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[書籍第2巻、4月18日発売!]隻眼錬金剣士のやり直し奇譚-片目を奪われて廃業間際だと思われた奇人が全てを凌駕するまで-【第4回HJ小説大賞 年間最優秀賞受賞!!!】  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中
第二章 継続する借金生活と霊薬騒動

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幕間 副本部長の取引

 中川原勘九郎によって取引場所に指定されたのは人気のない廃ビルだった。人目に付かないのはこちらとしても好都合だったのでそこに異存はない。


(子飼いの探索者の何人かと連絡が取れないな。使えない奴らめ。こんな時にどこで油を売っているんだ?)


 相手はC級探索者なので護衛という名の弾避けは幾らあってもいい。

 あるいは隙があれば相手の身柄を拘束する上でも。


「お待ちしていましたよ」


 廃ビルの一室でこちらを待っていたのは、取引相手である勘九郎と目深にフードを被って顔が見えない何者かの二人だった。


(この人数ならやれるか?)


 この場に連れてきているのは五人。外に待機させているのも五人。


 五倍の人数差があれば捕らえるのも不可能ではないように思える。

 だが相手もこちらの見えない場所に護衛を待機させている可能性があるため迂闊には動けない。


「ああ、外の五人については何かあるまで動かさないでください。勿論この場にいる五人も余計なことをするようなら取引は即座に中止させていただきます」

「……分かった。お前達、私の指示があるまで動くなよ」


 そんなこちらの考えを見通したかのような発言で、この場で捕らえるのは無理そうだと判断した。


 ならばこの取引を絶対に成功させなければならない。


「時間がない。目的の物はどこにある?」

「その前に要求した物は持ってきているのか確認させてください」

「ちっ、この守銭奴め」


 思わず暴言が口から飛び出るが従うしかない。

 私は護衛の一人に持たせていたアタッシュケースを開くと奴にその中身を見せた。


「私を後援してくれている先生方の協力によって搔き集めた二十億円だ。もしこれを持ち逃げした場合は彼らが地の果てだろうと追いかけてくると思っておけ」

「それは御免なので取引は誠実に行いますよ。では早速、これがそのアイテムの錬金釜です」


 見た目は特別そうに見えないただの大きな釜だ。

 これが本当に回復薬を作るためのアイテムなのだろうか。


「言葉で説明しても信用できないでしょうから実際にやってみせましょう」


 そう言って奴はその場にいた人物に指示を出す。

 するとまずそいつは私達にステータスカードを提示してきた。


 ただ全てが見える訳ではなく名前やステータス、スキルは隠されている。


 ただランク28でジョブは盗賊であることだけは分かった。


「彼は私の協力者です。そして見ての通り錬成術師ではない。その彼に回復薬を作れるところを見てもらえば話は早いでしょう?」

「なるほど、転職したお前が作った場合はその釜など関係なく錬成術師のスキルやジョブによるものとも考えられるからな。いいだろう」


 そうして奴の協力者は釜に回復薬と素材と思われる物を入れていく。

 それらを目に焼き付けながらも怪しい動きをしないか警戒は怠らない。


 入れた素材が消えていくのには少々驚かされたがそういうものなのだと言われれば信じるしかない。


 だがその心配を余所に協力者はただ回復薬を作るだけだった。素材を入れた釜を触りながらジッと中を見つめている様子から察するにある程度の集中が必要なのだろうか。


 待つことしばらくすると釜に光が集まっていく。

 その光が何かの形を成していって最後に強く光るとそれが釜の中に転がっていた。


「どうぞ。鑑定する用意はしてきているのでしょう?」

「ふん!」


 そこまで読まれていることは腹立たしいがこれを断る理由はない。

 護衛の一人が簡易的な鑑定持ちなので調べさせたが間違いなく回復薬だと断言した。


「確かに本物のようだな」

「勿論です。これは今のところ世界に一つしかない錬金釜なのですから。それと真実であることを補強するためにこれを使いましょうか」


 そう言って奴が取り出したのは何かの宝石が埋め込まれた首飾りだった。


「これは真実の首飾りというダンジョン産のアイテムです。これを装備している間、装備者が明確な偽りを述べた時は中心の白い宝石が黒に染まります」


 これも鑑定させたが真実の首飾りというアイテムであることは間違いないようだ。

 ただ効果まではこいつの鑑定能力では見えなかったが。


 奴はそれを協力者である人物に装備させると質問する。


「あなたはこの場で回復薬を作りましたか?」

「はい。確かにこの場で作りました」

「それはあなたのスキルやジョブを使用して作ったものですか?」

「いいえ。私はこの錬金釜を使えば誰でも回復薬を作れるようになるとここに宣言します」


 宝石は白いまま。つまりこの言葉は本当だということ。


 無論、それをそのまま信じるほど愚かではない。

 そのアイテムを護衛に装備させて効果が本当なのか確かめてみたが問題はなかった。


「おまけとしてその首飾りと回復薬を作る際に使用した材料の情報は差し上げますよ。教えた素材を釜に入れて魔力を込めれば回復薬は作れます。それにその首飾りがあれば今後の交渉はそれを使えば色々とやり易くなるでしょう?」


 協力者とやらが外した首飾りを渡してくるので受け取った。

 確かにこれがあれば交渉事で有利になりそうだったからだ。


「ふん、どうせ他にも同じような物を持っているくせに恩着せがましい奴だ」

「これは手厳しい」


 そう言いながらも勘九郎は余裕の態度だった。

 金を受け取ってあとはこの場から去るだけだと思っているのだろう。


 この釜の効果が本物だと判明した以上は取引を中止されては困るので素直に金は渡す。


 そうして取引を終えると、奴は協力者を連れて用はないと言わんばかりにさっさとこの場を立ち去っていった。


「いいんですかい?」

「ふん、ケースに発信機は付けているし他でも追跡はさせる。それに奴が行くと思われる空港にも見張りは立てた。だがこれが手に入ったのなら仮に奴に逃げられたとしても許容範囲内だ」

「まあ俺のスキルでもあいつらがほとんど嘘を言ってはいないのは確認できましたからね」


 護衛の一人は真偽看破というスキル持ちだ。

 だからあんなアイテムがなくても奴らが嘘を吐いているかは初めから筒抜けだったのである。


 そうでなければここまで簡単に話を進めたりしない。


「それよりもこの釜が一つではないという方が問題だ」


 真偽看破持ちの奴が勘九郎の発言の中で数少ない嘘だと見抜いた点はそれだった。

 つまり他にもこのアイテムが存在しているのだ。


(だがダンジョン産のアイテムならそう数はないはずだ)


 回復薬を作れるアイテムがあれば二十億円を取り返すことも十分に可能だ。


 そのためには私以外に回復薬を作れる存在は邪魔となる。

 ならばその所有者には消えてもらうしかあるまい。


 幸いなことにその別の所有者は社コーポレーションだと当たりは付いているのだから。


「適当な探索者を雇って従業員を脅してもいい。何としてでもこのアイテムを手に入れるか、あるいは破壊するんだ。いいな、バレないように確実にだぞ」

「分かりましたよ」


 これでいい。後は社コーポレーションさえどうにかできれば私の立場は安泰だ。

 そう胸をなでおろしている時だった。スマホに秘書から連絡が入ったのは。


 外見重視で仕事の連絡など任せていない女なのに一体なんだというか。


「なんだ? 今は忙しいからどうでもいい事なら後にしてくれ」

「た、大変です! ご子息の修二さんが!?」

「修二がどうした? またどうでもいい女を孕ませでもしたのか?」


 その程度のことなら何度も揉み消してきてやったから問題ない。

 そう言うとしたが続く言葉で仰天させられた。


「違います! 修二さんは社コーポレーションの社長を始めとした方々を襲撃して逮捕されました! しかも相手方には重傷者が出たそうです!」

「な、なんだって!?」


 この時、私は破滅の足音が迫ってきているのが確かに聞こえた気がした。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 現金20億円の量がわかってなさそう
[一言] 勘九郎につけさせて本当に協力者かとか質問してない時点で能無し。
[一言] 仮にも協会幹部なのに最前線でやってる探索者のランクや級が持つ意味を理解してないし
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