第五話 簡易錬金モノクルと簡易錬金釜
錬金のレベルがⅢにあがったということは錬金剣士のジョブレベルもⅢとなったということだ。
ジョブもスキルもレベルが上がることで新たな効果が発現することがある。
レベルⅡの時にはなかったが今回にはそれがあった。手に入ったのは二つのレシピだ。
ただのレシピではない。特別でジョブレベルを上げることでしか手に入らない貴重なものである。
「それがこの簡易錬金モノクルと簡易錬金釜というものなんですね」
信頼できる人物しか入れない研究室の一角で外崎さんに俺はその実物を見せていた。
「そうです。錬金モノクルは装着者に簡易的な錬金眼スキルを付与できます」
「おお、これは面白い感覚ですね。でも確かに頭の中にレシピとやらが入ってきました」
実際にそれを着けて回復薬を見てもらうことでこの言葉が偽りではないことを確認してもらう。
ただ残念だったのは簡易という言葉通りレシピ化できるものは限られている。
現状では中位以上の回復薬は無理だった。
また釜とモノクルのどちらも品質によって使用回数が決まるようで、それが尽きると自壊してしまうという点も留意しなければならない。
それでも低位回復薬ならレシピ化も作成も問題ないので使い道は幾らでも考えられるが。
「レシピが頭に入った状態で錬金釜を使ってもらえば外崎さんでも低位なら回復薬が作れるはずです」
簡易錬金釜は錬金スキルを持っていない人でも素材とレシピがあれば錬金が行えるようになるというアイテムである。ただしこちらも作れるアイテムは限られているが。
最初は俺が試してみようとしたのだが、モノクルも釜も錬金真眼やアルケミーボックスという上位互換があるせいか上手く機能しなかったのだ。
だから今回はそれを試してもらうために外崎さんに協力を依頼した。
そのために回復薬もそれを作るための素材も用意してある。
「釜の方も触れたら使い方が頭の中に流れ込んできましたね。やはりダンジョンのアイテムは興味深いものが多い」
「出来そうですか?」
「恐らくは。とりあえずやってみましょう」
そう言って外崎さんは素材を釜の中に放り込む。
その手に迷いはなくどうすればいいのかアイテムによって導かれているらしい。
何も入っていない釜に吸い込まれた素材は底に落ちる前にどこかへと掻き消えて見えなくなった。
それからしばらく外崎さんは釜に触れたままジッと中を見つめている。
やはり錬金術の秘奥を持つ俺とは違ってすぐに完成はしないようだ。
集中している外崎さんの邪魔にならないようにそれを見守ること少し。
何もなかった釜の中心にどこからともなく現れた光が集まっていく。
それが段々とよく見るポーションの容器を象っていって最後にひと際強く発光したと思ったらコロンと釜の底にそれが転がった。
「ふう、できました」
「お疲れ様です」
底に転がるそれは紛れもなく品質2の低位体力回復薬だ。
錬金真眼を持つ俺が言うのだから間違いない。
(ほぼ同じ材料で俺が作った時よりも品質が10ほど下がってるな。ってことはその10が錬金術の秘奥の補正値ってことか?)
「作ってみた感じはどうでしたか?」
「そうですね、思っていた以上に疲れました。錬金する物や素材によって時間や消費するMPが変わるようで、今回はMPを10ほど持っていかれましたね」
即座に、しかもMP1で錬金を行える俺が如何にズルいかという話だ。
ただ俺以外でも回復薬を作れるというのは今後のことを考えれば非常に有益な情報である。
「その疲労した様子だと連続して錬金させるのは止めた方がいいですね」
「だと思います。正直に言ってあの釜に魔力を搾り取られたって感じです。ランクが上がってMPの総量が増えればこれも軽減されるのかもしれませんが、私のようにMPの扱いに慣れていない初心者探索者は適度に休憩を挟まないと危険かもしれません」
外崎さんのステータスカードを確認したがHPは減っていない。
だから数回くらいなら連続使用しても命の危険はないと思うが、わざわざそんな無茶をさせる必要はないのでその言葉には従うべきだろう。
「それと聞いていた通り使用回数が減ってしまいました」
「それは分かっていたので問題はないですよ。ただそうなると早めにこれらも量産できるようになっておきたいですね」
簡易錬金モノクルの素材は錬金紙、錬成紙、錬金土、錬金砂、錬成砂の五つ。
簡易錬金釜の素材は錬金土、錬成土、錬金砂、錬成砂、錬金水、錬成水の六つ。
これらの内で紙と土はまだ俺が作成できないものだ。
今回は素材として集めてもらった中のアルラウネという魔物から土類が、ヘルスパイダーという魔物から紙類が解体できたので問題なかったが、消耗品であることを考えるとずっとそうするのは費用が嵩むことになる。
(Ⅳで土、Ⅴで紙が作れるようになるからそこまで行けばいいのか)
ただこの感じだとその辺りで簡易でない錬金釜やモノクルのレシピが手に入って、それを作るのは更に上の素材が必要になるというパターンな気がする。
あくまで予想だが先はまだまだ長そうだ。
「残るは耐久試験ですね。回数が零になったらどう壊れるのか確認しておきたいですし」
「分かりました。それじゃあ早速取り掛かりましょう!」
初心者には連続ではやらせない方が良いとその口で言っておきながらすぐに再開しようとするな。
これだから周りから研究バカと言われるのだろう。
ただ今回はその熱意に負けてそれからもう一度だけ錬金を行なってもらった。
そこでMPが足りなくなったのにそれでも自分で作った低位魔力回復薬でMPを回復してまでやろうとしたのは流石に止めたが。
もっとも後日、俺の監視がないところでそれをこっそり試したのはしっかりと叱らせてもらった。確かに気になる点だが無茶が過ぎるというものだろう。
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