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第六話 探索者講習会 実地訓練その2

 まず経験者組に実力を見せてもらうために先に戦ってもらうことにした。


 実を言えばそんなものは見なくても実力については大体分かっているが、何も見ないで判断すると反感を買うかと思ってワンクッション挟むことにしたのだ。


 それに彼らの戦い方を見て初心者組がどういう反応をするのかも見てみたい。


「おら!」


 小島が手にした剣を振り下ろすが狙いを外して地面を斬りつける。ビッグラットはそんなに素早くないがノロマでもない。足元をウロチョロされるので慣れるまでは狙い難いのだ。


「くそ、ちょこまかと」


 他のメンバーも多かれ少なかれ同じようなものだ。はっきり言って素人同然。


 最もランクが高い鳳も上昇したステータスに任せた動きでしかなく、そのおかげで他よりは早く仕留められているが動きの質自体は他と大して変わらない。


(この分だと壁にぶち当たるのも早そうだ)


 そんなことを考えていると先に倒し終えた鳳がこちらに近寄ってくる。


「どうですか? 中々のもんでしょう」

「そうですね、参考になりました」


 あの動きでそんな風に自慢げになる様子から察するにそれをこの場で指摘しても素直に聞くとは思えない。かと言ってこのままにするのも不味い。


(面倒だけど仕事だからな。それに会社としても使えない探索者を抱える無駄は避けたいだろうし)


 その後、全員が倒し終わったので一旦集まってもらう。


「本来ならこの後に魔物を解体して素材となる部位や魔石を取り出しますが、今日は荷物になるだけなので止めておきましょう。解体の仕方はダンジョンでなくても学べますから」

「でも魔石は売れば金になるはずだろう?」


 鳳のその言葉に五十里がピクリと反応するのを視界の隅で捉えて笑いそうになる。ここまで分かり易いともはや面白い。


「ビックラットを初めとした大抵のG級の魔石は一つ数十円から数百円にしかならないのでこれで稼ぐのなら相当な数が必要になりますよ。肉も不味くて買い取ってもらえないから、はっきり言って苦労して魔石を集めても大した稼ぎにはなりません」


 稼ぎにならないという言葉で一名のビッグラットの死体に熱い視線を向けていた人物が視線を外す。あっさりと興味を失ったらしい。


「それでは次に五十里さん達に戦ってもらいましょう」

「は、はい!」


 ここに付いてきた以上は実際に戦ってもらうし、それをいつまでも先延ばしにするつもりはない。どうせいつかは経験しなければならないのだ。


 とは言え経験もないのに何もアドバイスなしではキツイのは分かっている。


 初心者三人にはビッグラットの動きについて説明して倒し方もレクチャーする。その様子をバカにしたように経験者組は見ているが気にしても仕方がないので無視だ。


「この先の広場に五体ほどの集団が居るようなので先に二体は私が倒します。三人はそれぞれ一体ずつと戦ってください」


 そう言ってさっさと歩きだす。


 そのまま無造作にビッグラットの集団に近づくと剣を一閃して二体の首を落とした。欠伸が出るくらい簡単な作業だ。


「さあ頑張って」


 固まっていると狙いが被ることも考慮して三人には離れたところに立ってもらい、そこに敵をそれぞれ誘導する。まあ誘導と言っても掴んだ個体をそっちの方に投げるだけだが。


 その際に殺さないように気を付けながら多少ダメージを負わせておいた。最初の戦いなのでこのくらいのサービスはしても問題なかろう。


 最初に動いたのは五十里の方の個体だ。地面に足が着いた瞬間にすぐに走り出すと近くにいた敵に向かっていく。その様子を見ても五十里は焦る様子も見せずアドバイス通りジッと敵を注視していた。


 そしてビッグラットは間合いに入った瞬間、獲物に飛び掛かる。それを待っていた五十里も完璧なタイミングで下に構えていたメイスをスイングした。まるでゴルフボールを打つかのように。


 ビッグラットはこちらから攻撃を仕掛けるとそれを避けようとちょこまか動き回って狙うのが難しくなる。だが逆に攻撃する際は単調に突っ込んでくるのでそこにカウンターを狙えば簡単に攻撃が当たるのだ。


 まあ危険な魔物と言えど所詮はG級。雑魚中の雑魚なので賢くもなく攻撃方法もワンパターンな奴が多い。それが分かっていれば対処の仕方など幾らでも思いつく。


 素晴らしいタイミングでカウンターは決まり吹き飛ばされたビッグラットはそのまま動かなくなった。突っ込んでいった勢いが加わったおかげか一撃で死んだようだ。


 ちなみに一撃で死ななかった場合はどうなるかと言うとそれも簡単だ。外崎さん達がそうなっていた。


「うわ、本当にまた突っ込んできますね」


 そうこいつは本当にバカなのでまた突っ込んでくるのだ。同じようにそれを迎え撃てばいいだけ。何回かそれをやれば倒せるし、そうでなくても顔面を何度も打ち据えられたら脳震盪が起きるのかまともに動けなくなる。


 その状態ならこちらから攻撃を仕掛けても避けられる心配はない。


 残る二人もあっさりとビッグラットを討伐完了。先ほどの経験者組と比べても半分以下の時間で済んでいる。


「三人ともお疲れさまでした。よく動けていましたよ」

「いえ、こんなにも上手くいくとは思いませんでした。流石は八代特別顧問ですね。社長が自慢するだけのことはありますよ」

「ちょっと外崎さん、父は何を言ったんですか?」


 俺の知らないところで何を言ってやがるあの親父。


「え、社長が父……?」


 こらそこの金欠女子。獲物を狙う目でこちらを見るな。


「え、マジかよ。俺達より早いよな?」

「しかもあんなに簡単そうに。女の子もいるのにだぞ」

「てかあの人、社長の息子なのかよ。やべえ、知らなかった」


 流石にこれだけの違いが生まれれば嫌でも理解せざるを得ないのか経験者組が狼狽えている。ただ社長の息子については気にするな。会社も継がないのでそこには何の意味もないぞ。


 そんな中でも鳳だけは俺を睨むような眼で反抗的な態度を隠していなかった。むしろ前よりも敵意が強くなっているようだ。何か癇に障ったらしいがまあ気にしても仕方がない。


 これは別に奴のことを許しているのではない。


 どうせ嫌でも実力差を思い知るだろうから無駄な労力を割くのが馬鹿らしいからだ。それに自分の愚かさに気付いて反省できるかもある意味で探索者としての資質だから、それを評価するためにも放置する。


(本当にどうしようもなく使えない奴なら切るしかないしな)


 今は新入社員の中で最もランクが高く自信もあって強がっていられるかもしれないが、いつまでもそれが続くとは限らない。


 きっとこの先で奴はそれを思い知ることだろう。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] > 「ちょっと外崎さん、父は何を言ったんですか?」 真っ当な社会人なら勤務中に父とか呼んではいけない。社長と呼ぶはず。 「社長が自慢する息子」とか外崎さんに言わせるべきかと。
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