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第二章 継続する借金生活と霊薬騒動

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幕間 副本部長の焦りと誤算

次の更新は21時の予定です。


日刊ローファンタジーランキングで4位に入りました!

ここまで来たら上を目指すのみという意気込みです!


ここから第二章も終盤に入ってきます。

ざまぁをお望みのそこのあなた! もうそろそろですよ!

「くそ! 一体何がどうなっている!?」


 怒りのままに机を叩きながらそう叫ぶがその答えを持つ奴はこの場にはいない。


 普段は目の保養として傍に置いている見た目だけしか取り柄のない女秘書が思わずといった様子でビクリと体を震わせているが、それさえ気に障るくらいに苛立ちが抑えきれない。


 先週、社コーポレーションから体力、魔力、異常回復薬の三点セットが10本ずつ協会に売却された。


 その時から嫌な予感はしていたのだ。


 だからこそスパイとして送り込んでいる中川原や鳳などに調査をさせた。もしかしたら奴らが遂に回復薬の作成に成功してしまったのではないかと。


 だが二人からは今のところそういう話は聞いていないという報告しか返ってこなかった。


 だから疑心暗鬼が過ぎたかと思って安心したのに、次の週にまた同じ物が協会に売却された。


 それもまた来週にまた同じことが起こるらしいという情報まで付随して。


「どいつもこいつも使えん奴ばかりだ! 探索者風情ではまともにスパイすらできんのか!」


 これだから魔物という化物退治で稼いでいる野蛮人は信用ならないのだ。


 だから私のような知恵のある賢き存在が奴らのような低能を管理しなければならないというのに。


(中川原と鳳が偽の情報を掴まされているのか? それともまさか最初からこれが狙いで偽情報を流していた? いや、まさか探索者風情がそんなことできる訳がない!)


 これまで相手にしてきた探索者共はどいつもこいつも魔物退治やダンジョン攻略では優秀だったかもしれないが、それ以外ではてんで役に立たない奴ばかりだった。


 だからこそ賢い私が良いように利用してこられたというもの。


(そんな奴らにしてやられる? ダンジョン協会副本部長のこの私が?)


 そんなことは断じて認められない。

 これは偶然だ。そうだ、そうに決まっている。


(落ちつけ。仮に社コーポレーションが回復薬作成に成功したとしても私が失脚するほどの痛手にはならないはずだ)


 ダメージを負うことは避けられないだろう。だがそれでも全てを失うほどではないはずだ。


 そう、いざとなれば前の時のように身代わりを用意してそいつに全ての責任を取らせればいいのだ。


(こうなっては致し方がない。業腹だが社コーポレーションとの関係をどうにかして改善するしかないか?)


 現状では御曹司である息子に対して下した罰のせいで良好な関係とは言い難い。


 だがもし奴らが回復薬作成に成功した可能性を考えればそのままでは不味いだろう。良好とはいかなくても敵として見られない程度にはなっておきたい。


 そのためには探索者である息子に何らかの便宜を図ればいいだろうか。今の奴はG級に降格させられて苦労しているようだし、私が特例としてFかE級に戻してやると言えば感謝するに違いない。


(それでも修二と同じD級にはしないがな)


 よく分からないが修二としては奴より上の立場でいることは目的を果たすためには重要なようだからだ。少なくとも修二が気に入ったという女達を手に入れるまではそうしてやりたい。


 ならばそのことで奴がもっと上がいいなどと文句を言うのなら、早い内にD級に上がるように手配するとでも言って誤魔化せばいいだろう。あるいは修二の方をC級に上げるように画策するか。


 そんな風に今後の身の振り方について考えていた時だった。懐にしまいこんでいたスマホが鳴ったのは。


 通話主は中川原だった。


「なんだ? また回復薬作成の証拠は掴めなかったという情けない方向だったら聞く気はないぞ」

「これは手厳しいですね。もっともどうやら騙されてしまったらしい私や鳳君に反論の余地はないですが」

「ふん、自分の今後を考えるのならもう少し役に立つところを見せるんだな」

「そう言われるだろうと思ってとっておきの情報を掴んできましたよ」

「なに?」


 このまま苛立ちをぶつけてやろうかと考えていたがその言葉に思い止まる。


「証拠を掴みましたよ。しかもそれだけではなく回復薬作成に使われているアイテムと思われる物も確保しました」

「それは本当か!?」


 だとしたら話は大きく変わってくる。

 そのアイテムさえあれば我々でも回復薬が作れるかもしれない。


 秘書に聞かれては不味いので外に出して誰もいない状況で通話を再開する。


「すぐにでもそれを持ってくるんだ!」


 自分達で回復薬が作れるとなれば関係改善など考える必要もなくなる。


 それどころか更なる権力を得るための大きな足掛かりを手に入れたに等しい。


 絶対にその機会を逃してはならない。


「ええ、分かりました」

「よし、いいぞ。お前の細君についてもより一層の便宜を取り計らってやろう」


 そうやって奴にも褒美を与えようとしたのだが、その返事は予想もしていなかったものだった。


「いえ、それは結構です。もう妻は海外の病院に移動させていますから」

「なんだと?」

「妻のことを盾にすれば私のことをいつまでも好きにできると思っていたのでしょう? 残念でしたね。もう私にそれは通用しませんよ」


 妻だけでなく弱点となり得る親族などは既に日本の外に脱出させていると奴は語ってきた。


 私が気付かない内に奴も動いていたということか。


「ですので私があなたにこのアイテムを渡す義理はもう無くなっていると言ってもいい」

「ま、待て。分かった、何が望みだ」

「話が早くて助かります。このアイテムを盗み出した以上は私が裏切ったこともその内に発覚するでしょう。そうなる前に私も家族のいる海外に高飛びするつもりです。そうなる前に生きてくための十分な資金が欲しいところですね」


 こいつの目的は金か。

 素材を売るだけでは足りなかったとはがめつい奴だ。


 だがそれならやりようはある。


「それも出来れば足のつかないお金です。意味は分かりますよね?」

「……裏金を用意しろということだな」

「ダンジョン協会副本部長なら貯めこんでいるお金も少なくはないでしょう? それでこのアイテムを幾らで買ってくれますか?」


 探索者風情に良いようにされている現状は腹が立って仕方がない。


 だがここはその怒りを呑みこんでもそのアイテムとやらを手に入れなければならない。


「一億だ。一億でそれを買い取ってやる」

「ははは、桁を間違えていませんか?」

「効果が分からないアイテムにそれ以上の金が出せる訳がないだろう!」

「ではこの話はなかったことに。私からすれば買い手は幾らでもいるのですよ」


 本物だからこそ欲しがる勢力には困らない。


 奴はそう言って通話を終えようとするが慌ててそれは止めた。


「分かった! 十億だ。十億用意する。それで満足だろう!」

「もう一声欲しいですね。具体的には三十億ほどはいただきたい」

「それは高過ぎる! それにそれだけの額はすぐに用意できやしないぞ!」

「では特別に二十億なら売りましょうか。これ以上の値下げはしませんがどうしますか?」


 ふざけるなと言えたらどんなに良かっただろう。

 だがこれを逃す訳にはいかない。


 迷いに迷った私は最終的にその額で了承した。


 ただしそのアイテムで本当に回復薬が作れるのか確認することを条件として。


「では実演に関しては後日、私がそちらの目の前で行いましょう」


 その言葉でこいつが最初から私に協力するつもりなど全くなかったことに嫌でも気付かされた。


 むしろ奴は最初からこれを狙っていたのだろう。


 私からも社コーポレーションからも金や貴重な情報を毟りとるこの状況を。

 そのために奴は二つの勢力の間をうまく渡り歩いてみせたのだ。


(くそ、バカにしおって!)


 だがすぐに国外に高飛びする奴をどうにかする時間はないだろう。


 奴も報復を警戒しているはずだ。


 となればこの落とし前は社コーポレーションにつけさせる以外にない。


(八つ当たりだろうが何だろうが知ったことか! それに回復薬を作れるようになるのなら奴らは競合他社となる。どちらにせよ敵になのだから潰すことに問題はない)


 半ばそうやって強引に納得して私は次なる手を打つために動き出した。


「修二。お前がやりたいと言っていた八代 夜一の襲撃の件だが、これまで止めていたのを撤回しよう。これから奴らは完全な敵となるはずだからな。適当に痛めつけて思い知らせてやれ」

「……任せてくれよ、父さん。俺もそうしたいと思っていたんだ」

「ならばいい。盛大にやって奴らに痛手を負わせてやれ。ただしくれぐれも人目のないダンジョンなどでやって証拠を残すなよ」

「ああ、分かった……」


 近い内に私が許可を出すからそれまでは決して動かないように念押ししておく。


 修二はこれまで私の言うことには従ってきたからこれで問題ないだろう。


(そのアイテムとやらで回復薬が作れることが確認できたのならすぐにでも妨害工作を始めてやる)


 それも徹底的に。


 あるいはお世話になっている議員先生方にも協力を依頼すれば話が早くなるかもしれない。


 そうやって今後の計画を練りながら私はどうやって消費した裏金を補充するかの考えを巡らせていった。


 息子の様子がどこかおかしかったことなど気付きもせずに。

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[良い点] 飯が旨い!
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