第二話 後輩の両親に御挨拶
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ありがとうございます!
ご褒美に両親に会ってほしい。
愛華は確かにそう言った。
だからこうして会いに来た。
「初めまして。社コーポレーションで愛華さんの指導をさせていただいている八代夜一と申します。本日は宜しくお願い致します」
「は、初めまして。よろしくお願いします」
父親の方は緊張しているのが丸わかりの様子だった。
「それとつまらないものですがこちらをお受け取りください」
挨拶しながらお土産を渡す。
「あらまあ、これはご丁寧にどうも」
それを受け取った母親の方が幾分か余裕はありそうだった。
もっともそれはガチガチに緊張している父親と比較したらの話であり、彼女もまた緊張しているのが俺のよく見える眼の前では隠し切れてはいなかったが。
「お父さんもお母さんもそんなに緊張しないでよ。先輩は悪い人じゃないし、多少のことで怒ったりしないから大丈夫だって」
「いや、そう言われてもな……」
「そうよ。大企業の特別顧問って私にはよく分からないけど相当偉い人なんでしょう?」
「いえいえ、そんなことないので愛華さんの言う通りそう固くならないでください。私の本業は探索者なので会社の役職は飾りみたいなものですから」
そんな言葉だけでどうにかなるなら苦労しない。
とは言えずっとこんな話をしていても仕方がないので早めに今日来た目的を果たすことにした。
その方が目の前の人達にとっても気が楽だろうし。
「愛華さんからお聞きしました。ご両親が心配なさっていると」
そう、今回の霊薬騒動の陰でかなりの稼ぎを叩き出した愛華だったのだが、逆に新入社員としては異例なほど稼ぎ過ぎたせいで両親が危ないことをしているのではないかと心配してしまったらしい。
そもそも探索者の時点で危険は伴うのだが、今回の愛華の家族が心配したのは表にできないような非合法な事業を手伝わされているのではないか。
もっと言えば騙されているのではないかという意味で心配が募ったのだろう。
愛華の話では彼女の父親が嵌められた詐欺も最初の内はそれなりの利益が出ていたのだとか。
だからこそそこに商機を見出した愛華の父親は更なる投資に踏み出して、最終的には騙されて借金を背負わされることになった。
その失敗をしている父親からすれば愛華も同じ目に遭うのではないかと心配してしまう気持ちも分からなくない。
愛華としても何度も出来る範囲で説明しているのだが、娘本人だけの話ではどうも信じきれないようだ。
だからこうして会社の先輩である俺が直々に出向いて話をしに来たのだ。
別にあれは悪いことして稼いだのではないと信じてもらうために。
しっかりと用意してきた資料でそのことを説明する。
「現在、愛華さんは我が社で探索者としての活動をすると同時に回復薬事業にも関わってもらっています。最近その事業のことがニュースにもなっていると思いますが、御覧になったことはありませんか?」
「えっと、一応ニュースで何度かなら。詳しいことまでは分かりませんが」
奥さんも同じような感じらしい。
ならばしっかりと教えてやろう。
その事業でどれだけ稼げるか。また将来性がどれほどのものであるかを。
既に後戻りできないところまで踏み込んでしまっている愛華を逃がす気はない俺からしたら、ここで両親に働き続けるのを反対されるのは困るので念入りに準備はしてきてあるのだ。
そう、ここでも負ける気など更々ない。
勝つのは俺である。
だがしっかりと用意したデータに基づいてどれだけ稼げるかを説明してみてもご両親の反応はあまり芳しくなかった。
(おかしいな。話は理解してもらえている様子なのに)
見る限りこちらの話が理解できていない訳ではない。
これまで稼いできたお金が違法な手段を用いられたことでないことも納得してくれている。
それでもどうにも彼らの様子は暗かった。
その理由は一通りの説明を受けた後に彼が発した言葉で発覚する。
「……失礼を承知でお聞きしたい。その儲け話はどこまでが本当のことなのですか?」
「ちょっと、お父さん!」
「わざわざ説明に来ていただいた方に失礼なことを言っているのは分かってる。だけど私はどうしても信じ切れないんだ」
愛華の父親が騙されたのは親しくしていた旧友だったらしい。そいつのダンジョン事業で稼げるという口車に乗ってしまった結果が自分の娘にも苦労をかけるほどの借金を作ったのだ。
その過去があるからこそ俺の稼げるという話を信じ切れない。
どこかで嘘を吐かれているのではないかと疑ってしまう。
(これは俺もちょっと悪かったかな。丁寧さを心掛けたせいか胡散臭いセールスマンみたいになってたし)
普段は役に立つ上辺の態度が珍しく逆効果だったようだ。
「仮にここまでの話が本当だったとしても、それならばどうしてウチの娘がそんな大それた事業に関われる立場になれたのですか? 私にとっては大事な可愛い娘ではありますが、そんな能力がある子ではないことも理解しています」
「なるほど。もしかして愛華さんがこの事業に関わるためにお金。もしくはそれ以外の不当な対価を求められたのではないか、そういうことを心配しているのですね?」
「……その通りです」
社コーポレーションという世間一般からすればそれなりに有名な企業に入れた上にそこで世界初の事業に携わる。
余程の才能があったならともかくそうでなかったはずの新入社員に過ぎない自分の娘が。
(そりゃ心配にもなるし、何かあるんじゃないかと疑うだろうな)
俺はそう思えたのだが、それを聞いた愛華はそうでなかった。
「……なにそれ。私の言うことが信用できないってこと?」
親に信頼されていないと取った愛華がブチ切れそうになっている。
このままでは俺を置いて壮大な親子喧嘩が始まりかねない。
それは勘弁願いたいので早めに手を打つことにした。
「愛華、これを見ろ」
「はい?」
余程怒っていたのか珍しく反抗的で乱暴な返事だった。
「これ、回復薬な」
「いや、見れば分かりますけど?」
そう述べた俺の掌の上にはどこからともなく現れた回復薬がある。
しかも特別品の方だ。
それを愛華の目の前で無造作に誰もいない方に放り投げてやった。
「きゃあああああああああ!」
それを見た愛華は悲鳴を上げて必死に落下する回復薬をキャッチしにいく。
ランクはまだまだ低くても魔物相手に鍛えているだけあって床に落ちる前に見事に確保してみせた。
「おお、ナイスダイビングキャッチ」
「何を考えてるんですか!? 回復薬はまだ一本で百万円もするんですよ!」
「いや、特別品だから五百万だな」
「なお悪いわ!!」
キレのいいツッコミが返ってきて思わず笑ってしまった。
愛華もそれで毒気が抜けたのか先程までの怒りが収まったようで何よりである。
そんな俺達の打ち解けている様子を見てご両親はポカンとしていた。
さっきまでのとは俺の態度がまるで違うから驚いているに違いない。
まあでもこの場では素に近い方が良さそうなので猫を被るのは控えめにすることにした。
「お父さん、良ければ一杯やりながら話しませんか?」
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