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第三章 終わら(せられ)ない借金生活とダンジョン氾濫編

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第十三話 F級森林ダンジョン

 多少の諍いはあったものの試験官による注意で一先ずそれは収まった。


「もう一度だけ言っておきますが、今回はこのメンバー間で出来る限り協力して試験に臨んでもらいます。非協力的な人物は減点対象となっているので、そのことを留意して試験に挑んでください」


 これは要するに試験中に先ほどのような無駄な仲間割れを起こした場合は、どっちも試験に落とすぞという脅しである。


 それもあって今は桐谷とひまりの争いは表向きでは沈静化していた。


 だが試験会場となるF級の森林ダンジョンに転移してからも決して互いに目を合わせない辺りを見ると、内面では全く解決はしていないようだが。


(俺が間を取り持つのは面倒だし、試験官にも余計な事するなって言われたからな)


 ダンジョンに入る前、こっそりと試験官が俺だけに話しかけてきたのだ。


「私は特別顧問からあなたが元C級であること。そしてこの程度の試験は簡単に合格できる腕の持ち主ということを聞いています。本来なら試験を受ける必要もないくらいだと」

「まあ否定はしないけど、それで?」

「仮にあなたが逐一助言すれば彼らは力量が足りなくてもこの試験に合格できてしまうかもしれないと私は思っています。それは今後のことを考えれば彼らの為にならない。ですからあなたはなるべく手を出さずに見守るようにしていただけませんか? 勿論出来る限りでいいので」


 その程度のことならお安い御用なので、俺は快くそのお願いを聞き入れた。別にその方が楽できそうとか、愛華の成長を確かめるのに良い機会になるとか思ったのではない。


 そんなこともあって俺は今のところ黙って集団に付いていくだけにしていた。


「このF級の森林ダンジョンは入口付近ではG級のコボルトが、奥に行くとF級のポイズンスパイダーが出現します。まずはコボルトで皆さんの腕を確認させてもらい、その上でポイズンスパイダーに挑んでもらいます」


 G級のコボルトは前哨戦ということだ。


 ただしコボルトとの戦闘でも採点はするとのことで、あまりにひどければその時点での不合格もあるからあまり気は抜けない。


「さてと、どうしますか?」

「それじゃあコボルトと戦闘経験がある人はいますか? ちなみに私はないです」


 加藤の発言に愛華が率先して意見を出した。


 前もってこういう戦闘以外のところも見られているからそのつもりで臨むようにと言っておいたので分かっているのだろう。この作戦会議も試験の内だということが。


 質問の答えは俺と桐谷だけがコボルトとの戦闘経験があるというものだった。


「それじゃあ経験のある俺が指示を出すのでいいな?」

「ちょっと待ってよ。なんでお兄さんじゃなくてあんたなの?」

「ひまり!」

「これはさっきのこととは関係ないって。お兄さんは探索者歴が長いって話だったし、C級の知り合いもいるって言ってたじゃん。経験豊富そうな人が指示を出してくれた方がいいんじゃないのってこと」


 その割には桐谷に向けた言葉に大分棘があった気がするが、言っていること自体は間違っていない。


 だが桐谷はそうは思わなかったようだ。


「ふざけんな、お前達はこいつが誰だか知らないからそんなことが言えるんだよ。俺はこんな落伍者に指示されるなんて御免だぞ」

「落伍者? どういうこと?」


 桐谷以外はやはり知らなかったのか首をかしげていた。


 ちなみに愛華は何が面白いのかバレないようにニヤニヤ笑って傍観しているだけである。


「お前ら、少しは情報収集をしろよな。この眼帯は前にダンジョン消滅を起こして降格処分をくらった奴だよ。なあ、落ちぶれた錬成術師さん?」


 その名前も久しぶりに聞いた気がする。

 というか面と向かってそう言ってくる奴はそもそもあまり多くなかったが。


 陰ではもっとひどい片目野郎とかの蔑称で一部では呼ばれていたらしいけど。


「まあそれは事実ではあるよ。追加しておくと薬の作用でランク1に戻ってしまったっていう噂も本当さ」

「ほらな! それだけやらかして、しかもランク1まで落っこちた奴だぞ? いくら元C級だからってそんな奴の指示に従うなんて俺は御免だね」


 随分酷い言われようだが、俺が指示を出すようになってしまうとなるべく手を出さないというお願いが聞けなくなってしまうので、これは好都合ではあった。


「分かった。ここで揉めていても時間がもったいないし、一先ず桐谷がリーダーってことでやってみよう。もしそれで問題があったのならその時に話し合えばいいだろう?」


 制限時間は一時間と設けられているのでのんびりしている暇はない。

 そう言う俺の意見に皆も納得してくれたのかまずは桐谷の指示で動くことになった。


「それじゃあリーダー。これからどうしますか?」

「とりあえず森を探索してコボルトを探すぞ」

「……了解です」


 愛華の質問に見当違いな答えを返していることに桐谷は気付かない。


 そして他の奴には分からないかもしれないが俺には分かる。

 愛華がそれについて内心で呆れているのが。


 木々が生い茂って見通しが悪い中を当てもなく探すのは効率が悪いし、何も考えずに探索すれば不意打ちを受ける確率も上がる。


 また桐谷が名前しか述べていないようにまだ全員が互いに何ができるのか、何が苦手なのかなど戦闘に関しての擦り合わせがほとんどできていないのだ。


 隊列をどうするのかとかなど探索の前に決めるべきことはまだまだあるだろうに。


(これは減点だな)


 それですぐ不合格とはならないだろうが確実に評価は下がる。

 そして試験官によってはそれが累積していけば、たとえF級の魔物を倒せても不合格もあり得るのがこの試験なのだ。


 試験官は別にF級の魔物を倒せれば合格とは一言も言っていない。

 むしろこうやってパーティでどういう行動を取るのかの方が重視されているのではと密かに言われているくらいだ。


 だが多くの初めての受験者は勝手にそう思い込んでしまうのが常だった。

 そして大抵はその思い込みによって一度は落ちることになる。


(わざわざ集めた受験者同士で協力させるのには意味があるんだけどな)


 ちなみに愛華にはこんな当たり前のことはとっくの昔に指導しているので今更言う必要はない。


 案の定こちらが何も言わずとも、このままでは不味いと思ったのか、歩きながらも実美やひまりなどに得物は何かなど尋ねてこれからの戦いに備えた準備に取り掛かっている。


 しかもだ。


「先輩は動く気はないってことでいいですよね?」


 俺が試験官とこっそり話していたことと、この場で何もせずに傍観していることからもおおよその事情を察したのだろう。


 俺が何かを言う前に自分からそう尋ねてきた。


「そうだな、俺のことは少しだけ魔物に詳しいG級探索者だと思ってくれ」

「了解です。この試験も自分で考えてどうにかしろってことですね」


 全く以ってその通りなので俺は満足げに頷くのみだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 夜一は元C級だというのとは別に現在進行形で今も回復薬フィーバーを引き起こして話題になっている社コーポレーションの社長の息子だという素性の方はあまり知られていないんだね。 まあ眼帯はわかりやす…
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