第十一話 騒動の前兆
始まりは薫からの謝罪の連絡だった。
「ごめーん。ちょっとやり過ぎたかも」
「お前、何やった?」
こいつがこういう時は碌なことが起こった試しがない。
案の定、詳細を聞いたら勝手にやらかしてやがった。
「いや、普通なら暗示を掛けてもD級くらいの相手ならあそこまで効くはずなかったのに何故か滅茶苦茶効果があったみたいでさ」
「朱里達からの報告を聞いてないのかよ。あれはたぶん父親のコネだけでD級にいってるけど実際にはF級くらいの実力だって」
「えーと、本格的に協力するのが遅かったからまだそこら辺のことは聞いてないや」
そのせいで暗示の掛け具合を誤った結果、これから森本修二は俺のことを殺しに来ようとしているらしい。しかも周囲のことなんて考えていないようでダンジョン外とか関係なく。
幸いだったのは薫も暗示を掛けた手前、ヤバそうなら介入するべく監視していたことだろう。
まあその監視の目的の中に観客として楽しむとかもありそうだが今は言及しないでやる。
「襲撃する時期を少し早めるくらいのつもりだったのに、私もここまでの事態になるとは予想外だったよ。申し訳ない、早急に暗示は解いておくよ」
「いや、別にそのままでいいぞ」
「いいのかい?」
その程度の奴に命を狙われるくらい何も問題ない。
むしろこれからのことを考えればいい予行練習になるだろう。
なにより罠に嵌める練習としてももってこいの状況だし。
「こっちも副本部長を潰す準備が調ったからな。あるいはこの方が色々と早く済んで助かるかもしれん」
「悪漢に命を狙われているのにそれ以外の効率面での話を重視するなんて、流石は夜一だね。いい具合に頭がおかしい」
「言ってろ。てかお前も口では謝ってるけどそれほど悪いと思ってないだろ」
「あ、やっぱりバレてた?」
「バレバレだ」
この程度のことはこの変態と付き合っていく上で避けられないとずっと前から知っていた。
だからこれ以上の文句を言うつもりはない。
ただこれ以上の余計な手出しはしないように釘をさしておく。
「今回は大人しく観戦してろ。その方がお前にとっても楽しいだろ」
「そうだね、今回はそうしよう。その代わりと言ってはなんだが楽しい舞台を期待しているよ」
そんなふざけた言葉を残して奴は通話を切った。
「ったく、本当に自分勝手な奴だ」
これまでの自分の行いを思い返せば他人のことを言えた立場ではないかもしれないが、この場ではその事実は見ないふりをしておく。
「さてと、狙われてると分かっているならそれも利用しますかね」
森本修二の狙いは暗示によって俺の命なのは間違いない。
だけど残念。
その真実が必ずしも事実になるとは限らないのだ。
「あー社長。早急に手配してほしいことがあるんだけど」
息子の命が狙われていると知っても社長は欠片も慌てずにこちらの要求する物を揃えてくれた。
有難いけど父親としてはそれでいいのかと思わされる態度だ。
そのことを直接本人に言ってみたら、
「だったら少しは自制するということを覚えろ。このバカ息子が」
そう叱られて終わってしまった。
(とは言え、できないことを要求されてもなあ)
そんなことを思ってしまう俺は、やはり父親の言う通りどうしようもないバカ息子なのだろう。
こんな駄目な息子を持って苦労する父親には同情を禁じ得ない。
まあ原因の俺が同情したところで癇に障るだけだろうけど。
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