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第三章 終わら(せられ)ない借金生活とダンジョン氾濫編

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第三話 新しい事業計画

 本当に英悟と朱里は役に立つ。


 あいつらに頼んだら愛華の父親を騙した奴もすぐに捕まえられたのだから。

 しかもその背後にいたとある組織的な詐欺集団も潰せたのは思わぬ成果だった。


 これで少なくともそいつらによる被害はもう生まれることはない。

 といっても世の中に他の詐欺集団が溢れかえっているから全体としては微々たる影響だろうが。


「いやーそいつら随分と貯め込んでましたからね。こっちとしても臨時収入として有難い限りです」

「それならこっちの報酬はなしでいいか?」

「いえ、依頼料はきっちり徴収しますよ。いくら夜一さんだからってそれは譲れません」

「分かってる、冗談だよ。支払いは回復薬でいいか?」

「通常品なら百本。特別品なら十本でいいですよ」

「数作るのが怠いから特別品で」

「毎度ありです」


 一見すると特別品の方が安く思えるかもしれないが、こいつのことだから限定品として一本を一千万以上の値で裏ルートを使って売りさばくに違いない。


 材料など全て俺のMPなのに。


「そう言えば聞きましたよ。また新しい事業を考えてるんですって?」

「もう知ってるのか。相変わらず耳が早いな」

「あはは、それが取り柄なんでね。もし夜一さんさえよければ一枚噛ませてくださいよ。協力は惜しみませんよ」

「なら愛華の家族の周りをうろついている奴らがどこの所属なのか調べて、可能なら排除しておいてくれ。今後も数が増えてきそうだからな」


 愛華の頼みでその家族に会いに行って適当な店に飲むことにした時は密かに驚いたものだ。


 後をつけてくる奴もいた上、客の中にも明らかに一般人ではない身のこなしをする奴がいたからだ。


 まさかもう愛華の家族の周辺にまで諜報の手が入りこんでいようとは。


(霊薬騒動があったとはいえ、まさかもう一会社員の家族にまで手を伸ばそうとしている奴らがいるとはな)


 あれが偶然なのか、それとも愛華が一連の件に深く関わっていることが分かった上でのことなのか。


 後者だとしたら相手の情報収集能力は侮れない。


「了解です。ただあれは国外の連中みたいなんで身元を辿るのには時間が掛かるかもしれません。勿論襲撃とかは何があろうと防いでみせるんでそこは安心してください」

「もう国外の奴らってことは掴んでるのか。頼りになるな」

「国内で俺らの相手ができるところなんてそうないですから逆に分かり易いんですよ」


 その言葉には日本の相手なら負けはしないという自信に満ちていた。

 そしてその自信が自惚れてないことは、これまでのことが証明しているから本当に頼もしい限りである。


「それで新しい事業って何をするんですか?」

「簡単に言えば回復薬を使った飲料水の開発を考えてる」

「……いやーこれまたぶっ飛んだこと考えますね」

「そうか? 傷薬だって同じようなことがあったじゃないか」


 傷薬の場合は飲料水ではなく化粧品などの方に発展した形だが。


 ダンジョン産のアイテムは数があまりないこともあって希少で高価になり易い。

 一部の大金持ちやセレブは高くても気にしないで購入するそうだが、一般家庭はそうはいかないのが現実だ。


 そこに目を付けて傷薬を配合した化粧水などを誰より先に研究開発したフランスのとある企業は、今ではその界隈では世界的ブランドとしての地位を確立している。


 塗るだけで皴やシミが消えていく化粧水、という宣伝文句が誇張でもなんでもないのだからそれも当然だろう。


 流石に既製品の物よりも高価ではあるが傷薬そのものよりはずっと安く済んでいるので一般家庭でも愛用されることもあるくらいだとか。


 このようにダンジョン産のアイテムと現実世界の技術や物を掛け合わせることは不可能ではない。前に俺が会社で開発してもらった聖水スプリンクラーなどからもそれは明らかだ。


 もっともダンジョン産のアイテムは下手に他の何かと混ぜると本来の効果が消えてしまうことが多いようなので、単に混ぜればいいという話ではない。


 何と何を掛け合わせるのか、温度や配合比率にその他の管理方法。それ以外でも混ぜたことでどういう効果が失われてどのような効果が残るのか、あるいは想像もしない変化が起こるのかなど研究すべき点は腐るほどあるためその成功例は多くはない。


 それに傷薬や回復薬などの回復効果のあるダンジョンアイテムの大半は封を開けなければ三ヶ月ほどは持つが、封を開けてしまうと長くても三十分ほどしか効果を保てない。


 そのためまずはその期間を何と混ぜれば延ばせるのかというところから研究を始めなければならないのだ。


 また傷薬でさえもダンジョン産のアイテムなので決して安くはない。


 ましてや回復薬ともなれば研究するだけの数を集めるのだけでとんでもない費用が掛かるのである。


 仮にその研究開発が失敗に終わればそこまで掛けた莫大な費用も無駄になるだけ。


 だからこそこういったダンジョン産のアイテムと現実世界の技術を組み合わせる研究開発は困難を極める。


 その費用は場合によっては云十億か云百億、下手すればそれ以上が必要になることもあり得る訳だ。


 だが俺の場合はその費用と大部分となる回復薬が無料(タダ)で用意できるので、費用に関しての心配はないのが大きい。


 そしてそういう研究が大好物な人物もしっかり確保している。


「これまでは基本的な効果の確認とか回復薬売買とかで忙しくて応用する研究は全く進んでいなかったからな。丁度いいタイミングでもあったよ」


 急な予定だった世界ダンジョン機構への特別品の納品も終わったのでそちらに手を出す余裕もどうにか捻出できるはずだ。


「今のところ開発しているのはエナジードリンクとかスポーツドリンク的な奴だな」

「飲めば体力回復するとかの謳い文句が本当になる訳ですか。いやーこれまた世間が驚きますよ」

「面倒事は会社に押し付けるさ。ちなみに近々試作品も完成しそうだって話だから良かったら今度試してみるか? その後には回復薬を混ぜた茶とか健康志向の物や回復薬を配合した酒とかの開発も考えてる。最終的には料理の方も利用できたら最高だな」


 元医者の勘九郎からは病院食などで回復薬配合の飲食物を利用できないかという意見も貰っているのだ。


 それ以外でも点滴などの医療関係の物と組み合わせられればその活用は多岐に渡ることになる。


 新婚旅行から戻ってきたらそういう研究をあいつも手伝ってくれるそうだし。


 愛華の父親達は喫茶店を営みたかったという話だから、紅茶とかの開発を進めてそういう店を経営してもらう形になるだろうか。


 ヤバイ。考えれば考えるほどアイデアが浮かんできて止まりそうにない。


「……夜一さん、絶対に会社を継いだ方が良いと思いますよ。どう考えてもそっち方面の才能ありますって」

「お断りだ。俺の本業は探索者だからな」

「ですよね。そう言うと思ってましたよ」


 別にこういうことも嫌いではないので手を出しはするが、だからといって本業にする気は更々ない。


 誰に何を言われようが、いくら金を積まれてもこればかりは断固として拒否する所存である。


「ちなみに開発中のエナジードリンクの仮称はアルケミーだそうだ」


 外崎さんに名前の案を聞かれた時に、錬金スキルが大きく関わっているからそれに関する名前で良いのではと何も考えずに言ったのがそのまま採用されたらしい。


「それ、ノーネームの時と同じ間違い犯してません? あれもそんな感じで適当に名無しでパーティ名を提出したらいつの間にかそうなったはずですよね?」

「かもな。まあ流石に商品にする時は変えるだろ」


 その予想を裏切って数ヶ月後、アルケミーというこれまた世間を多く騒がせる新商品が社コーポレーションと大手飲料水メーカーの共同研究によって開発されることになるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 愛華の家族の周りにまで諜報員らしき人達がいたのはそれだけ大勢で派遣されているか。 世界中から回復薬の秘密を狙って集まり日本にやって来た組織は十や二十ではない規模の多さだという事情もありそう…
[一言] 「虹色アルケミカン」 ゲームの題名だったはず
[一言] この日本相手どれるメンツかダンジョン攻略のためにパーティー組んでたって改めてやばいな。 試練の魔物にあの時遭遇せずにそのまま探索続けてても、主人公Aランクで他Bランクになってたとかでも不思議…
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