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[書籍第2巻、4月18日発売!]隻眼錬金剣士のやり直し奇譚-片目を奪われて廃業間際だと思われた奇人が全てを凌駕するまで-【第4回HJ小説大賞 年間最優秀賞受賞!!!】  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中
第二章 継続する借金生活と霊薬騒動

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幕間 道化は自ら舞台に上がり、観客に踊り狂わされる

 ここ最近、狙っていた女の一人と遂にコンタクトを取れた。


(しかも最初からディナーのお誘いで、しかもその後に二人で飲みに行く約束まで取り付けられたんだ。これはもうその後まで確定だろ)


 相手がグループの場合は、一人目さえどうにかなれば後はその伝手を使って他も芋蔓式に手に入れられる。これまでだってそうやって来たのだからその方法くらい心得ている。


 初めの内はあまり乗り気ではなかった反応だったのだが、やはり父親のことを出すのは探索者相手には有効なのだろう。いくら魔物の相手ばかりしている野蛮人の探索者でも、協会の副本部長とその息子と関係を持てる機会が貴重なことくらいは分かるらしい。


(野蛮人でも上の探索者は見た目が整っている奴が多いからな。手を出す相手としては申し分ない)


 ステータスは様々な面で身体や精神を強化する効果があるとされているが、その影響なのか級が上の探索者ほど美男美女が多い傾向にあると言われている。


 まあ少なくとも女なら肌の張りや綺麗さなどはステータスで良くなることは立証されているようなので、そういう影響があるという話もあながち嘘ではないのだろう。


 俺としては好みの女が多いことは有難いし。


(普通の女は抱き飽きてきたからな。そろそろ大物狙いで行かせてもらうぜ)


 これまで手に入れてきた女はF級くらいまでのステータスの恩恵があまりない奴ばかりだった。


 だが今回は違う。


 日本ではそうそういないC級。世界でもその数はそれほどいないだろう相手だ。

 これを俺の物に出来たのならどれほどの優越感を得られるだろうか。


(気の強い女を屈服させるのは最高だからな)


 C級になるまで必死に努力したであろう相手。

 だが今夜、思い知るだろう。


 権力というものには幾ら鍛えたところでどうしようもないということを。しかも俺のように形だけで探索者活動なんて女を手に入れるためだけにやっているような奴に思い知らされることになる。


(くくく、最高だ。やっぱり真面目に探索者をやるなんてバカがすることなんだよ)


 だが世の中にはINTとやらが高くてもそんなことも分からない奴らばかり。


 どうやら俺のような生まれ持った頭の良さを有する相手と、そういった付け焼刃の知能しか持たない奴らでは歴然の差というものがあるらしい。


 しかしそれは仕方のないことだ。世の中は俺のような才能も権力もある奴が全てを手にするようにできている。そしてそれ以外の奴らはそれを羨ましがることしかできないのだ。


「ああ、待たせてしまったかしら?」

「いや、俺も今来たところですよ」

「ふふ、優しいんですね」


 約束していた時間に現れた相手の毒島 薫は実に美しい女だった。


 これほどまでの美貌を持つ相手は俺でも中々見たことがないかもしれない。それこそテレビに出るような芸能人クラスの美人であるのは疑いようもない。


(この美貌なら男でも女でも寄ってくるだろうさ。だけどそれも今日までだ)


 それを利用して色々と遊んでいるという噂だが、それは俺のような本物の男というものを知らないからだ。それを今日は嫌というほど教えてやるとしよう。


(男だろうが女だろうが薬を盛っちまえばどうとでもなるんだしよ)


 そんな考えは欠片も表に出さずに予定していた高級レストランにエスコートする。


 そこで羽織っていた上着を脱いだことで発覚したが、こいつは思っていた以上にスタイルが良かった。


 野蛮人のくせにこういうドレスを着こなしているのも評価する点だが、やはりそのドレスの胸元を盛り上げている部分が最高だ。


(くくく、後でたっぷり味わってやるからな)


 早くそうしたいが焦りは禁物だ。

 今回ばかりは慎重に確実に物にする。


「それにしても修二さんは随分とこういうお店にも慣れているみたいですね。私は正直慣れていなくて。もし無作法があったらごめんなさい」

「そうですか? まあ親の仕事に付き合うこともありますからね。普通の人よりは慣れているかもしれません」


 さりげなく自分は普通ではないアピールを挟みながらも相手を気遣うのも忘れない。


「それに薫さんも慣れていないとは思えないくらい馴染んでますし問題ないですよ。そしてなによりあなたには他にない花がありますからね」

「まあ、お上手ですね」


 クスクスと上機嫌そうに笑う様子に内心でガッツポーズを取る。


 その後も会話は途切れることなく続いて、食後は予定していたように近くのバーで飲むことになった。ここのマスターは親父の知り合い、つまりは俺にとっても手下というわけだ。


「私、お酒はあまり強くなくて」

「大丈夫ですよ、ここには強くなくても飲みやすいお酒もたくさんありますから。ねえ、マスター?」

「ええ、度数が強くないお酒でしたらこの中から選んではいかかでしょう?」


 どれを選んでも問題ない。

 どの酒でも特別なお薬をマスターが入れてくれて段々と意識朦朧となるのだから。


 これまで何度もやってきたように。


「あら、美味しい。マスターのおすすめにして正解でしたね」

「ありがとうございます」


 疑うということを知らないのかこの女はあっさりとマスターお勧めの酒を飲んだ。


 これであと三十分もしたら薬の効果が出てくるだろう。そうしたら後は待ちに待ったお楽しみだ。


 だがそうなる前にその酒を飲みほした彼女はカウンター下で俺の太ももに手を置いてきて意味深長な視線を向けてきた。その美貌と相まってか、まるで吸い込まれそうな不思議な視線だ。


「ごめんなさい。美味しいお酒だったから飲み過ぎてしまったかも」

「大丈夫ですか?」

「ええまだ大丈夫。でももしよければどこか休めるところに行きませんか? 二人きりになれるところでゆっくりとお話もしたいですし」


 そうか、最初からこの女もそのつもりだったらしい。だったら話は早い。


「ええ、勿論ですよ」


 冷静にそう答えているが念願のその身体を貪れることに興奮したのか、心なしか身体が熱くなっている気がする。


(いかん、いかん。まだ焦るな。慎重を期してホテルに着くまでは紳士として振る舞うんだ)


 最後の最後で台無しになるのは絶対に避けなければならない。


 と言ってもこの女はいつの間にか俺の腕に抱き着いて、その不思議なほど熱い視線を俺に向けてきているから問題はないだろうが。


 そう何も問題ない。


 その眼を見ていると何故か頭がボーとしてくる気がするけど、それも大した問題ではない。


 彼女の言うことは全て聞いてあげなければならないのだから。


「マスターも今日のことは他言しないでくれますか? 恥ずかしいので」

「……勿論です」

「たとえ誰に言われても、何があってもですよ? あなたは何も見ていないし聞いていない。私と彼がここに来たことも忘れてしまう。隠し撮りしているカメラの映像も消しておくこと。いいですね?」

「……ええ、分かりました」


 何故だろう。彼女の言うことを聞くことが正しいはずなのに違和感がある。

 マスターがあんな風にボンヤリとした表情をしているのは見たことがないからだろうか。


「おっと、腐っても探索者か。多少は抵抗できるみたいだね」


 抵抗とは何のことだろうか。

 それについて考えを巡らそうとしたがそれはできなかった。


「まあこの程度では誤差でしかないけどね。ねえ、修二さん。あなたは私のことを手に入れたいのでしょう? 凌辱したいのでしょう? 隠しきれていないその欲望のままに」

「……ああ、そうだ」

「その願いを叶えてあげてもいいわ。けどそのためには一つだけやらなければならないことがあるの」

「やらなければならないこと……?」


 彼女の手に入れるためにはそれをやらなければならない。

 それは全てに優先する。何をしても達成しなければならない。


「毒島薫は八代夜一を密かに狙って……じゃなくて想っている。だからあなたは本当の意味で私を手に入れるために邪魔者を排除しなければならない。いい? 誰に制止されてもあなたは止まってはいけないの」

「俺は止まってはいけない。誰の命令に背いても成し遂げる」

「そうよ。それでいいの。きっとあなたのお父様も邪魔者の排除を望んでいる。だからあなたは何も臆することなく、隠すことなく行動するの。それがあなたにとって何よりも優先すべき正しいことなのだから。いいわね?」

「……分かり、ました」

「これで良しと。あとはこいつの下手な行動を逆手にとった夜一が処理するだろう」


 何が良いのだろうか分からない。

 だけど何故か彼女の声を聞くだけで心地よい。


「さあ、道化は道化らしく愚かに踊ってみせてくれ。その破滅ぶりを見てこちらを楽しませてもらうのだから」


 気が付くと俺は毒島薫を連れ込む予定のホテルのベッドで目が覚めた。


(昨夜は何を……いや、そうだ。俺はあの女に薬を飲ませてここに連れ込んだったな)


 そして思うがまま、欲望のままに奴の身体を楽しんだのだった。

 その記憶もしっかりと覚えている。


 控えめに言って最高だった。


 高位の探索者を好きにできる優越感もさることながらその快楽はこれまでにないもので脳裏に焼き付いて離れない。


 そしてもう一度、その身体を味わうために俺がやらなければならないことがあるのだった。


「八代夜一を排除する……」


 そうだ、薫を本当の意味で俺の物にするためにはそうしなければならないのだ。


 妙な焦燥感と共に俺はそのことを自覚する。

 それが誰に植え付けられたものかなんて考えもせずに。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 教わらなかったのか? なぜ悪い子に育っちゃいけないか、その理由を。ウソつき、卑怯者……そういう悪い子どもこそ、本当に悪い大人の格好の餌食になるからさ!
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