幕間 道化の選択
お待たせしました。
ここから逆襲が始まります!
霊園ダンジョン。ここに奴はいる。
「修二さん、本当に副本部長に黙って動いて大丈夫なんですか?」
「うるさい! お前達は黙って俺の指示に従ってればいいんだよ!」
「いやでも……」
まだまだ不満そうな手下の様子に苛立つ。
どうして俺が正しいことをしようとしているのが分からないのか。
そうだ、俺は何も間違っていない。奴を排除することは何よりも優先されるのだから。
きっとまだ動くなと言っていた父もその成果を見れば考えを改めることだろう。そして優秀な息子を誇りに思うに違いない。
だから何も問題などないのだ。
「別に来たくないのなら来なければいい。ただしその時は俺と父親を敵に回すってことを忘れるなよ」
こいつらは探索者としては二流どころか三流以下。
探索者として稼ぐ方法も碌に知らず、父のような権力者に媚び諂うことでどうにかやって来たようなどうしようもない奴らだ。
「ま、待ってください! 分かりました、従いますよ」
だからこそこいつらのE級のライセンスなんて飾り物だ。それでもこれまで良い思いが出来たのは副本部長の父とその息子である俺の役に立ってきたから。
だから役に立たないのならその美味しい思いが続くことはないのは自然なことだろう。
それにこれまでにやって来た犯罪紛いの行為を揉み消してこられたのも父の権力があったからなのだ。だったらその恩に対して報いるために余計な文句を言ってないで黙ってその息子である俺の指示に従うべき。
「いいか、狙いは八代夜一だ。なによりも最優先で奴を殺せ」
「殺して良いんですね?」
「問題ない。ここはダンジョン内だ。人と魔物、どっちに殺されたのかなんて分かりやしない」
決定的な証拠さえなければ父の権力でどうとでもなるのだ。
これこそ権力者にのみ許された特権。選ばれし者だけが享受できる恩恵である。
「そうだ、何人か連れが居るそうだからもし女がいたら好きにしていいぞ」
「本当ですか!?」
「ああ、今回は特別に俺が味見する前にお前達にくれてやる。だからまずは確実に八代夜一を仕留めるんだ、いいな?」
「分かりました。へへ、今日は気前がいいですね」
別に気前がいいとかではない。
本来ならまずはこいつらの主である俺が先に遊ぶ権利があるのだろうが、今はそんな気分になれないだけだ。
今の俺の狙いは薫なのだ。それ以外はどうでもいい。
まずはあいつを手に入れることが最優先。
そのために俺はわざわざこんな辺鄙なダンジョンにまで来ているのだから。
そうしてグール共が闊歩するダンジョン内を捜索することしばらく、遂にターゲットを発見した。
(数は……四人か)
バレないように遠くからなので詳細は分からないが男が三で女が一のようだ。
こちらが俺以外に五人いるので数でも勝っている。
「女がいますよ。あれは俺達にくれるんですよね?」
「ああ、好きにしろ」
観察を続けるうちに女が前に会ったことのある生意気な口答えをしてきた奴だと気付いた。
確か父親に調べてもらった限りではまだG級の初心者だったはず。
その上、八代夜一はランク1に転落した相手だ。
いくら無能な取り巻きでもそんな相手に負けるほどではない。
しかも耳を済ませれば他の奴らもステータスカードを習得しに来たことが会話から窺える。つまり全員が雑魚であり格好の獲物でしかない。
(殺す……八代夜一は何としてでも殺す)
目標を視界に捉えたせいだろうか。自分でも抑えきれない殺意がどんどん増して呼吸が荒くなる。
その衝動に突き動かされるように俺は気付いた時には動いていた。
「死ねええええええええええ!」
懐からこの時のために用意していた爆裂玉を取り出して標的に向かって投擲する。
取り巻きが女だけは殺さないようにしていることなんてもうどうでもいい。
どうにかして一刻も早く奴を殺すことだけしか考えられない。
その思いが込められた爆裂玉は標的へと一直線に飛んでいき、俺の描いた未来の通りに奴の背中に当たって爆発した。
「ひゃははははは! やった、やったぞ!」
これで薫は俺の物だ。そうだ、誰にも渡さない。
「しゅ、修二さん!? 急に何を……」
突然の俺の行動に取り巻きも驚いてしまったようだ。だが今の俺は非常に気分が良いのでそんな生意気な態度も許してやる。
「ああ、悪かった。あの生意気な女も巻き込んで殺しちまったみたいだな。今度代わりを用意してやるから許せ」
「いや、それは有難いですけどそうじゃなくて……。ていうかあのアイテムは何なんですか? それに本当にあれで仕留められたんですか?」
「ハッ! あの爆発で生きている訳がないだろう? 少しは考えて物を言えよ」
もう終わったことなのにいちいち煩い奴である。
これだから無能は嫌いなのだ。
「爆裂玉。衝撃を加えると爆発するダンジョン産のアイテムだよ。主にD級以上のダンジョンでドロップするからお前らのようなライセンス詐欺している奴らなんかじゃお目に掛かれない代物かもしれないけどな」
「だ、誰だ!?」
そう言いながらもこの声には聞き覚えがあった。
だがあり得ない。仮にランク1になってからこれまでの期間で努力しても戻せるランクなど高が知れている。
その程度で爆裂玉のような上のダンジョンでドロップするアイテムの威力に耐えられる訳がない。
「てか、もしかしてそれって俺が借金の形として協会に預けている物じゃないのか?」
だが現実はそうでなかった。あの爆発を受けてもピンピンした様子で奴はそんなことを言いながらこちらに無造作に近付いてきた。
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