第十六話 記者会見と爆弾投下
社コーポレーションの社長が探索者集団によって襲撃されて重傷を負った。
そのニュースは瞬く間に世間に広がっていった。
俺がG級ダンジョンを消滅させた時などとは比にならないくらいに連日のテレビニュースでは取り上げられるし、ネットでも様々な憶測が飛び交っていた。
しかもその騒動の火に油を注ぐような形で重傷を負ったはずの社長が事の経緯の説明として記者会見を行なって、そこでとんでもない爆弾発言を投下したものだから関係各所はてんてこ舞いになっていることだろう。
ネットではその記者会見の映像が凄まじい勢いで再生数を伸ばして日本どころか世界中で話題になっているそうだし。
俺もある意味で痛快なその映像を見返していた。
「えー、それでは質問がある方は手を挙げてください」
「八代社長。探索者の襲撃によって重傷を負ったという話でしたがそれは本当でしょうか?」
「それは事実です。その襲撃によって私を含めた社員数人が怪我を負いました。ただ幸いにもこちらは死者を出さずに襲撃者の撃退には成功しており、捕まった容疑者達は警察の取り調べを受けていると聞いています」
わざとらしく腕にギプスを巻いて怪我していることをしっかりとアピールしている社長は、そんな魂胆を感じさせないように淡々と答えている。
「襲撃者の何人かは死亡したとのことですが、それについてはどう思いますか?」
「殺さずに取り押さえられれば最善だったと思いますが、状況は逼迫していましたので致し方ない面があったと考えています。また状況の説明は警察にも行なっており、こちらの正当防衛が認められるという見解もいただいております」
「探索者が非探索者を襲うという大きな事件となってしまいましたが、それについてはどう御考えでしょうか?」
「確かに私を襲ったのは探索者でしたが守ってくれたのもまたその探索者です。ですので私個人としても、また会社としても探索者という括りで思うところはありません。あくまでその襲撃者に何らかの問題があったと考えています」
そのため今後も社コーポレーションは探索者支援を行なっていくと、ちゃっかり表明して宣伝までしている辺りあの社長は良い性格をしている。
「狙われた動機について心当たりなどはありますか?」
「取り押さえられた襲撃者が口にしていたので恐らくそれではないかと思われるものはあります」
「それはいったい、どういったものでしょうか? もしかして私怨や個人的な恨みですか?」
「我が社が各種回復薬の作成に成功したことに対する妨害行為。襲撃者の言葉が嘘でなければそれが目的だったようです」
この社長の発言に記者たちが水を打ったように静まり返った。
それだけとんでもない発言だったからだ。
「ま、待ってください。回復薬の作成に成功したとはどういった意味ですか?」
「言葉通りの意味です。我が社ではつい最近のことではありますが、体力回復薬、魔力回復薬及び異常回復薬の作成に成功しています。その事実は日本ダンジョン協会及びダンジョン庁に極秘で報告済みであり、近い内に公表する準備を進めていたのでこの場を借りて発表させていただきます」
ザワザワと記者たちが信じられないといった様子で騒めいている。
まあ言葉だけで信じろというのも酷な話だ。これまで何年もの間、誰もそれを成し遂げられなかったのだから。
「ほ、本当なんですか?」
「事実です。実際にその証拠をお見せしましょう」
そう言って社長が指示を出すと用意していた実験用ラットと何かが入った箱が記者会見場に運び込まれてきた。箱の方は開けると中には十本どころではない何かの薬が詰められている。
そしてその大量にある薬の中から記者の選ばせたものを使って傷つけたラットの身体が回復するのを実際のその眼で確認させる。
更には自分の怪我も記者たちの前で回復させる始末。
このためにわざわざ治さないで記者会見に臨んだのだというのだから呆れる話だ。
「これでもまた疑う方もいるかもしれませんが、近い内に我が社では作成した回復薬を従来よりも安価で販売しようと考えています。また研究の結果、ダンジョンでドロップする物よりも効果や期限が長い特別品の開発にも成功しているので、それを見て、あるいは実際に使って信じてもらうしかないでしょうね」
この言葉に記者会見場は阿鼻叫喚という言葉が相応しいくらいの騒ぎになっていた。
落ち着いているのは最初からこうするつもりだった社長達くらいである。
どういう形でどのくらい販売するのか、値段は幾らなのか、従来の物と特別品の違いはどれくらいなのか、どうやって作成するに至ったのか、数えきれない疑問が記者たちから殺到している。
それを肝心なことは企業秘密で誤魔化しながら社長は捌いていく。
既に襲撃事件のことなど誰も欠片も気にしていないのは明らかである。
森本修二やその取り巻きの目的は違ったし、そんなことは一言も口にしていないのだが可哀そうに。
これでその事実は永遠に闇に葬られることになってしまったのだから。
「この状況でそんなことは知らなかったと言っても果たして誰が信じてくれるだろうかね?」
残念ながら仮に生き残った森本修二と取り巻き二人が事実を語ってもそれが真実になりはしない。
更にこの後に森本修二の親である森本恭吾ダンジョン協会副本部長が情報を漏らしたとされる形跡や襲撃計画を仄めかす文書などが次々と発見される予定なのだ。
たとえそれが英悟によって偽造されて忍び込まされた彼らが全く知らないものだとしても、そこまで証拠が揃っていてはどうしようもないだろう。
それに森本修二に至ってはそれ以外の面でも手の施しようがない。
三重強化によって既に生命が限界を迎えているからだ。どうにか延命しようと副本部長が手を尽くしているらしいが、それも無駄に終わるのは分かり切っている。
(三重強化によって体に異常が起こると回復薬が効かなくなる上に最大HPが徐々に減っていくのが今回の件で確認できたのは収穫だな。あれは俺でもどうしようもない)
それを治すのは高位の回復薬でも不可能だった。
それこそ御使いという特別な存在の力が必要なのだろう。
なお生き残った取り巻き二人は本来なら死亡していたはずなのを俺が低位体力回復薬で助けてやったのだ。
襲撃犯が全員死亡よりも法による罰を受ける奴が居た方がいいだろうという判断である。
もっとも生き残れてもこれまでの罪なども英悟達によって暴露されるから地獄を味わうのは確定的だが。むしろあそこで死んでいた方が良かったまであるかもしれない。
「まあ俺には関係ない話だな」
これで俺の描いた仕返しの計画は最後の仕上げを除いて完了した。もっとも途中で社長の思惑などが関わってきたから全てが思い通りになった訳ではないが、それでも大筋は俺の予定通りだったので満足ではある。
「俺が裏で糸を引いてたことも隠し通せてるしな」
その事実は後に霊薬騒動と称されるこの一連の出来事の中に埋もれて表に出ることは決してないのだった。
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