第十四話 予想されていた襲撃とその愚かさ
いきなり爆裂玉を使ってくるのは予想外だったが、その扱いを熟知している俺が不覚を取る訳もない。
ましてや元々は俺の物だったアイテムで他三人に怪我させられるなんてあってはならないだろう。
なのでしっかりと自分の体を盾にして守ってみせた。
それでダメージを負っても回復薬で治せばいいし。
もっとも奴の使用する爆裂玉ではほとんどダメージなどなかったので回復する必要などなかったが。
(ったく、お粗末にもほどかある)
本当にそれで隠れているつもりなのか言いたくなるような下手くそな隠密行動を取る襲撃者たちに呆れたのが第一の感想。
その次に奇襲を仕掛ける際にわざわざ叫ぶな、というのが第二の感想。
そして第三の感想が人の物を勝手に使うなよ、である。
(爆裂玉以外でも俺の装備らしき物がちらほら見当たるし)
どうせあの副本部長のことだ。
本来なら倉庫にでも保管しておかなければならない物を子飼いの奴らに横流しでもしたに違いない。
(それならせめて有効活用して欲しいもんだ。使われているアイテムが可哀そうになる)
襲撃された身でありながらそう思うのが止められない。
そもそもこんな雑魚共には過ぎた装備やアイテムなのだが。
「お前ら、こんな襲撃を企てる意味を分かってるんだよな? バレたらライセンス剥奪どころの罰じゃすまないぞ」
爆裂玉なんて明確な凶器を使用したのだ。
ダンジョン内だろうと殺人は罪に問われるのには変わりはない。つまりこれが発覚すれば奴らは終わりだ。
「だ、黙れ! お前達が死ねば目撃者もいない! だからバレることはない!」
「そうだ! 元C級だったからって調子に乗ってるんじゃねえぞ!」
取り巻き連中がそう捲くし立ててきた。
どうやらここで心入れ替えて反省する殊勝な奴はいないらしい。それでこそカス共だと安心する。
もっともここで反省した態度を見せたところで容赦などする気は全くないが。こいつらの死刑執行は爆裂玉を投げた時点で決定しているのだ。
たとえそれが誘導された結果だとしても。
「お前こそ強がっているようだが、この数相手にどうにかできると本気で思っているのか?」
その取り巻き達の主である森本修二がそんな言葉を投げかけてきた。
「むしろ逆に聞きたいけどどうしてできないと思うんだ?」
「はっ! その強がりだけは立派だな。だがまだお前の秘密がバレてないとでも思っているのか! 既にこっちはお前がランク1に戻ったことなんて把握済みなんだよ!」
残念。会社内でも噂になるくらい一部で有名な話なので秘密でもなんでもない。だからそんな重要な情報みたいな感じで言うとむしろ恥ずかしいだけである。
「大方隠し持っていた身代わりの指輪であの爆発をどうにか凌いだんだろう? だが残念だったな。爆裂玉はまだまだあるんだよ」
なるほど、どうしてあの爆発を受けて無傷な俺を見てまだ余裕でいられるのかと思ったが、そんな愚かな勘違いをしているからか。
「それであとどれだけ身代わりの指輪はある? それがなくなった時がお前の命運が尽きる時だ! ほら、本当は恐怖を押し隠しているんだろう? ほら、今すぐ土下座して謝罪するなら苦しまずに殺してやるぞ」
「えーと……」
アホ過ぎて何から指摘していいのか分からない。
ここまでバカだと薫の暗示で頭が回転していないとか以前の問題である。
まあでも殺すと明確に発言してくれたのでヨシとしよう。
これで証拠映像としてもバッチリだろうし。
「分かった、最後に確認だけさせてくれ。お前らは俺達を殺そうとしている。その上で謝ろうが逃がす気はないってことで間違いないな?」
「当たり前だろう! お前達にはここで死んでもらうんだからな!」
「女だけは犯した後になるだろうけどなあ!」
「ヒヒ! 逃げられるだなんて思うんじゃねえぞ!」
取り巻き含めて全員がその気なようだ。
分かり切っていたことだがこれでもう十分だろう。
「そうか、分かった」
だからもう遠慮する必要はない。
「じゃあ死ね」
最も近くにいた奴の首を刎ねた。
その首なし死体から血が噴き出る前にアルケミーボックスに収納することで血に汚れることも防止する。
「え?」
「お、おい。あいつはどこに行った?」
あまりに一瞬の出来事だったせいか俺以外にはそいつが音もなく消えたようにしか思えなかったようだ。
刎ねた首も愛華が見る前に収納したので分からないのも無理はないのかもしれない。
「お前、何をした!?」
「何をしたって見ればわかるだろう? D級さん」
森本修二を煽りながらまたもう一人を仕留めてボックスに収納する。
忽然と仲間が消える事態にようやく奴らも焦りが生まれてきたようだ。
「う、動くな! 動いたら殺すぞ!」
「どうぞ、ほら」
そんなことを言ってくる奴に向かって歩いて近付いていく。間合いに入ったら堪えきれない様子で持っていた槍をこちらの顔面目掛けて突き出してくるがあまりに遅い。
余裕で回避することも出来たがあえて攻撃をその身で受けてやった。
分かり切っていたことだがその槍の穂先は防御していないこちらの薄皮一枚すら破ることが出来ずに止まってしまう。
そのことに驚愕の表情を浮かべたまま何かを言う前にそいつを黄泉へと旅立たせる。
これで半分は仕留めたので残るは三人だけだ。
(あーなるほど。人間の死体が錬成肉になるのか)
こんな死体はボックス内にあっても邪魔なだけなので、処分も兼ねて解体してみたら思わぬ素材が手に入ってしまった。
動物などでは錬成肉にはならなかったのだが人間でなければダメなのだろうか。
「うわあああああああ!」
戦闘中だというのにそんなことを考えて呑気に考えていたら一人が逃げ出そうとしている。
そんなことを許す気はないので、アルケミーボックスから取り出した錬成水の蓋を開けると最近手に入れたスキルを使用した。
「水銃」
スキルに反応して錬成水が弾丸となって逃げだしている奴の足を撃ち抜く。
レベルⅠなので足が吹き飛ぶとかはなく、ふくらはぎ辺りに穴が開いただけだ。
(水銃レベルⅠでも弾となる水さえあればMP1で一発放てるからな。やっぱり錬成水を大量に抱えている俺とは相性が良い)
足を負傷して転んでいる奴は放置して最後の取り巻きへと向かう。
「お前、スキル攻撃できるか?」
「な、何を言ってやがる!」
「できるなら受けてやるからやってみろ。ないならこのまま殺すぞ」
「ひっ!?」
どうやら雑魚でもスキルは持っていたようだ。
奴の右手にどこからともなく発生した炎が集まって、それを纏った拳をこちらに叩きつけてくる。
「うーん、人間のスキルでもダメか。まあ椎平達に協力してもらった時もダメだったから分かってことだけどな」
魔物のスキルでは駄目でも人間ならまた別なのではと思ってスキルオーブを持った状態でその攻撃を受けてみたのだがやはりダメだった。ダンジョン内で敵対した相手なら違うとかもなさそうだ。
「このバケモノめ!」
そんな風に検証をしている俺に向かって森本修二は容赦なく爆裂玉を投げつけてきていた。
まだ近くに取り巻きがいるのにそんなのは関係ないと言わんばかりに。
「ったく、ひどい奴だな」
その爆発に巻き込まれて最後の取り巻きは全身大火傷を負って吹き飛ばされている。
あの重傷では助からないかもしれないな。
返り討ちにあうどころか仲間の攻撃に巻き込まれて死ぬなんてなんとも惨めな最期である。
「どうして、どうしてお前は生きている!?」
「威力不足。それ以外にないだろ」
その爆発を受けてもピンピンしている俺を見てようやく奴も理解したようだ。
自分が何に手を出してしまったのかを。
「バ、バカな!? このアイテムは試練の魔物にも痛手を与えた物のはずだ! 仮にお前のランクが下がっていなかったとしても直撃を受けて無事で済む訳がない!」
確かに試練の魔物にダメージを与えた威力ならば俺だって無傷では済まないだろう。
だが悲しいことに同じアイテムでも使い手が違えば効果も大きく異なるのだ。
「爆裂玉の威力は使用者の元々のステータス、具体的にはSTRとINTの合計値に依存する。お前、そんなことも知らないで使ってたのか?」
しかも俺の場合は錬成術師の時はジョブの特性での強化もあった。そういうのと比較して森本修二は足りないものが多過ぎるからこの結果は当然の帰結でしかない。
「さてと、覚悟はできてるだろうな」
人を殺そうと襲撃してきたのだ。返り討ちにされた時にどうなるかくらいは考えてきているだろう。
あるいはアホだから負けた時のことなんて考えてなかったのかもしれないが、そんなことはこっちの知ったことではない。
俺はこの茶番を終わらせるべく奴に向かって歩を進め始めた。
「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価をよろしくお願いします!




