第十二話 呑気な襲撃される側
次は明日の8時の予定です。
襲撃されると分かっていたからこそ俺はあえてダンジョンに来ていた。
街中で襲撃されたら周囲に被害が出るからだ。
「本当に仕掛けてくるんですかね?」
なお恒例と言うべきか愛華も一緒である。
当初は襲われる危険があるから俺一人で行こうとしていたのだが、なんと話を聞いた愛華の方から付いていくと言い出したのだ。
しかもなんと付いてきたのは愛華だけではなかった。
「それでバカ息子。俺は一体いつになったら魔物を倒せるんだ?」
「まあまあ社長落ち着いて。楽しみなのは分かりますけど焦っても仕方ないでしょう」
社コーポレーションの代表取締役社長であり俺の実の父親でもある八代 明石と同じく常務を務める三木 慎吾という会社の中でもトップと言える重要人物の二人が何故かダンジョンに来ていた。
しかも息子にステータスカードを取らせる手伝いをさせようとする始末。
この人達、回復薬関連で今は死ぬほど忙しいはずではなかっただろうか。
「違うな。死ぬほど忙しいからこそ来る必要があるんだ」
「この先のことを考えればステータスカードだろうが回復薬だろうが、どんな手を使ってでも体力を増やすか回復する手段を確保しておかないといつか過労死しますからね。あはははは……はあ」
「ちなみに今日来られてない専務とか副社長も同じだからな」
「あー……なんか、すみません」
俺のせいで会社のトップ連中が死ぬほど忙しくしているのは間違いないみたいだ。
もっともその苦労に見合うだけの功績と稼ぎは得られる見込みだからそれ自体は問題ないと言う。
ただ普通の人間がこなせる仕事の量を超えてきていることだけが問題らしい。
だからこそこうしてステータスカードを習得することで少しでも体力を増やそうとしているのだとか。
「それにこの方がお前にとっても都合がいいだろう?」
「それはそうだけどさ」
第三者の視点から考えた時、社コーポレーションの社長と常務という重要人物がいる場所に襲撃を仕掛けた奴がどういう思惑だったと見られるか。
しかもそいつの影には帝命製薬などのライバル会社がいるとされているのだ。どんなバカでもその繋がりと関連性にはついて考えない訳がない。
その上で勘九郎や英悟によって着実に副本部長の悪事の証拠は集められており、襲撃の証拠も隠蔽させはしない。これだけの状況不利を覆せたら副本部長を素直に称賛するほどだった。
「てか、なんで社長はこれまでステータスカードを取ってなかったんだ? いくら忙しかったからって取る暇くらいは作れただろうに」
「俺だって取りたかったさ。でも副社長や常務に禁止されてたんだ」
「会社が軌道に乗る前ならともかく、周りから良くも悪くも注目されているのに社長である先輩をダンジョンなんて危険な場所に行かせられる訳ないでしょう。これまではそんな事をしても探索者として活動できなければ恩恵はそれほどではなかったですし、あの会社を乗っ取りたいと思っている相手に隙を見せるだけでしかなかったんですから」
先輩という言葉から分かる通り慎吾さんは親父の大学時代の後輩だったらしい。社コーポレーション設立の際にオヤジが半ば強引に前に勤めていた別会社からスカウトしたのだとか。
そのせいかプライベートではこうやって割と気安く話しているようだ。
「だがこれからはお前のおかげで良くも悪くもステータスを上げることが簡単になりそうだからな。そうなる前に取っておいて損はないって訳だ」
今すぐには無理だが将来的には試練の魔物のドロップアイテムを全て量産できるようにするつもりだ。その中には各種ステータスを上昇させるSTRアップポーションなども含まれる。
回復薬を含めたダンジョンアイテムの大半はダンジョン外では効果が半減することは知っているだろう。
だがそれ以外でもステータスカードを持っていない相手に使った場合はダンジョン内でも効果が半減してしまうという性質があるのだ。
だからそれを見越して早めに準備を整えておこうという考えなのだろう。
「それにお前はこの程度の襲撃なんて何の障害にもならないと言ってただろう。それともあれは嘘なのか?」
「いや、嘘ではないけどさ」
「ならいいだろ。ああ、安心しろ。襲撃者とその一派を潰すのには俺も全面的に協力してやる。そいつらにはこれまで散々邪魔されてきたからな」
「この通り一網打尽にしてやるって言って聞かないんですよ。本来なら社長の前に私と副社長が来るはずだったのに強引に捻じ込んだんですから」
まあ今の俺のステータスなら並の探索者なら10人だろうが100人だろうが問題ないのは本当だ。
襲撃者の中にそうではない俺でもキツイ敵がいないことは英悟達が確認してくれているので間違いない。
だから安全面では問題はないのだった。
それ以外の面では何か納得し切れない気がするのだけど。
「一応、表向きの理由としては探索者活動を応援している企業として社長自らステータスカードを習得するところを撮影して、世間へのPRとするってことになってます。それはそれで多少の効果はありそうですからね」
だから愛華と常務はカメラを持ってきているのか。しかもそれなりに高性能そうな奴を。
「ああ、愛華さんにはこの撮影の後にそのカメラは差し上げることになっています。なんでもお父様がカメラ好きとのことなので」
「ありがとうございます、三木常務。父は借金のせいで集めていたカメラとか全部売ったはずなので良いお土産になります」
君達さ、俺が言うのもなんだけどダンジョンに潜るのに楽観的過ぎやしないか。
「てか愛華。お前が付いてくるって言い出したのはまさかそのカメラ目当てじゃないだろうな」
「いやいや、流石に違いますよ」
「そうか……そうだよな。いくらなんでもそのカメラだけでは動かないか」
「そうですよ。何もなくても危険手当と特別手当が付けてもらえる上に、襲撃で怪我でもしたら見舞金と治療のための特別休暇までいただけるって話じゃなければ来ません。それに怪我しても量産に成功した回復薬で治してもらえるって話ですからね」
俺はこいつの金の対する執着を少し甘く見ていたかもしれない。
普通はそれで納得する方が少ないと思うのだが。
もっとも探索者として上を目指すのならそのくらいの度胸があった方が良いのかもしれない。
「それじゃあ行くとするか!」
何故か一番無力な社長が先陣を切ってダンジョンに入っていた。それに追従している二人も決して強くないのにどうしてそんなに恐怖を感じないでいられるのだろうか。
(……信頼されてるってことにしておこうか)
絶対に違う気がするがそう思っておいた方が精神衛生的に良い気がする。ここで真剣に悩んでもバカを見る気しかしない。
そんなこんなで俺達四人は何故か襲撃される気満々で、魔物が蔓延るダンジョンへと勇ましく進んでいくのだった。
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