなる人ではないことくらいは分かっているに違いない。


 だからこの人は私達の方に付いてこようとしているのだろう。


「あのバカと一緒にやらないで済むならそれに越したことはないし、無理だったらあっちと合流すればいいっしょ。とりあえずやってみようよ」


 ひまりは桐谷と一緒なのがそんなに嫌なのか、分かれての行動に賛成のようだ。


「ところで魔物を索敵する手段は持ってる?」

「ごめーん、私は持ってない」

「私は気配感知のスキルを持ってます。レベルⅠなのでそんなに範囲は広くないですけど」

「それじゃあ決めていた通り私が先頭を進んで魔物を探しましょうか。実美は魔物を感知したら教えて」

「分かりました」


 互いにスキルやランクを教え合ったらなんと実美が8でひまりが9だった。

 そして私がランク4でスキルを何も持っていないことに驚かれる。


 そのせいで本当に大丈夫なのかと何度も心配されたが、その疑問は半ば強引に押し切った。

 幾ら言葉で言っても信じてもらえないだろうから実査に見てもらう以外にないのだし。


 そうして先輩たちと別れて進むこと少し。


「居ました! 右手の方向に二体です」


 まだこちらには気付いていないようなので先制できる。

 そう考えると感知系のスキルの優秀さがよく分かるというものだ。


 出来る限り静かにその反応があった方に進むと、


「あそこね」


 茂みの奥に二体のコボルトが居るのが見えた。

 まだこちらには気付いておらず無防備な背中を晒している。


「私が出ると同時に実美は右の奴を弓で攻撃してひまりはその援護。その間に私は左の奴を受け持つから」


 ここまで来た以上はやるしかない。

 私達は覚悟を決めた行動を開始した。


 予定していた通り私が茂みを飛び出したと同時に実美が矢を放つと、それが風を切って標的の背中に突き刺さる。


「グオオ!?」


 攻撃を受けた個体が苦痛を感じて咆哮を上げるが、それを無視して私は無事な方へと接近していく。


 そこで私が相手をする個体も襲撃に気付いたのか唸り声をあげてこちらを睨んできていた。


(武器は持ってないから気を付けるのは牙と爪)


 先輩から貰った指輪があるおかげだろう。


 これまでよりもずっと軽くなった体で駆けていける。


 その行き先を阻むように矢の一撃を受けた方が腕を振って私に爪を突き立てようとするが、


(あれ? 遅い?)


 それによく見える。


 ランク4に上がった時以来のダンジョンだが、ランクアップとアイテムで上昇したステータスの違いがここまで影響を及ぼすとは。


 邪魔なコボルトの一撃を私は余裕をもって緩急だけで回避する。

 目の前を鋭い爪が通り過ぎていくが全く怖くない。


 そしてギリギリで回避したおかげで反撃も容易だったせいか、私は無意識の内に本来の相手ではないコボルトの犬顔目掛けて握ったメイスを振りぬいていた。


 ゴキッ! という鈍い音と共にその首があらぬ方向へと曲がっている。


 そしてその個体が倒れる前にすぐに本来の目標へと接近すると、愚かにも驚きから動きを止めているその頭に容赦なくメイスを振り下ろす。


「……あ」


 グシャっといういつもの感覚を感じて、そこでハッと気付いた。


 つい反射的にやってしまったが本来は最初に仕留めた奴は私の獲物ではなかったではないか。


「ごめん! ついやっちゃった!」


 振り返りながら作戦無視した行動を取ったことを謝ると何故かそこには呆然と立ち竦む三人の姿があった。


 何故か試験官まで驚いているようだが、私のミスに呆れているのだろうか。


「本当にごめん! 次の獲物はちゃんとそっちに譲るから!」

「いやいやいや、そうじゃなくて!」

「本当にランク4ですよね? え、嘘じゃないですよね?」


 そんなに驚くことだろうか。この程度の相手ならランク10に届きそうな二人なら楽勝だろうに。


 私ですら先輩にも内緒で用意していた秘策を使わなくても余裕だったくらいだし。


「いや、無理だから!」

「コボルトはAGI特化型の魔物で攻撃を当てるのも攻撃を躱すのもG級だと難しいって言われてるんですよ!」


 その代わりに他のステータスは軒並み低いそうだがSTRの低さに関してのみ、そのスキルでカバーしてくるのだとか。


「コボルトの攻撃を生身に受けると出血の状態異常が付与されることがあります。それによって仮にVITが高くても継続ダメージが入ることもあってG級殺しとも呼ばれる魔物なんですよ。その攻撃を紙一重で躱して一撃で仕留める、ですか。これはお見事としか言いようがない」


 桐谷のように盾で攻撃を受け止める。あるいは鎧で全身を固めて生身で攻撃を受けないようにするのが普通なのだとか。


 そんなこと先輩は教えてくれなかったではないか。


「え、でも、ゴブリンキングとかと比べるとそこまで速くもなかったし……」

「「「ゴブリンキング!?」」」


 勿論前のレベリングの際に瀕死で先輩が動きを制限した上での話だ。


 その際にゴブリンキングと対峙させられたので、その時の経験と比較したのだがこの三人の反応を見る限りだと不味かったらしい。


(ダメだ、言い訳しようとしているのにむしろドツボに嵌ってしまっている気がする)


 そしてここで初めて自覚した。

 どうやら私は先輩の厳しい指導によって想像以上に強くなっていたようだと。


 その後にステータスカードで本当にランク4でスキルもないことを確認されてドン引きされるなんてこともありながらも、私達はさっきまでとは比べ物にならないほど順調に課題をこなしていくのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 師が師なら弟子も非常識か これでそこまでゴリゴリ育成してるわけでもないし
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