プロローグ 霊薬作成地獄
社コーポレーションで回復薬が作れることが発表されてから二週間。
「あーもう無理! 依頼が多すぎるって!」
尋常じゃない株価の上昇など空前絶後の好景気の真っただ中にいる社コーポレーションで俺は発狂しかけていた。
そうしたくなるくらいに回復薬の作成依頼が舞い込んできているのだ。
俺だけではなく愛華や外崎さん、それに加えてノーネームのメンバーにも暇な時は協力してもらっているのにギリギリである。
おかげでまともにダンジョンに行けてなくてストレスが溜まりまくっている。
「通常品ならともかく特別品の量産は現状だと先輩しかできませんからね」
「分かってるよ。分かってはいるけどさあ……」
無論のこと全ての依頼に応えている訳ではない。
中にはお断りさせてもらっているところも多々ある。
その一つに現在業績が絶賛低迷中の帝命製薬が入っているのは偶然ということにしておこう。
「まあでも、あと少しで一段落はしそうだな」
特別品は今のところ少数しか販売するつもりはない。
なのに何故こんなに俺が苦労しているかというと、世界ダンジョン機構から事実確認が入ったからだ。
世界ダンジョン機構。
その名の通り世界中のダンジョンや探索者について管理などをする国際機関だ。
各国の代表などが集まってできている組織でダンジョン版の国連みたいなものだと思えば分かり易いだろうか。
そんな大それた組織が極東の島国のたかが一企業に対してわざわざ調査員を派遣しようとするから話がややこしくなったのだ。
本当に回復薬が作れるようになったのか、特別品は本当に期限や効果が通常品と違うのかなど調べたいことは山ほどあるだろうから気持ちは分からなくもない。
だからと言ってこっちも企業秘密をはいそうですかと全て教えられる訳もない。
どう考えても製造方法などの情報をどうにかして盗み出そうとしている面もあるのは分かり切っているからだ。
そうしてお互いの主張がぶつかり合った結果、作成方法については教えられないが特別品を一定数納品することで今のところは話が付いた。
あちらでも鑑定などを行なって発表に嘘がないか確認するらしい。
そのための幾つかの見本を無料で提供する代わりに、確認が取れたら世界ダンジョン機構の方でもその旨を世界中に向けて発表してくれる契約も結んでいるから、こちらとしてもその点は悪い話ではない。
確認のためにしては明らかに求められた数が多い気もするが、そこは致し方無いことだと思っている。
大方、余分に獲得したもので研究でもするつもりなのだろうが、それでもこちらのメリットの方が大きいと判断したのである。
もっとも英悟の話だとそれは表向きの話で、既に世界ダンジョン機構だけでなく世界各国の諜報員が日本に、もっと正確に言えば社コーポレーション周りに集まってきているそうだが。
日本の裏社会でもどうにかして情報を盗み出せないか暗躍している奴もわんさかいて大変だとあいつもボヤいていたっけ。
でもどうせ見た目と違って野心家で腹黒いあいつのことだ。
その状況もうまく利用してやると内心では息巻いているに違いない。
「私としては今回のことで大分借金を返せたので万々歳ですけどね」
錬金釜で回復薬を作りまくってその分だけ特別手当やボーナスでかなり稼いだ愛華は上機嫌だ。
俺はダンジョンに潜れなくてこんなに不機嫌なのに羨ましい限りである。
「くそー、海外に新婚旅行に行ってる勘九郎が羨ましいぜ」
どこぞの副本部長様に海外に逃げるようなことを仄めかしていたらしい勘九郎はその言葉通り現在日本にはいない。
もっともそれは中位回復薬によって目が覚めた奴の奥さんがリハビリを順調にこなして動けるようになるまで回復したので、五年前に行えなかった新婚旅行に行くためだが。
「そう言えば副本部長からせしめたっていうお金はどうしたんですか? あ、もしかして先輩の借金返済に使ったとか」
「いや別にあいつから二十億円をぶんどったのは借金返済のためじゃなくて単なる意趣返し的な面が強かったからな。その金そのものに興味はないから勘九郎にお任せした。そしたらあいつ、ほとんど寄付したってさ。しかも匿名で」
「ええ……」
そのことはニュースにもなっていた。
とある病院を中心とした医療関係の施設などに匿名で多額の寄付があったと。
その寄付された施設の大半が回復薬を使った患者の治療に積極的なところな辺り勘九郎もただの善意だけでなく今後のことを考えての行動だろう。
もっとも今はそんな小難しいことは考えずに新婚旅行を満喫しているに違いない。
五年越しの念願が叶ったのだからそれくらいはいいはずだ。
「そう言えば私、勘九郎さんの奥様について氾濫でダンジョンから溢れた魔物に襲われて、それからずっと眠っていたことしか知らないんですけど、どんな人なんですか?」
「あれ、言わなかったっけか? 勘九郎と椎平と優里亜は同郷でその奥さんも同じ地元出身だよ。もっとも今は氾濫によってなくなってしまったらしいけど」
ノーネームのメンバーは初期からパーティを組んでいたのではない。
俺と哲太、勘九郎と椎平と優里亜の別々のパーティがある出来事によって意気投合して組んで、その後に英悟と朱里が、最後に薫が加わった形だ。
「ちなみにその奥さんは優里亜のいとこで後輩だったらしいぞ。その縁もあって三人でパーティを組んでたらしい」
「へー……あれ? 優里亜さんって今幾つでしたっけ?」
「ん? 確か24だったはず」
椎平も同じで五年前は19だったことになる。
「その後輩ってことは奥様の年齢は?」
「この前に22になったらしいぞ。五年前なら17くらいだな」
「若!?」
なお現在の勘九郎は38なので16歳差の夫婦である。
というか高校生の相手と結婚しようとしていた医者って言葉だけ聞くと犯罪臭がとんでもないな。
もっともあくまで健全な付き合いをしていたとのことで、優里亜や椎平曰く現代ではそうお目に掛かれない純愛だったらしいが。
「へー勘九郎さんってロリコンだったんですね」
「やめとけ」
酒の席で酔った勢いで同じように弄った哲太はそれで痛い目を見たのだから。
そんな会話がフラグだったのか、数ヶ月後に勘九郎の奥さんに妊娠が発覚するのだがそれはまた別の機会に語ることとしよう。
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