第一話 特別品の売却額
通常の回復薬の値段が大体百万円ほど。
海外のオークションなら大雑把に言えば10000ドルほどで取引されることになる。
残りの期限が短くなればその分だけ安くなる傾向にあるが、そうでなければ大半の回復薬がその辺りの値段で取引されると思っていい。
そんな中で新星の如く現れた回復量が少しだけ多くて一月ほど期限も長い特別品の値段はいくらだったのか。
「うへー思っていた以上の値が付いたな」
世界の反応を確かめる意味も込めて世界ダンジョン機構の関連組織が執り行っているオークションに十本ほど出品したそれは、なんと一本が50000ドルほどで落札されることとなった。
要するに通常の五倍以上で売れたため合計で五千万円以上の売り上げである。
材料など俺のMPだけなので必要な手数料を差し引いても黒字も黒字。大黒字だ。
それにしてもここまでの額で落札されるなんて思わなかった。
良くて二倍から三倍くらいだと思っていたのだが。
(残念ながら研究しても作れるようにはならない可能性が高いけどな)
その点については念入りに確かめてあるので間違いない。
そもそも特定のスキルがなければ作れない代物なのだし。
それにしても金があるところにはあるものだと驚かされるものだ。
購入者側は知らなかったとはいえ特別品といってもあれらの材料は通常品と同じであり、違いは俺が作って少しだけ品質が良いぐらいの代物なのに。
「先輩、これだけで借金なんて簡単に全額返済できるんじゃないですか?」
「余裕だろうな。する気はないけど」
「え、どうしてですか?」
「下手に俺が借金を一括で返済すると誰が回復薬を作ってるのか、そうじゃなくても中心人物が誰なのかバレる恐れがあるからな。いつかは発覚するだろうけど出来る限りそれは遅らせたい」
今回の利益からある程度の特別金が俺にも支払われることになるので、俺が回復薬作成に関わっていることは情報をしっかりと集めている連中なら気付くはずだ。
だがそれでもこれから起こることの全ての中心が俺だと確信を得るに至るまでではないだろう。
その間にこちらは色々と準備を整えておきたいのが本音だった。
なによりとある事情から隆さんから借金返済を待つように頼まれているし。
今回あくまでこれらの品をオークションにかけたのは社コーポレーションであって俺ではない。
だからこの利益も当然ながら会社のものとなる。
このオークションには探索者個人での出品も可能だから、会社を通さずに俺が大量の回復薬を出すことはできる。
だがそれをした途端に誰がこの特別品を作っているのかは白日の下に晒されることになるだろう。
(それはまだ早い。少なくとも今は、な)
先のことを考えてまだまだ出していない情報は山ほどあるのだ。
例えば俺達が作れるようになったのが低位回復薬で他に中位や高位が存在することなど世界ダンジョン機構には伝えていない。
またダンジョン協会や日本政府内であってもその程度の情報ですら知る者はそう多くはない。
まだそれらを作成できていない現状で情報を出すのは早計だと判断しているからだ。
(確認のためにとか言ってまた現物を持っていかれたら堪ったもんじゃないしな)
まだ作れない以上、数は限られているのだ。
必要なら使用することを躊躇うつもりはないが無駄遣いする気は毛頭ない。
これら第二、第三の矢は然るべき時。最大限に効果を発揮する時を待って仕掛けるのが吉というもの。
その影響によっては社コーポレーションがまた莫大な金額を稼ぐことも可能だろうし。
そしてその回復薬の件が片付いてもそこからは各種ステータスアップポーションや経験値上昇ポーション。
果てはスキルオーブやジョブオーブが待っている訳だ。
(中高位のことまでしか隆さん達には伝えてないし、また度肝抜かれるだろうなあ)
それと相当な心労も与えるに違いない。
悪いとは思うが、それに対処するのが彼らの仕事なので頑張ってほしいところである。
最悪驚きすぎて倒れそうなら特別品を差し入れて、すぐに職場復帰させてあげよう。俺に協力すると言ってしまった以上はそう簡単に逃げられると思わないことだ。
「うわーまた先輩が悪い顔してる……。ってそう言えば鳳ってまだ知らん顔して普通に会社いますけど、あれは放置してて良いんですか?」
「ああ、あれな。まだ利用価値があるってことで飼い殺しにするって社長達と相談して決めた」
具体的には奴には偽情報を掴ませて目眩しになってもらうのだ。
バレてないと思っているのか、副本部長に情報を売っていたくせにまだ会社に堂々と居座っているような奴だし、今後も熱りが冷めたら同じことをやらかすに違いない。
あいつを始末するのなんてすぐに出来るから利用できる限りは利用する。
出来なくなったら捨てればいいだけ。
それが社長を含めて会社の幹部の総意だった。
ちなみに俺も同意見である。
「運が良いのか悪いのか。まあ私に関係ない限りはどうでもいいですけどねー」
そう言ってあっさりと同期を見捨てる愛華だった。
「お前、俺が言うのもなんだけど大分図太くなったよな」
「それは血も涙もない先輩の指導の賜物って奴でしょうね」
そうだろうか。俺が指導する前からそういう傾向はあった気もするのだが。
「ねえ先輩。そんな優秀な後輩はご褒美を所望します」
「なんだ? 金か?」
「初めに出るのがそれですか、最低ですね。まあ貰えるなら貰いますけど、そうじゃなくて」
そうして愛華はそのご褒美の内容とやらを口にした。
「今度、私の両親と会ってもらえませんか?」
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